(1)
見た覚えのある天井だった。
何度か目をしばたいて頭をちょっと動かすと、白い枕のふちと枕もとの吸い口、そして屋根裏部屋の景色が見えた。窓から光が柱のように突き刺さっている。暖かい。光の向こうの暗がりで、誰かが動いていた。背が高い。
「まったくさ。俺んちは病院じゃないんだぜ」
どこかで聞いた声だった。その人影はぶらぶらとストライクが寝ているところまで歩いて寄ってきた。空を切って貼ったみたいな青い目が見えた。口元がきゅっと笑っていた。束ねられたモップみたいな長い髪の毛が、光を吸って燃えるように赤い。ストライクは真っ白な頭の中から、なんとか彼の名前を捕まえた。
「ルー」
それでやっといろんなことを思い出した。
「どうなったんだ?」
「『どうなったんだ』って。こっちが聞きたいね。なんだって俺がお前のケツにほくろがあることまで知らなくちゃいけなかったんだよ。2回目だぜ」
ルーが例によって木箱に腰を下ろし、長い足をくるりと組んで言った。ストライクは自分が毛布の中で素っ裸なのに気がついた。やれやれ。またか。
「二日前かな。アルフがなんかべたべたのびしょびしょになってるお前を持って帰ってきたんだよ。他に場所がないって言うからさ。あとは知らねえ」
「………俺だけ?」
「いや。チップも帰ってきたし、ハロウも。あとあんたの双子の兄貴だか弟だかとさ。チップは下で仕事してるよ。ハロウは家に帰ったんじゃないか。レモネード飲むか?」
差し出された吸い口を受け取って飲み込むと、体中が音を立ててその液体を吸い取ってしまった。ストライクはルーの話の続きを待った。
「チップはめんどくさがって話さないから、俺にはよくわかんないよ。でもま、何かが終わったみたいだね。もっと飲みたいだろ? 腹が減ってるんじゃないか」
もっと飲みたかった。でもそれよりもっと聞きたいことがあった。
「それで? おわり?」
なんと言ったらいいのかわからなかったので、やっとそれだけ言うと、ルーは軽く首をかしげてストライクの手から吸い口をもぎ取った。
「お前の兄弟ならもういないよ。昨日の午後に行っちまったよ」
こうなってみると、予想通りのような気がした。俺を殺すんじゃないのかレイン。どうする気なんだ。
「何か言ってた?」
「何も言わなかったよ。お前の兄弟無口だな。そっくりなのに似てないよ。出て行く前にこの部屋に入って来てさ、じっとお前の顔見てたな。『あんたと同じ顔だろ』って言ったらさ、『うん』って頷いて、それでもまだ見てた。ずいぶん長かったな。それから、『この間は窓割ってごめんなさい』って」
ストーブの上のやかんがしゅんしゅん言い出しはじめた。ルーは顔をそらし、窓のほうへ空色の目をちょっと上げた。
「……レモネード持ってくるよ。ポットで」
「うん」
「他には?」
「今は何もいらない……」
窓のガラスはそう言えばぴかぴかに透き通って、以前よりも強力に太陽の光を部屋の中に流し込んでいた。レインがあの日割った電球も新しくなったのだろう。
「あの……」
「ん?」
ストライクにはやっぱり何と言ったらいいのかわからなかった。
「レモネード、おいしいですってスゥさんに伝えて」
階段を降りかけたルーが立ち止まってストライクをまじまじと見た。
「おう、伝えておくよ」
「ありがとう」
「レモネード作ってるの俺だけどね」