(7)
天井には予想通り豪華な細工がなされていた。天使や聖者の白い彫刻がぐるりと礼拝堂を見下ろし、そのさらに上には創世のものがたりが遠く描かれている。
「すごい」
ストライクは漸くひとりでも歩くのには困らなくなった足で礼拝堂を一周した。
「この教会は第4次大戦のすぐ後に建てられたものです。コロニーから人が絶えてもこの教会にだけは絶えず牧師が送られ、ずっと守られてきました」
「築500年ということですか」
ハロウは礼拝堂の中央に立って天井を見ていた。イグナシオが長いベンチの向こうから「そのとおりです」と頷いた。
ストライクとハロウとチップは、結局あれから一週間、ストライクの熱がすっかり引いてしまうまでずっとこの教会にいた。なにしろチップはともかくあとの二人には行くところがなかったのだ。
「でもどうしてそんな無駄なことをするんだ? 無駄って言うか……だって誰も礼拝にこないだろ」
ストライクが説明しているイグナシオを振り向くと、それでもイグナシオはやさしく微笑んだ。
「そう。もうここに礼拝にいらっしゃる方はおられません。でもここには『聖なる柩』が安置されているので、私たちは神のしもべとしてそれを永遠に管理し、守らなければならないのです」
「せいなるひつぎ?」
「ストライクさん、この教会は『ミュステリオン』と呼ばれているのです。その意味は」
イグナシオが長いローブのすそを優雅に滑らせながら、まだ午前のやわらかい日差しの中に収まった。
「神の恵みを人が手にし身に受けるということです。『聖なる柩』はその『人が手にした神の恵み』そのものであると伝えられています」
何言ってんだかぜんぜんわからないけど、イグナシオはまるでその天井から覗いている聖者の彫刻がひとつ降りてきたみたいだった。
「だからこの教会はとくべつな教会なのです。礼拝に訪れる方がどなたもいらっしゃらなくなっても、たとえば私が神のみもとに召されても、また次のしもべがこの教会を守るでしょう。『聖なる柩』をご覧になりますか?」
「へ?」
「こちらへどうぞ」
イグナシオは、舞台のように一段高くなっている祭壇の燭台よりもさらに奥に二人を手で招いた。
初めて来た日に行き止まりの壁だと思っていたそこは白いカーテンで、3重のカーテンをくぐり抜けると、墓所のような狭い、天井がアーチ型をした部屋があり、その真ん中の台の上に、ちょうどハロウのトランクと同じくらいの、何か金属でできた箱が置かれていた。