TS幼女は世界情勢を知る
“TS幼女は~”シリーズです。
今回も特に動きはありません。
大体は幼女がソファに座って、テレビをのんびり見ている話です。
時間は早くも5月。新生活応援イベントは連休を残してわずかのみ。
次のイベントを考えないと~と締め切りに追われながら、イベントでトラブルが起きていないかをチェックする日々で、少しストレスを感じているダンマスTS幼女です。
深夜にも冒険者が挑戦しに来る事もあるが、その辺はタマちゃんとリビングドールがやってくれると言うから甘えて、なんとか回っている。
タマちゃん達は寝る必要が無いそうで、安心して任せられる。
もうすぐやってくる連休中のイベントはどうしようか悩んで、脳だけじゃなくアホ毛共々フル回転させたが、安直なイベント敵しか思い浮かばなかった。
ゾンビやゴブリンを含めた人型の敵が稀に、五月人形風の鎧落ち武者の格好をしている。
全体で、たまに空を飛び回っている赤いコイの“飛ゴイ”
川のあるエリアでのみ飛ゴイの代わりに登場、鑑定等で調べると“カナワヌコイ”と表示される、延々と滝にすらたどり着けずに川のぼりをし続ける色違いの黒いコイ。哀愁が凄いのなんの。
森エリアや山エリアでイベント用の弱い熊風魔物を配置。その熊は極稀に斧を担いだゴブリンが乗った熊、川のあるエリアなら川に入ってボンヤリ“カナワヌコイ”を獲ろうとしているのがいる。時々スパーン!と実際にコイを獲る風景も見られる。
ドロップ品はこどもの日にちなんだ品。だが、ご近所・近隣に配慮したその辺で買えない物や、多少ドロップしても問題なさそうなの。
俺所有の初心者向けダンジョンがある3つの市の役所と相談して、それぞれのダンジョンで出さない物を決めた 。
ウチのダンジョンで手に入るから、買わない。で会社とかが潰れたら申し訳なさ過ぎる。
それで本題だ。
今後のイベントのネタ探しで、テレビをつけながらネットニュースを漁っていたら、テレビで俺のダンジョンの登場によって激変する世界情勢。
とか銘打ったニュース特番をやっていた。
……ニュースと言うよりは、ニュース風ワイドショーかも知れんが。
それによると、情勢は混沌の一途をたどっているらしい。
各国にも低級ダンジョンが発生して、そこで力を蓄えてから上の難易度のダンジョンへ。と言うプロセスはどこでも同じ。
以下の地文は、ナレーションのざっくりとした意訳。
途上国は例外もあるが概ね良好。自分達の生活を良くするために、貪欲にダンジョンを利用しているそうだ。その例外は主に、国民を大事にしていない国。
そして先進国はどうにもゴチャついている。
大国は若者が特に酷いらしい。細かく言えば、特殊能力持ちのスーパーヒーローに憧れた若者と、ヤンチャでオラついたアレな若者。こいつらが日々街のアチコチで高次元バトル。やがて超次元化して、誰にも止められなくなるかも。
お陰で半ゲーム化する前の地球で猛威を振るった暴力集団も真っ青な、高予算アクション大作映画やパニック映画並の市街地崩壊が、あらゆる所で発生。
まさかのポストアポカリプス一直線か?とまで言われている。
「あいつら、未来に生きたいのか」
〈終末を迎えた未来って……こちらはお断りしますよ〉
また違う大国では、都市部より農村部がダンジョンに対して熱心。レベルを上げまくっているのに、その割には資源を供出しないらしく、ここでも香ばしいカホリが蔓延。
「アレな政治体制で踏みつけられている国民が、今こそ立ち上がる……っ!」
〈などと格好つけたいお年頃が、意味不明の供述をしており〉
「おい」
化石燃料の輸出を主産業とする国は戦々恐々。電力を膨大な量蓄えられたり直接発電できる魔物由来の素材や、発電タービンをより効率良く回せるナニか。
それらが世に出回る未来に怯え、それ以外の産業を育てようとしているが、それが間に合わなかった時にどう動くか。
「以前化石燃料に頼りきらず、ヲタク産業に食い込むんだーって言ってたのを、向こうへ連れていかれる前にテレビで見たが」
〈詳しい事は報じません……ね〉
落ちぶれた大国は復権を目指して、ダンジョンアタックの奨励。大量の資材を求め、魔物素材の研究をしている。ただ、それ以外の産業が少しおろそかになるために、そこら辺からの反発が危険視されている。
「あー、既得権益が減ると、取り戻そうと怖い事をしてくるかもしれないからなぁ」
〈ダンジョンからの素材の有効利用で、他の産業にも多大な利益が出ると思うのですがね〉
「そんな長期的視野の“いつかそうなる”は関係ないんだよ。産業が痩せ細り過ぎて、販路とかも細くなって橋頭堡が維持できないと、その時が来ないかもしれない。てのが建前で、単純に自分のフトコロに入る物を減らしたくない」
〈強欲ですね〉
「ははは。横で比較して収入が少ないのは責任者として劣り、縦で見れば自分の影響力が減った気分に。自分の力を否定されてミジメな気分にでもなるんじゃねーの?知らんけど」
〈そんなものですか〉
「テキトーこいただけだから、本当の事は知らん。マジで」
我関せずのマイペースな国は、それこそマイペースに己の道をマイペースに進む。
冒険者の支援はダンマスの幼女が進んでしてくれて、かなり安全にダンジョンアタックができると娯楽感覚で登録者数はかなり多い上、世に氾濫する創作話の影響で無駄なキャンペーンはいらない、未知の素材と言うだけで飛び付く研究者がゴロゴロいる。
国は最低限の支援をすれば、放っておいても勝手に進む。
力を手に入れて暴れる国民は極めて少数、警察機関もダンジョンで人員を鍛えているため治安に悪影響はあまりない。
問題があるとすれば、ダンマスの幼女の手厚い支援に甘えきったり娯楽目的の冒険者が多く、他国より積極的に高難易度のダンジョン攻略にかかる人数が心持ち少ない事。
「テキトーだな、おい」
〈マスターがアレもコレもと、至れり尽くせりでやってくれますからね。国はかなり気楽ですよ〉
「しかし、なんでこんなところで俺は微妙にディスられにゃーならん」
(神からのメッセージカードヒラ~)
『幼女ママのあふれ出る母性が人々を惹き付け、神さえも堕落させる。ママァーーー!!』
(ベッチン!と床に叩きつけて光に還す)
「うっさい!!」
何よりの問題が、ダンジョンマスター……ダンマスの存在。
「おっ、まだ俺をディスるのか?」
〈むくれてないで、ちゃんと観ましょう〉
極一部のダンマスは力の一端を示し、最悪の時の抑止力として期待できる。
「と言いながら、流しているのは超級ダンジョンのアタック映像……俺のあの動画だな」
〈ロクな力のないネタ装備で、楽々クリアするマスターは異常中の異常。むしろ超常的存在の代表ですからね〉
「俺を神扱いするんじゃねー。アレが頭に浮かんで反吐が出る」
(ひらーん)
『ようこそ神の領域へ!!幼女ママなら大地母神の1柱として大歓迎だよ、ママ!!』
(べちこーん!!)
ダンマスは神の使いの様な存在で、スキルや魔法以上のそれぞれ個性ある特殊な力を持って、冒険者達の最初の壁となっている。
「そして背景では、あの忌まわしい会見映像……」
〈小動物チックなレディーススーツのコスプレ幼女は最高でございました。それがなんでここまで、ふてぶてしい母親猫みたいな性格に……〉
「お前がいじり倒してくるからってのが大体だよ!」
しかし、その力を手に入れたダンマス……人類は、増長する。
「うわー、ダンマス自ら高次元バトルで街破壊の大暴れとか……馬鹿じゃね?」
〈マスターは絶対しないと?〉
「神からのペナルティを考えるとまずやらないし、そもそもやりたくない。もしやるとしたら、暴走したナニかを止める場合とかだな」
(ヒラヒラ)
『その暴れた子は、自分が神の代理人だって本当に増長したの。神に託された俺はつまる所、地球の神だー!っておかしくなっちゃったから、やむなくこっちで処理した子だよ。以前はとっても優しい子で、この子なら幼女ママに匹敵するんじゃないか?って期待してたんだけど』
「oh…………っつーか、俺は俺がするべきと思ったことをしているだけで、誰かに優しくしてる気はないんだが」
(ひらっひら)
『無意識で母性を振り撒く、根っからの幼女ママ……はぁはぁ』
(ぺーーーーん!!)
因縁深い国同士では、ダンマス同士が人間兵器として使われる事もある。
「おーおー。ダンマスの癖して、おだてられたり変な感情をアオられて、調子付いて鉄砲玉かよ」
(ひらひらり)
『この子達は、お互い真面目で勤勉だったんだよ。真面目すぎたのがダメだったのかな?そそのかされて、簡単にあーなっちゃった……処理する時は悲しかったな』
〈マスターはその辺には乗らないですよね。おだてられてイイ気になっていても〉
「当たり前だ。向こうで俺を囲って兵器として使い倒そうとする連中と、散々やりあったしな。ついでに悪意や騙してやろうって意思の感知も、スキルで出来るから引っ掛かりにくい」
〈その時はどう対処したのですか?〉
「スキルや魔法も遮る防壁系の結界を当人の屋敷に張って、関係者が1週間は誰も出入り出来ない状態にしておいて、その間に街で話をばら蒔き倒した。すると商業ギルドが喜んで各地に情報を行き渡らせて、諸々オジャン」
〈???〉
「戦時で儲ける行商人以外があまり出入りしなくなった街や国、そして責任者が動けず開かない備蓄倉庫、物資が減りまくって簡単に干上がる。当人達は閉じ込められている間何もできず、情報封鎖と兵糧攻めも食らってクタクタ。そこへ住民の怒りがー」
〈マスター、マスター。黒いモヤモヤと、名状しがたくうごめくアホ毛〉
「おっと、スマンスマン」アホ毛きゃるん☆
―――――今後、ダンマスとはどう付き合って行くべきか、世界で問題は山積している。
「おい番組の制作?そのナレーションで、流れているのはなんで俺のワニ着ぐるみパジャマで、商店街を歩いている映像なんですかね?しかもコレ、お前らこの直後にお巡りさん達に事案でしょっ引かれてたよな!?どうやってこの映像を死守したんだよ!!」
〈最近のテレビカメラなんて、撮ったそばから電波で送れますからね。……ウキウキ楽しそうにアホ毛を揺らしながら、着ぐるみパジャマ姿でポテポテ歩き回っているマスターはやはり愛くるしい〉
「……そう言や俺は私人だぞ。プライベートの町歩き映像を顔出しで使うって、明らかにマズイ事をしてくれやがったな。よし、通報しよう。ついでにダンジョン関連の俺のページに、抗議文を載せよう」
〈マスターはお巡りさん達に頼りきりですね〉
「実際頼りになるからな!!変態どもから、俺をよく守ってくれているからなっ!!」
「う~む……ネットで番組の確度を調べたが、多少のアレコレが有ってそれを引いても、結構高いな」
〈マスター。マスターの商店街お散歩映像の後ろの方を良く視て下さい〉
「ん?……おぅ、もしかしてもぎ子(仮)さんか?」
〈ハッキリ見えないので推定ですが。建物の影から影に移動して、怨念のこもってそうな目をマスターに向けてストーキングしてます〉
「すげー執念だ。コレなら俺の変装を見破るまで、スキルが成長するのも頷ける……かもしれん」
〈看破系ですか?〉
「だけじゃなく、魔力が視える系の魔眼も持ってるかもな」
〈どれだけマスターを好きなんでしょうかね、あの人〉
「分からん。分かるのは、俺があいつを恐がっている事だけだ。見ろ、アホ毛が後ろに倒れてビクビク怯えてやがる」
〈ほんと、気ままなアホ毛ですね〉
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番組を観た幼女の実家
妹「お姉ちゃんの顔だけ出てるワニの着ぐるみパジャマが可愛い」
母「あの子、なんでカワイイ(母にとってのカワイイは、フリルやレースやリボンがゴテゴテ付いたロリータ系)服を着てくれないのかしら」
父「あいつはもう良い歳だぞ?重装備はツラいだろう」
母「外見は幼女。問題なくイケるわよ……なのにどうして」
妹「と言うか、お姉ちゃんが暴走する訳無いじゃない。会見でビクオド緊張して、イベントでヒト前に出ればまたビクオドする。ヒトに注目される事自体嫌いなのが、どうやって暴れるのよ」
母「カワイイ服を着せたい……」
父「あいつの力は国民なら大体知ってる。多分やる気になれば、今すぐにでもこの国位は簡単に征服出来る。なのにしていない理由を考えて番組を作れよ……」
妹「お姉ちゃんって月2回位は帰って来て掃除してくれたり、錬金術とか調合とか鍛冶とか色んなスキルで物を作ってくれたりするけど、やっぱり料理がいい。今日帰って来てくれないかなぁ、また食べたいなぁ~」
母「今晩の手抜きが出来るし、あの子に頼もうかしら」
父「よし、オレから頼んでみよう」
妹「……じゅるり」
母「……カワイイ服を出しておきましょうか(肉食獣の目)」