(1)
ストライクはハロウとチップに挟まれて、ちょうどフロントガラスの真正面にいたので、うっすらと雪の積もった、青い夜の中を、アルフの運転する車が潜り込むように進んでいくのがよくわかった。
雪はガラスに迫っては左右に逸れ、まるで次から次に白い大きな花が暗闇に溶けていくみたいに見える。チクタクとワイパーが時計のように鳴っている。
「ところでストライク、その足はどうしたんだよ?」
アルフが不意に声を掛けた。
チップから手渡された服を着てみると、なんとアイロンが当たった上に、スボンの矢が刺さったはずの穴がきれいに縫ってあった。スゥさんがやったんだろう。美人な上に器用なのか。ルーが羨ましい。
「刺さったんだよ。矢が」
「矢? あの弓矢の矢? アーチェリーとかの矢?」
「そう。その矢」
「間違って的の前でも歩いてたのかよ」
アルフがバックミラーからニヤニヤしていた。くそ。
「なんか変なヤツが出てきてよ、いきなり撃ってきたんだよ」
チップは自分が射られたわけでもないのにプンプン怒りながら言った。
「こいつは知り合いとか言ってたけどさ。さっきルーの店に来たのもそいつなんだろ? 一体なんなんだよ」
「ふーん」
ストライクが黙り込むとアルフは下にずれているサングラスにちょっと触れた。夜なんだしずっとずらしてるなら外せばいいのに。
「弓? で矢? ねえ。そいつはアレっぽいな。最近いわゆる裏街道の皆さんが矢で暗殺されてる話」
「なんだそれ?」
「今時さ、弓矢でアンサツなんて流行んねえだろー。でもここ1,2年かな。ナントカカントカの親玉とか、ウンタラカンタラの若様とか、そーゆー怖いお兄さんたちが矢でポックリ殺されて道に転がるってのが何件かあってな。ま、そういう世界じゃ珍しい話じゃないんだろうよ。でもなかなか弓矢使うやついないだろ。だからその『魔弾の射手』は誰なのかってウワサになってるんだ」
「へー、そういえばそんな事件あったような気もするな」
「あったんだよ。キャリーが特集記事組んだよ。なんもわかんなかったらしいけどな。わかったのは異様にウデがいい射手だってことくらい。ぜんぶ一撃必殺だったらしい。な、ストライク、知り合い?」
「知り合い」
フロントガラスのほかの窓はすっかり曇ってしまっていた。ワイパーの動く音が聞こえる。
「俺を追いかけてきてるのはその魔弾の射手だ。降ろしてくれてもいいぜ」
すれ違う車のヘッドライトが車の中をなめるように照らしていく。アルフが方向指示器を付けながら言った。
「チップは本当に面白いの拾ってくるようになったよなあ」
「なんでそんなヤツに追われてんだ?」
ストライクは言いたくなかったので黙っていた。全然会話に参加しないハロウを見てみると、ハロウはハロウで箱を一心に見つめて何か考えているようだった。
「ま、殺されないうちにどっか行こうぜ。どこに行く?」
「どこかのおもちゃ工場に」
いきなりハロウがとてもはっきりとした声で言った。
「できればパンドラ・ボックスを作っているような所に。お願いします」
ストライクは「降ろしてくれ」と言いそびれた。