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(4)

 チップとストライクが仲良さそうに並び、狭いベッドを横に使って上半身を投げ出していた。チップはそれでも全身がベッドにかろうじて乗っている。


 二人ともふてくされているのだ。


 ハロウはさっきストライクが座ったスツールに座り、変な器具で口の中をほじくられながらかなり反省していた。「いたっ……」


「摂取完了」


 思っていたよりも融通の利かない、わけのわからないところに来てしまった。しかもストライクとチップまで巻き添えにして。


「検体1号の細胞移植が可能になるまであと1時間7分あります。どうしますか」


「検体1号……」


 あのあと3人が仕方なく廊下を戻ると、すでに白衣の少年はもとの椅子に腰を下ろして、無表情にハロウたちを待っていたのだった。


「まず、ここはどこで、あなたは誰ですか」


 ハロウが試しに聞いてみた。さすがにハロウにもあまりまともな反応が返ってこなさそうだということがわかってきていた。


「南東部ニンヘレン、北緯52度西経127度、旧カンクターコンプレクスです」

「工業地帯跡地なんですね?」

「工業都市として稼動していたのは134年前までです、検体2号。その後は生物学者アレックス・アンテノワ博士の研究施設として利用されています」

「生物学者アレックス・アンテノワ博士の研究施設。この広い建物が全部ですか?」

「はい」


 ストライクをちらりと見ると半分寝そうな顔をしていた。


「この建物のことはわかりました。(わかってないけど。)ではあなたは誰ですか?」

「私はフィリップ・プロトタイプ3062号です。アレックス・アンテノワ博士の助手をしています」

「では、アレックス・アンテノワ博士はどこにいらっしゃるんですか」

「ピピッ ここだよメフィースト・フェーレス」


 フィリップ・プロトタイプ3062号の顔がぐにゃりと奇妙に歪んだ。それまであどけないとすら表現できた少年の顔は、今や邪悪と言ってもいいほどに不気味に笑っていた。ハロウはその変わりように息をのんだ。


「わしがアレックス・アンテノワ。Dr.A.Aだ。よく来てくれた。せいぜい楽しむがいい」

「ピピッ」

「Dr.A.A、メンテナンスの時間です。回路をシャット・ダウンします」

「ピピッ了解。また合おう」

「ピピッシャットダウンピッ完了ピピッ」


 フィリップ・プロトタイプ3062号は一瞬目を見開き、ぴたりと静止すると、2度ゆっくりと瞬きをした。


「今のがDr.A.Aです。毎日15時から17時までメンテナンスを行いますので、Dr.A.Aの稼動は2時間後になります。他に何か?」


 ハロウは聞きたいことがありすぎてなんだか疲れてしまった。


 ストライクはすでにうつらうつらと舟をこいでいて、チップも同様だった。


「ど……どうして……Dr.A.Aのメンテナンスとは何ですか? Dr.A.Aは何かその……ご病気で治療をなさっているということですか?」

「文法が間違っています、検体2号。翻訳します。Dr.A.Aのメンテナンスとは病気治療のことであるか、ということでよろしいでしょうか」

「(とりあえずは)よろしいです」

「Dr.A.Aは高齢のため、一日に2時間肉体をケアする必要があります。特に感染症、腫瘍の形成を含む肉体の損壊がない場合も、代謝によって発生する老廃物の除去のため、同様の処置が必要です。それらの処置を正常に行うことを私たちは『メンテナンス』と呼んでいます」

「はあ……。高齢のため? 失礼ですが、あなたはおいくつですか?」

「私は14年前に心肺機能の活動を開始しました」

「それはわかりやすく言うと14歳ということでよろしいでしょうか」

「一般的な生物にあてはめるとそういうことになります」

「一般的な生物に当てはめると、14歳という年齢はその……『メンテナンス』をしなければならないほど高齢ではないと思うのですが」

「Dr.A.Aは2545年生まれです。183歳です。十分に高齢です。参考までに現在の人間男性の平均寿命は57.6歳です」

「でもあなたは14歳ですよね?」

「はい。Dr.A.Aは183歳です」


 ハロウが頭を抱えると、フィリップ・プロトタイプ3062号は、助け舟を出すように言った。


「認識に齟齬があるようです。Dr.A.Aは一時的に私の身体機能を支配しますが、Dr.A.Aの肉体と私は別です」

「いちじてきに? あなたの身体機能を支配するというのは?」

「私の脳にはチップが埋め込まれており、そのチップでDr.A.Aの意思を受信し反映させます。メンテナンス中にDr.A.Aの意識は睡眠状態となるため、受信機能を停止します」

「そうですか。(何がそうなんだかわからないけど)」

「だって、睡眠状態の意識を反映させたらどうなるかわかりませんからね」


 フィリップ・プロトタイプ3062号はそう言ってにこっと笑った。できのいい子役がやってみせるような角度まで決まってるみたいな笑顔だった。


 ハロウはそこのベッドの上で寝ている猫のチップが頭の中にいるのを想像した。そっちのほうがずっとすてきなような気がした。





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