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ハロウ・ストームの冒険 色烏飛行  作者: 白遠
それではみなさん
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(2)

 そのコートは血まみれになって切られてしまったものと本当にまったく同じだった。ハロウはそで口をかつてそうしていたように10センチほど外に折り返すと、カフスボタンをひとつ留めた。


「どうもありがとうございます」


 P.Pは満足そうにあごを上げて目を細めると、「どういたしまして」と言った。


「ハロウさんのお父様の経営する仕立て屋に問い合わせたところ、やはり型紙や素材設計が残っているということだったので全く同じものを作ったのです」


 ハロウはP.Pからの連絡を受けて、もう一度あの不吉な研究所に来ていた。治療のために切ってしまった黒いハロウのコートをP.Pは作ってくれていたのだ。連れて来てくれたアルフは検査室の硬いベッドの上に大きな体を丸めてぐうぐうと眠っていた。


「あなたたちには不利益を与えないというお約束でしたので」


 水槽を作り直して溶液を取り替え、液体を循環させていたパイプも消毒しなおさないといけないから、とりあえず全員研究所の外に出てくれ、とP.Pが言ってみんなを追い出したのは三日前のことだった。

 そのままP.Pは研究所の門を閉めて一人で引きこもってしまったので、アルフはストライクとストレインとハロウとチップを100キロ以上離れたルーの店に、ジョーと放心してしまったイグナシオを荒野の教会に送り届けなければならなかった。検査室の机の上には、もう画面の光を失って鼓動を留めた『聖なる柩』がまだ溶液にてらてらと塗れて置かれていた。


 もう神の鉄槌は失われたのだろう。


 ハロウは言い出そうかどうか少し迷いながら、生還して考えたことを話してみた。


「ついでと言ってはなんですが、一つお願いしてもいいですか」

「なんですか」

「僕の持ってきたパンドラ・ボックスですが………映像や音声がこちらには残っているのではないですか」

「もちろん残っています。映像はかなり小さく、完全な復元は難しいでしょうが、音声はそっくりそのまま保存されています」

「では、作っていただくことはできますか。パスワードなしで」


 P.Pは片方のまゆげを持ち上げ、左の手でモノクルに軽く触れた。


「あのからくり箱を再現して欲しいということですか」

「からくりは再現しなくてもいいです。ただ、あの映像と音声を復元して、見た目と中に入っていたメッセージだけそっくり同じパンドラ・ボックスを作ってもらえませんか。考えてみたのだけど、他にそれができる人はいないんです」


 P.Pは腕を組んでちょっとだけ目をつぶり、少し考えてから何度か頷いた。


「わかりました。やってみましょう。研究に協力してもらったお礼です。こちらからお願いもありますし」

「お願い?」

「そうです。Dr.A.Aからのお願いです。ちょっとした意見交換をしてほしいと」


 ハロウはちょっと頭が痛くなってきた。Dr.A.Aと話をするのはあまり気が進まない、心躍らないことだったのだ。でも仕方がない。P.Pの耳に入らないように一つだけゆっくりとため息をつくと、ハロウは覚悟を決めた。


「いいですよ」


 P.Pは黙って頷いてドアを開けると、ハロウに先に行くように手で示した。


「私のストックの部屋に行きましょう。Dr.A.Aはあなたと二人で話がしたいのです」






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