表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハロウ・ストームの冒険 色烏飛行  作者: 白遠
こわれものではありません
12/81

(3)

 ハロウが1階に下りると、すでにスゥが準備を整えて店を開けるところだった。


「ハロウさん。今日は何してもらおうかな」


 皿洗いは……チップがやるか。料理は私とルーがやるし、配膳は……これも私がやるかなあ……。


 健康的に色白でかわいらしいその女性はハロウの顔を見て暫く考え込んでいた。


 昨日の夜もハロウは、昼間はカフェ、夜になるとそれにちょっとお酒も出す、このルーとスゥの店を手伝おうと、いろいろやらせてもらったのだが、皿を洗えばすぐに手をすべらせるし(泡がこんなにすべるものだなんて)、野菜を切ってと言われればどれくらいの大きさに切るか考え込んでしまうし、これをあの何番のテーブルに運んでと言われても、テーブルに辿り着くまでにどういうわけかコップからは中身が零れてしまうし、無愛想だと客に絡まれるしで正直何もできなかったのだ。


「じゃあね、お客さんが帰ったテーブルを綺麗にしてくれます?お皿をそのお盆でここまで運んで、そっちのふきんでテーブルを拭いて、そしてふきんを洗ってね。いい?」


 でもそれも今ひとつうまくいかなかった。ハロウがきちんと片付けるよりも客の回転が速かったのだ。

 目をこすりながら降りてきたチップは慌ててテーブルを片付けて、席があくのを待っていた客を座らせた。


「お前、筋金入りの役立たずだな?」


 チップが残りものの載った皿を芸術的に両手に積み上げながら言った。


「でも、お皿も割らなかったしちゃんとテーブルも拭けてたわよ。ちょっと慣れてないだけよ」


 スゥがまるで積み木遊びでもしてるみたいに皿を洗い、ステンレスの檻のようなものに泡の付いた皿を綺麗にしまい、檻にざっとお湯をかけて食器を真っ白に洗い上げながら言った。


「ま、ちょうどいいや。ストライクにゴハンもってってやってくれよ」


 ルーが魔法みたいに、目玉焼きをフライパンからレタスとトマトとハンバーグの載ったバンズの上にひょいと載せながら言った。きゅっと上からバンズを押さえて出来上がり。


「これはあんたが食って。ストライクにはポタージュが作ってある」


 この人たちは天才だと思いながらハロウが屋根裏部屋に行こうとしたら、ストライクが階段の手すりにしがみついていた。


「…………トイレ」


 肩を貸してトイレに連れて行くとやっと一つ仕事をした気になった。


 ストライクは部屋に戻るとポタージュを一瞬で飲み干し、付け合せのライ麦パンで皿までピカピカにし、「ひとくち!」と言ってハロウのハンバーガーを取って一口で半分食べた。一口には違いない。


 ストライクが箱を開けて見せてほしいと言うので、ハロウは暫くパスワードを考えてみた。考え付く限り唱えてみる。


 ひまわり。ユリの花。クリスマス。天使のランプ。

 おひさま。チューリップ……はダメなんだった。こうして考えてみると僕は彼女のことを何も知らない。オルゴール。あとは何が好きだっただろう。キャンディ。チョコレート。えーと、ベンジャミンの木が綺麗で好きだと言っていた。オリオン座。星の中で一番好き。でも冬しか見られないから、パパもママもあんまり見せてくれないの…………鳥の声が好き。空の青い色が好き。お姉ちゃんからもらった指輪が宝物なの。なんだったかな、白いスイトピーを持っていったとき、いいにおいだと喜んでいた。


「開かねえな」

「開きませんね」

「なんでお前開けられねえの?」

「それは」


「ハロウ・ストームがここにいるってほんと?」


 突然名前を呼ばれて顔を上げると、オレンジ色の髪の大人っぽい女性と、サングラスを微妙に下にずらした、短い髪が鮮やかな緑色をした黒人の男が部屋を覗き込んでいた。男は髪が緑で肌が見事にこげ茶色なので、ハロウは「木だ」ととっさに思った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ