内政、はじめ……てもいいですか?
翌日。金髪DQN君が村に帰って行った。この集落の規模とか食べ物の量とか、その辺を村長に報告するらしい。村人のうち一人は護衛らしく、彼について行ってしまった。
二人が帰ってしまったので、グルーレ君が連れてきてくれた人は結局二人だけになってしまった。圧倒的人手不足である。
金髪DQN君、一人で帰ってくれてもよかったんやで?
「結局あの人の名前を聞きそびれてしまいました」
集落の人々の作業風景を眺めながら、村と集落を往復してお疲れだろうということで本日はお役御免のグルーレ君に話しかける。
木陰で寝転がっていたグルーレ君は、律儀にも座って返事を返してくれた。
「ああ、あいつはサムっていって、村長の息子なんですよ」
「村長の?」
「はい。昔から俺らに対して威張り散らしてました」
「確かに少々高圧的でしたが、それも村人の事を考えての事ではないでしょうか」
「どうでしょうね。村人が大事なんじゃなくて、威張れる相手がいるって事の方が大事なんじゃないですかね」
「あまり彼の心象は良くなさそうですねぇ」
「そりゃもう。貴重な肉を村長一家が大半掻っ攫って行ったり、街へ作物を卸す仕事は村長一家の仕事だって言って、作物売った金で街で遊んできてんですから」
「それはまた……」
結構恨みを買ってそうだ。村を出るって言うのは案外、彼らから逃げ出すって意味合いもあるのかもしれない。
「どうせ税が上がったら、その負担は俺らに回されるに決まってますよ。村長らが遊ぶ金はそのままでね」
そう言うと、グルーレ君は鼻を鳴らして立ち上がった。
「なんだか腹が立ったんで、体動かして発散してきます」
「ええ、頑張ってください」
「はい!」
わざわざ私に断りを入れてから、ノコギリでギコギコ木材を切っている作業場へと向かって行った。勤勉でなにより。
「それにしても……」
村長の息子だと言うサム君。昨日のアレは、果たして演技だったのだろうか。ううむ。
「わからん」
ま、今はみんなと一緒にお仕事を頑張りましょうかね。
と思っていた時期が私にもありました。
もうね、することがないのよ。畑は食料があるから私の奇跡は不要だし、木材も粗方揃ったから同様だし。
だから、建築組のヤークさんに声を掛けてみた。
「私も何かお手伝いをしたいのですが」
「嬢ちゃんはノコギリを使った事があるのか?」
前世ではあるよ! 片手で数えられるくらいの回数をね(ドヤァ)。
「数回あります」
「……悪ぃが、木材を無駄にはできねぇ」
「お願いします。どこに頼みに行ってもお手伝いさせてもらえないんです」
そうなのだ。女神様の使いって事で、みんなが気を使って何もやらせてくれないのだ。決して、私が不器用で仕事をミスったから仕事を割り振られなくなったとかそう言うことではない、決して。いやまじで。ホントホント。
「と言っても、道具が足りねぇんだ」
ヤークさんは、そう言うと作業場を見回す。確かに製材のための道具には空きがない。
「他を当たってくれ」
いや待てよ。私には道具がなくても、奇跡がある(至言)。
「ヤークさん、良いことを思い付きました」
「なんだ?」
「ヤークさんは木材をどう切るかとか、指示を出してください。私が女神様の奇跡で木材を指示通りに加工します。道具を使うより、早く済みますよ!」
私はふんす、と鼻息を吹いて握り拳を固める。
「奇跡をそんな事に使ってもいいのか?」
「問題ありません。女神様から許可が降りました」
何しろ女神は私だ。決裁権は私にある。ビバセルフ決裁。
「……なら頼む。まだまだ数を建てなきゃなんねぇ」
「お任せ下さい!」
と、張り切っていた時期が私にもありました。
またね、やる事がなくなっちゃったの。
張り切って木材を言われた通りに加工していったらね、木材全部加工し終わっちゃったの。
家も奇跡で建てようとしたら、「俺らの仕事がなくなっちまう」って断られちゃったの。かなしみがふかい。
まあ後は家を建てるだけになったから、順調も順調なんだけどね。想定していたよりも、かなり早く村人の受け入れができそうだ。
その家を建てる作業も、集落の人ほぼ総出で行われてる。天候操作の奇跡で朝夕の畑の水やりがなくなって、雑草の管理くらいなもんだから、みんな大喜びである。けどそれも今だけ。家が建ったらちゃんと畑も管理しましょうねってお話も済んでいる。
ゴブリンズもちょこちょこ動き回って一生懸命働いている。新しく来た村人はゴブリンの姿を見てそれはもう慌てたけど、言葉を交わして一緒に仕事をしたら、いつの間にか馴染んでた。新しく村人を受け入れたりしたら、一緒に畑作りしても良いかもしれんね。
そんなわけで、今は私は「わたしがかんがえたさいきょうのまち」を紙に落とし込んでいる。
図面を描いた経験なんかないから、落書きレベルの物だけど意外と楽しい。
区画をきちんと定めて作る町は見た目も綺麗で良いんだろうけど、こう、継ぎ足し継ぎ足しで出来ていった町も面白いことに気が付いた。しかし、将来起こるであろう区画整理事業とかめんどくさそうだよなぁ。まあこれは単なる私のお遊びだし適当にいこう適当に。
行政区を町の北に配置して、中心には広場を据えて商業区をその周囲に設定。後は住宅街をでででんっと置いていく。道や建物同士の間隔は、防火とか防災を考慮して充分にスペースを確保する。工業地帯はやっぱり川沿いとかが良いのかなー。水質汚染とか怖いけど。あ、外壁も忘れずにね。魔物もいるし、戦争が起こらないとも限らないし。外壁の上に砲塔をたっぷり設置する。外壁を作ったら堀も欲しくなるね。
てな具合に色々描き殴ってたらヤークさんに「わたしがかんがえたさいきょうのまち」を覗き見られてしまった恥ずか死ぬううううう。
「……なんだ、これは」
「こ、これは、今後集落がどの様に発展するかを想像してみたものでして……」
「ふむ」
ヤークさんは顎に手を当て、「わたしがかんがえた(略)」を穴が空くかの様に見つめている。私の黒歴史を見るのはもうやめて!
「ここまで発展すると思うか?」
「え?」
「今、ここは少しの畑と家があるだけの、小さな集落でしかない。村に毛が生えた程度の規模の町になれば御の字だって考えてる」
ここの所、ヤークさんは珍しく饒舌だ。いや私が話しかけたりするからなんだろうけど。ヤークさん自らがこんなに話してくるってのは本当珍しい。
「そうですね。十年、いえ、二十年掛けても、この規模に至るのは難しいと思います」
でも、と私は続ける。
「いずれはこの絵の様な大都市になりますよ、この集落は」
「何故、そう言い切れる?」
「女神様のお膝元だから、ですよ」
町づくりなんてめちゃクソ楽しそうやん? 女神って寿命なさそうだし、楽しみの一つでもないとキツいと思うんだよね。そこで町づくりだ。どこまで私の希望が通るかわからないから「わたしが考えた(略)」は脇に置いといたとしても、こんなやりがいの塊みたいな事、やらずにおけるかって話ですよ。私の手で、この集落を世界有数の大都市に発展させてみせるわ。
「考えてもみてください。女神様がこの地に降臨されてから、途轍もない勢いで集落が発展してきています」
「そう、だな」
「途中、様々な困難が立ち塞がるでしょうし、全て順調に事が進むことはないでしょう。ですが、ここは女神様が見守りになられている地。皆さんが困った時には、女神様の救いの手が差し伸べられることでしょう。これまでと同じ様に」
「だといいがな」
「大丈夫ですよ」
だって、私がやるって決めたからね。やるったらやるよ、何せ楽しそうだから(本音)。
あ、よくよく考えたらコレって内政じゃない?NAISEI。
奇跡という名のチート使って、一丁やっちゃいますか。あ、けどがっつり奇跡で人々に干渉しちゃってもいいのかな? ま、今更か。