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箱はまるでほぐれるようにはらりと開き、中から光があふれだした。まぶしさに目を閉じ、また開けると、そこにはちょうど親指くらいの大きさのリリィがにっこりと微笑んでいた。ハロウは何度もまばたきをしてその光景を見つめた。
『ハロウ』
ゆっくりリリィが呼びかけた。その高い声はか細かったが、それでもストライクとチップとそのほかの白い部屋があるこの一続きの廊下にいれば、必ず聞こえるだろうというくらいしんとして、厳かだった。
『ハロウ、こんにちは。お久しぶりね。お誕生日おめでとう。本当は自分であなたに渡したかったのだけど、わたし、具合が悪いのでママに頼もうと思っています。ちゃんとあなたに渡してもらえてるのかしら?』
「リリィ」
『ねえハロウ、私、本当にあなたとお誕生日をお祝いしたかったのよ。でもいけませんって、ママにもパパにもお姉ちゃんにもお医者さんにも言われたの。元気になったらねって。
でもね、私たぶんもう少しで神様のところに行く気がするのね。私、もう元気にはならないと思うの。あなたにももう会えないと思うのよ。だからどうしても、そこに行ってしまう前にあなたに言いたかったの。
私、あなたに会えて本当に嬉しかったし、あなたからもらったもの、何一つ忘れないわ。神様のところに持っていくわ。あなたの詩集もね。あなたは自分の詩集のことが好きじゃなかったみたいだけど、私はあなたの詩がとても好きよ』
小さなリリィはハロウの手のひらに乗ったまま、少し首をかしげてはにかむようにうつむいた。髪の毛がさらりと流れて骨ばった首筋をちらりと見せ、そのまま白い寝巻きに包まれた薄い胸の上に落ちかかった。白い額には青く血管が浮いて、目の周りに茶色にくまができているのがわかった。
『もっとたくさん言いたかったのだけど、忘れちゃったわ。お誕生日おめでとう、ハロウ。お見舞いにいつも来てくれてありがとう。あなたのことが大好きよ』
そして箱はいきなり光を放つのをやめ、今までホログラムでそこにリリィの残像を写していたレンズを、天井からの白い光に晒しながら沈黙した。