(5)
やがて電話の音がして、ルーがそれを取った。
ルーも電話がかかってくるということはキャリーから聞いていたので、恐らくそのキャリーの会社の知り合いだか知らない人だかだろう、と思って取ったら、電話の相手はものすごく苛苛とした調子で「ユージーンと言うものですが、ハロウ・ストームをお願いします」と言った。
チップに言って電話ごと屋根裏部屋に持っていってもらおう、と思ったんだけどコードが短すぎたので、ハロウには2階と1階の間の階段の途中で電話を受けてもらうことにした。
キャリーが会社の子とやらに電話を掛けに行っている間、緑色の髪が地毛でないことを説明すると、ハロウは実に残念そうな顔をした。
「でも草や木は緑色になるのにどうして人の髪はならないんでしょうか」
「どうしてでしょうね?」
アルフは確実にハロウを面白がってニヤニヤと調子を合わせていた。ストライクがサラミを一枚もらって齧っていると、チップがやって来てハロウに電話だと言った。
「なんかウォラとかなんとか言う人じゃないらしいぜ。ユージーン? とかなんかそんなかんじ」
「ユージーン? 誰かしら」
キャリーが首をひねるのをよそに、ハロウはすたすたと電話口まで歩いていき、アルフはそれをニヤニヤしたままおっかけ、(たぶん盗み聞きする気だろう)ストライクも釣られてベッドを降り足を引きずりながら階段の手すりから覗き込んでみた。
ハロウは一階の厨房のほうに顔を向け(つまりストライクたちに背を向け)、受話器を右手に持ってじっと見つめていた。(電話機の使い方を知らないんじゃないか、とストライクは少し不安になった)
そして無表情のままひとつ深呼吸をすると(ため息だったのかもしれない)、斜め上に顔を上げて耳に当てた。ちゃっかりチップがその横に座っている。
「もしもし」
ハロウは暫くは立ったままで電話を受けていたが、少しするとチップと並んで階段に腰を下ろした。ときどき女の詰問するような高い声が漏れてストライクのところまで届いた。かなり長い間、ハロウはただその相手の言うことを黙って聞いていた。
後ろから見ていると、ハロウがどんな顔をしていてどんな話をしているのか(されているのか)全くわからない。黄色の髪の後頭部をこちらに向け、肩を落としているのだけが見える。壊れたあやつり人形みたいだった。あの人形は糸が切れているから使えないんです。
でもハロウはちゃんと生きた人間だったので、「ところで」と声を出した。
「ところでユージーン、あなたのお母様の名前を教えてくれないか」
「あんたなんか死んでしまえばよかったのよ」
その声は電話器から出たなんて信じられないくらいでかく、はっきりとストライクにも聞こえた。それに続いて、壊れちまったんじゃないかと思うくらい破壊的な音を立てて電話が切られた。電話の向こうで相手が受話器を叩きつけたんだろう。
ハロウは無表情のままだった。