表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/81

(1)

 ストライクはハロウとチップに挟まれて、ちょうどフロントガラスの真正面にいたので、うっすらと雪の積もった、青い夜の中を、アルフの運転する車が潜り込むように進んでいくのがよくわかった。


 雪はガラスに迫っては左右に逸れ、まるで次から次に白い大きな花が暗闇に溶けていくみたいに見える。チクタクとワイパーが時計のように鳴っている。


「ところでストライク、その足はどうしたんだよ?」


 アルフが不意に声を掛けた。


 チップから手渡された服を着てみると、なんとアイロンが当たった上に、スボンの矢が刺さったはずの穴がきれいに縫ってあった。スゥさんがやったんだろう。美人な上に器用なのか。ルーが羨ましい。


「刺さったんだよ。矢が」

「矢? あの弓矢の矢? アーチェリーとかの矢?」

「そう。その矢」

「間違って(まと)の前でも歩いてたのかよ」


 アルフがバックミラーからニヤニヤしていた。くそ。


「なんか変なヤツが出てきてよ、いきなり撃ってきたんだよ」


 チップは自分が射られたわけでもないのにプンプン怒りながら言った。


「こいつは知り合いとか言ってたけどさ。さっきルーの店に来たのもそいつなんだろ? 一体なんなんだよ」

「ふーん」


 ストライクが黙り込むとアルフは下にずれているサングラスにちょっと触れた。夜なんだしずっとずらしてるなら外せばいいのに。


「弓? で矢? ねえ。そいつはアレっぽいな。最近いわゆる裏街道の皆さんが矢で暗殺されてる話」

「なんだそれ?」

「今時さ、弓矢でアンサツなんて流行んねえだろー。でもここ1,2年かな。ナントカカントカの親玉とか、ウンタラカンタラの若様とか、そーゆー怖いお兄さんたちが矢でポックリ殺されて道に転がるってのが何件かあってな。ま、そういう世界じゃ珍しい話じゃないんだろうよ。でもなかなか弓矢使うやついないだろ。だからその『魔弾の射手』は誰なのかってウワサになってるんだ」

「へー、そういえばそんな事件あったような気もするな」

「あったんだよ。キャリーが特集記事組んだよ。なんもわかんなかったらしいけどな。わかったのは異様にウデがいい射手だってことくらい。ぜんぶ一撃必殺だったらしい。な、ストライク、知り合い?」

「知り合い」



 フロントガラスのほかの窓はすっかり曇ってしまっていた。ワイパーの動く音が聞こえる。


「俺を追いかけてきてるのはその魔弾の射手だ。降ろしてくれてもいいぜ」


 すれ違う車のヘッドライトが車の中をなめるように照らしていく。アルフが方向指示器を付けながら言った。


「チップは本当に面白いの拾ってくるようになったよなあ」

「なんでそんなヤツに追われてんだ?」


 ストライクは言いたくなかったので黙っていた。全然会話に参加しないハロウを見てみると、ハロウはハロウで箱を一心に見つめて何か考えているようだった。


「ま、殺されないうちにどっか行こうぜ。どこに行く?」

「どこかのおもちゃ工場に」


 いきなりハロウがとてもはっきりとした声で言った。


「できればパンドラ・ボックスを作っているような所に。お願いします」


 ストライクは「降ろしてくれ」と言いそびれた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ