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(1)

 騒がしい声にストライクは目を覚ました。すでに昼をまわっているようだった。でも窓から見える景色は雪で、実際に何時なのかさっぱり見当がつかない。


「研究に必要なのです」

「ですから、これは動かしてはいけないものなのです。お渡しすることはできません」


 珍しく厳しいイグナシオの声が聞こえた。


「もー! 帰ってって、いってるじゃない。変なひとね」


 礼拝堂ではジョーまでが小さなこぶしを振り回して怒っていた。


「何……」


 ストライクのねぼけた頭でも、誰だか知らない変なのが紛れ込んでいるのがわかった。ハロウはイグナシオとジョーと変なのが言い争っているのを少し離れたところから腕を組んで眺めている。もうすっかり旅の支度を整えて、例の黒いコートにシルク・ハットだった。ストライクはとりあえずハロウの隣に行って声を掛けた。


「何あれ?」

「なんだか、先ほどあの人が来て、聖なる柩を渡してほしいとイグナシオに言っているんですよ」


 改めてその誰だか知らないへんなのを見てみた。


 それは一人の少年だった。少年にしか見えない。年は13,4か。もう少し大きいか。明るい栗色の髪で、左の目にモノクルをつけている。なんだってあんな役にたたなそうなもんをつけているんだろう。左目だけ近眼なんだろうか。わかんないけど。

 目の色も髪の色に合わせたみたいな栗色だった。あまりにその瞳が透き通っているので非人間的なくらいだ。何よりストライクがその人物を不信に思ったのが、白衣を着ていることだった。学校じゃないんだぜ。それとも学校のお勉強で聖なる柩とやらを借りに来たんだろうか。


「どうしても貸して頂けないのですか」

「いけません。それは決まったことなのです」

「ピピッこれだから宗教などと言う愚にもつかぬ妄想に従事している輩は頭が固くて困る」

「ちょーっとお! あなた、失礼よ! 牧師さまに、どうして、そんなこと言うの!」

「ピピッ何か条件があるなら提示してください。それが実現可能なものであれば検討いたします」


 ストライクは隣のハロウに小さな声でこっそりと言った。


「なんかあいつ本当に(・・・)おかしくね?」


「条件も何もありません。できません。お引取り下さい」

「ピピッ研究のために暫く貸してくれればそれでよいのだ。こんなところにそれを置いていたところで何の役にも立たない」

「ピピッそれを貸していただくことが科学の発展に繋がるのです」


 イグナシオは頑として首を縦に振らない。


「駄目です。本当に駄目です。何と言われましてもお貸しすることはできません」

「帰ってちょうだいー」

「ピピッDr.A.A、交渉は不成立」

「ピピッ仕方がない。別な方法を取ろう。帰るぞP.P」

「ピピッ了解しました」


「ちょっと変わってますよね」


 ハロウが応えた。

 ちょっとじゃないだろあれは。


 どこから出ているのか、発話のたびに「ピピッ」という軽い機械音が聞こえて、まるで二人で会話しているようにその少年は一人で話している。


「おかしいって。気味わりいよ」


 白衣の少年は扉から出ようとしてはたと足を止め、真っ直ぐにストライクを見た。


「げ」

「ピピッ複数の街で軽犯罪者リストに載っている少年を発見。Dr.A.A、どうしますか」

「ピピッデータを開示せよ」

「ピピッ了解しました。登録名はストライク。北東部ケットローグで窃盗2件、同じく北東部ヴァンダルグ不法侵入一件、中央部ネインスメント窃盗一件。ヴァンダルグまでは3人の共犯者と共に逮捕されていますが、ネインスメントでは単独です」

「ピピッ他に情報は」

「ピピッストライクとはリンクが不明ですが、隣にいる黒尽くめの青年は現在、ロメオ・オーギュスト・オルフェリウス氏の部下のナニー・マーガレット・スミスから捜索願を出されている詩人のハロウ・ストームです」

「ピピッ興味深い取り合わせだ、P.P。他に」

「ピピッ窃盗犯ストライクの右足に刺創。増殖期に入っていますが、完治していません。また、左頬に切創が見られます。こちらは痂皮を形成」

「ピピッ他に」

「ピピッご報告すべきことはありません」

「ピピッよしわかった。サンプルがほしい。確保せよ」

「ピピッ了解しました。交渉を試みます」


 変態だ。


 でもその変態はつかつかと歩み寄ってストライクに向かって言った。


「あなたのその傷を完治させることができます。復元率は99.9%です。その代わりに体細胞組織を提供して頂きます。あなたのデメリットは0です」

「はぁ?」


 少年は間近で見るとハロウみたいに無表情だったが、ハロウよりもずっと無機質な感じがした。機械仕掛けみたいにストライクの腕を掴んだ。


「行きましょう」

「ピピッ待て、サンプルは多いほうがいい。そこのメフィースト・フェーレスにもご同行願おう」

「ピピッ了解しました。ハロウ・ストームさん、ご同行願います」


 ハロウはちょっとだけ考えたようだった。


 でもストライクにとってはほとんど即答だった。


「わかりました。ご一緒しましょう」


「まっ……」

「俺も行くわ」


 そして天井からチップが飛び降りてきた。

 なんで猫はいつも高いところにいるんだろう。




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