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(1)

 その時ハロウ・ストームが思ったのは、はたしてどこから首をそれに入れるかということだった。


 シャンデリアにうまく縄がかかったところまでは良かったのだが、実際に自分がそこにたどり着く経路というものがどうしても見つからなかったのだ。

 ハロウの体はそこにすでにぶら下がっている縄がそうであったようには軽くもないし、投げ上げてくれる人もいない。


 結構難しいものだな。


 かといってナイフで手首やら首やら腹やらを切る気もない。痛そうだし血は嫌いだ。考えるだけで貧血を起こしそうになる。そもそも手元にナイフがない。


 さて、それなら。


 シャンデリアの下、見事な黒々としたグランドピアノ(だが埃は1センチほど積もっている)の上に立ってハロウは考えていた。正面の大きな重い樫の扉には、先日からのハロウの奇行に何かを感じ取ったナニーが、外からキッチリと鍵をかけてしまっていた。軟禁状態というわけだ。


 本当に感心するけど、ナニーはどうしてあんなにカンがいいんだろう。


 後はシャンデリアのさらに上にある通気孔がわりの丸い天窓と、かつては貴賓室であったこのだだっぴろい部屋を取り囲むはめ込みのステンドグラスだけ。

 ステンドグラスには昔話の挿絵のような月や太陽、花や獅子や鳥のモチーフが刻まれている。一番大きい部分には黄色の髪の姫君と姫君に跪き手を取る騎士の姿がある。


 さて。


 ハロウはもう一度シャンデリア(とそれにぶら下がる首吊り縄)を見上げ、もう一度回りを見渡すと、ぱたぱたと体についた埃を払った。きちりと着込んでいた黒いコートが灰色になりそうなほどだった。グランドピアノを磨いておくべきだったのだ。それでもまだ兄から誕生日にプレゼントしてもらったシルク・ハットは汚れていない。


 吐く息が白くなってきた。これは自主的に暖炉の火を消していたことによる。凍えたくはなかった。まだ体が温かいうちに。


 ハロウはグランドピアノに添えられていた(そしてかつて彼の母親がそこに座ってピアノを奏でていた)重い黒檀の椅子を振り上げ、振り下ろした。





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