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 3人は夜の森をひたひたと歩いていた。黒猫が小さなランプを片手に持って先導する。なんだか知らないけどこの猫は付いてくることに決めたらしい。黒服の男は左手に小さめのトランクを持って、まるで喪中みたいに俯いて黙々と従っている。トランクは凝ったつくりでゼンマイや歯車が見え、どこから開けるものなのかよくわからない。ストライクはさらにその後ろからついて歩いていた。


 見ず知らずの俺みたいなやつに(自分に危害を加えたスリ師に)いきなり大金をかけて頼みごとをするなんて、よほど困っているのか、あるいはただの道楽なのか、本物のバカなのか。


「それにしても、あんた困らないのか? 有り金全部って、その後はどうするんだ? 他にアテがあるとか?」


 ストライクはかまをかけるつもりで声を掛けてみた。だってもしトランクの中身も金目のものだったら、それはそれで考えなければならない。


「無いですね。何も。一つあるけれど、それはパンドラ・ボックスが手に入ったらのことです」

「でも、金がないと生きていけないんだぜ。本当は何かあるんだろ?」


 こいつはもっと叩けるに違いないと踏んでストライクがたたみかけると、男は実にあっさりと、

「お金がないと生きていけないかもしれませんが、僕はそれでいいんです」

 と言った。


 ストライクにはそれがどういう意味なのかわからなくて、とりあえず話題を変えることにした。このことについてはまた後で聞き出すことにしよう。


「盗んで欲しいって言う箱とやらは、何か()()()()なものなのかい? 例えば……すごい宝石が埋め込んであるとか? 金でできてるとか?」

「とてもとくべつなものです。ただ、金目のものではないんじゃないでしょうか」


 ないんじゃないでしょうかってなんだ。


「……あんた現物を知ってるんじゃないのか?」

「僕も自分で買ったことがないのでどれくらいするものなのかわかりませんが、露天やおもちゃやさんなんかで買えるものだと思うので……」

「ま、小遣いで買えるくらいだよ。14,5歳の女の子が好き好んで買うようなもんだ。普通のパンドラ・ボックスならね」


 黒猫が口をはさんだ。


「はっきり言ってしまえば子供のおもちゃってこった。友達同士の間でひみつの伝言を伝えたり小物を入れてやったりするためのな。鍵つきのおもちゃ箱ってとこか」

「つまり、ただのおもちゃを一個盗んでほしいってことかよ?」


 ストライクの声が暗い森に風船が割れた音みたいにはっきり響いた。近くにいた鳥がざあっと飛び立った。黒猫の青年がきゅっと耳を伏せた。


「そういうことですね」


 男はストライクの方を見ようともしないで言った。


 本気なのかよ? なんだっていうんだ?


「でもよ黒服の兄さん、あんたその『子供のおもちゃ』に大金を払おうとしてるんだろ? それに俺が言えたことじゃないけど泥棒って言うのは、警官に下手すると捕まっちゃうくらいのことなんだ。何かあるんだろう?」


 たとえばその箱に入っている「ひみつの伝言」とやらがすごいものだとか。でかいダイヤモンドが入ってるとか。宝の地図が入ってたって構わない。


「なあ?」


 黒服の男は応えなかった。


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