(7)
次の日も朝からハロウは箱をいじっていた。だからハロウだけは結構暇ではなさそうだったが、ストライクとチップは本当にやることがなかったので、P.Pに言って昔のシネマをスクリーンに流してもらっていた。
「こんなのあるんだったら最初から出してくれよ」
「これは歴史的な資料ですから、まさか今でも娯楽として見る人間がいるとは思っていなかったんですよ」
シネマには美しい白黒のドレスを着た茶色の髪の女性と、ハロウみたいな服の男が出てきた。でも男の髪は金色に近い茶色だったし、コートも帽子も灰色だった。
「獣人がぜんぜん出てこねえよ」
「獣人が誕生したのは2216年です。このシネマは1964年のものです」
ハロウがよろよろと出てきたので、4人で(P.Pも暇だったようだ)そのシネマを眺めた。
「この女性は綺麗ですね」
「うん、カワイイな」
「背高い」
「エッダ・ヴァン・ヘムストラという女優ですね。この当時16歳です」
「そういやハロウのお母さんも女優じゃなかった?」
「そうですけど、僕、彼女の映画を全く見たことないんですよね」
「データを探しますか?」
「いらないです」
やがて夕食の時間になったが、P.Pは一緒に食べなかった。これはとても珍しいことで、例の犬みたいに律儀なワゴンが3人のための乾燥ケーキと配合を間違った風邪薬みたいな飲み物を運んできた。
「P.Pはどうしたんだろう?」
「呼んでみれば来るんじゃねーの」
「P.Pー」
言うなり空中にP.Pの映像が現れて、
[ちょっと今手が離せないので先に食べていてください]
と言って消えてしまった。
「おかしいな」
ストライクがさくりといつものまずいバーを齧った。チップは気乗りしないらしく、嫌々椅子に腰掛けると眉間にシワを寄せていつもの「食事」を見た。
「ん?」
「どうしたチップ。ルーのメシはないぞ」
「違う。これいつものと違うぜ。これ……何か変なものが入ってる」
「カビ?」
「違うけど、いつものよりもっと薬臭いよ」
その時すっとP.Pの実像の方が入ってきて、右手を背中に回すようにして真っ直ぐにチップを見た。
「チップさん」
「P.P、これは」
シュパン、という風を切るような音がして、チップの腹に注射器のようなものが突き立った。P.Pの右手にはとても大きな、狙撃手が持つような銃が握られていた。
「チップ! おい、P.P」
ストライクがP.Pに走り寄ろうとすると、足からがくりと床に崩れた。どうして。
「ハロウさん、食べましたか」
「食べてしまいましたね。どうしてこんなことをするんですか」
食べてしまいましたねじゃねえよ
どうしてそんなに落ち着いているんだよ
ストライクはゆっくり前のめりに倒れながら、やっぱりハロウは一回死ねと思った。チップは大丈夫なのか?
「ピピッ」
ハロウが椅子からがたんと落ちて倒れるのがストライクの目の端に写った。
「次の牌だよ、ストライク。でも薬の量を調整してあるから、一番面白い部分は君にも見られるだろう」
嫌な予感がした。