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流石にキレるぞワレェ

「モロウッ! 何処にいる!」


 翌日の夕方。グルーレ君の見込み通りの時間に、数人の村人と思しき人達が集落に訪れた。けど様子がおかしい。


「モロウ! 出てこい!」


 集落にやってきたのは、グルーレ君を含めて五人。やや少ないかなーとは思いつつ、村を放置するわけにもいかないんだろうね。

 それはいいとして、先頭のくすんだ金髪の若い青年が怒り心頭って感じで吠える吠える。こわっ。モロウさん早よ出てきてー。


「うるせぇな。そんな大声出すな」


 噂をすればなんとやら。自宅から出てきたモロウさんは、のっしのっしと金髪DQNに向かって行った。


「モロウ! 貴様!」


 モロウさんを見つけた金髪DQNの対応は早かった。見つけるなり駆け寄ってモロウさんの胸倉を掴んだのである。お互いにガンつけあってて、一触即発の雰囲気だ。ひええ。


「なんだってんだ」


「それはこちらのセリフだ! 村を出るなんて勝手な真似をしやがって!」


「あの村に残って何になる? 増税ばかりで、クソ領主どもは俺らに何を返してくれるってんだ? あんな所にいたら、吸い尽くされて干からびちまうぞ」


「だから、私が説得すると言ってるんだ!」


「説得を聞くようなタマなら、元より俺らはここまで苦しまずに済んでる。違うか?」


「現状をきちんと説明する! 私達の村に、もう余力はないと!」


「やつらは俺らの窮状なんて気にしやしねぇ。数ある内の一つの村が潰れる程度だ」


「私がそうはさせないと言ってるだろう!」


「いいや、無理だね。増税で得る利益以上の物を、お前がやつらに提供できるなら話は別だがな」


 言って、金髪DQN君の手を軽く振り払った。振り払われたDQN君はたたらを踏んだ。


「ぐっ……!」


 正論アンド正論。この金髪DQN君、村の事を想うのはわかるけど、ちょっと現実が見れてないよね。でもモロウさんが領主さん達を色眼鏡で見て悪し様に言ってる可能性も微レ存。

 しかし周りの人達を見てみると、みんなうんうんと頷いている。これを見た感じ、モロウさんの言い分が合ってるんだろうなぁ。

 金髪DQN君は理想を語ってるって言うのかな。村を守りたいって気持ちは伝わってるよ、うん。


「それより、食料に目処がついたって聞いたが本当か?」


 話の隙を見て、お連れさんが口を挟んできた。


「ああ、事実だ」


「ふん、そんなもの、村内で発言権を得る為のでっち上げだろう」


「言ってろ。こっちだ」


 モロウさんを先頭に、一行はゾロゾロと連れ立って歩いて行く。畑はそんなに遠くない。遠目に見えてきた畑を見て、村から来た人達が色めき立つ。


「お、おい、芋が生ってるぞ」


「こんな早い時期にどうやって……いやでも、あれは確かに芋の葉だ……」


「掘ってみろ」


 そう言われた村人達は畑に着くなり、素手で畑を掘り返し始めた。すると、やにわに騒がしくなる。


「い、芋だ! しかもデケェ!」


「数も多いぞ!」


 みんな大喜びである。金髪DQN君だけは呆けてる。


「一体全体、どうなってるんだ……」


「女神様の思し召しってやつだ」


「女神様だと? どういう事だ」


「これから話す。御子さんは?」


「そういえばお姿が見えませんねぇ」


 まあ今女神モードだから見えなくても当然なんだよね。それじゃ変身しますかね、ほいさーっとモロウさんと金髪DQN君の背後に移動して姿を現わす。


「お呼びしましたか?」


「うわっ!?」


「うおっと。御子さん、驚かさないでくれ」


「失礼しました。この方達が村からお越しになった方々ですね」


「ああ。みんな、説明する。この方は名も無き女神様の御子だ」


 モロウさんの説明に合わせてぺこりとお辞儀する。顔を上げると、みんな頰を赤く染めて、どこかぼんやりしている。またか、またこのパターンか。まあクールでビューティなアバターを作ってしまったのだから仕方ない。私もその内慣れるでしょ。だから気にしないったら気にしないのだ。


「こ、この御子とやらが畑と何の関係があると言うんだっ」


 いち早く立ち直った金髪DQN君。ところで、いつまでも金髪DQN君では何なので、早く彼らを紹介してくださいモロウさん。そんな私の願いとは裏腹に、着々と説明が進んでいく。


「御子さんを通じて、女神様に奇跡を起こしてもらったんだ」


「はっ!何を言うかと思えば。そんな子供騙し、信じられると思うか?」


「信じられないのも無理はねぇ。御子さん、頼めるか?」


「もちろんです」


 そろそろ食料も十分過ぎるくらいの備蓄ができて来たし、畑一枚まるっと奇跡を使わなくても大丈夫なんだけど、ここはインパクト重視でいかせてもらいます。後の信者獲得のためである。収穫と加工頑張ってね(はあと)。

 てな訳でほいさー。

 この世界に来て何度も生長加速の奇跡を使ってきたから手慣れたもんである。いつものお祈り捧げポーズをしつつ村人達の反応を見ると、驚きに目を見開いていた。


「ば、馬鹿な……」


「お前の気持ちはわかる」


「モロウさんも始めは詐欺師が来たぞって疑ってましたもんね」


 私がにこやかに弄ったら、モロウさんは苦笑しつつ頭をかいた。


「見てわかったろ。女神様の奇跡で、食料に関する問題は解決した。後は住む場所だけなんだ」


「あれ、そういえば村を塀で囲うというお話は?」


 この集落が抱えてる問題の内の一つだった気がするんだけど。

 モロウさんが割と呆れた顔をしている。


「御子さん、気付いてなかったのか?」


 なんだろ? 私には見えない木の塀が、いつの間にか完成したんだろうか。


「御子さんが来てからこっち、一回も魔物に襲われてないんだよ。あ、いや一度あったか」


 最後の方はボソッと呟くモロウさん。ほえー、そう言えば襲われてないような。ガブルズさんの件は置いといて。


「これも女神様のご加護ってやつなんだろうな」


 なるほどなるほど。聞けば、私が現れるまでは週に二、三回は魔物の襲撃に遭っていたらしい。十二人という少人数で撃退したここの人ら逞しすぎない?

 そして、魔物を寄せ付けないというパッシブスキルが私には備わっていたらしい。全く気が付かなかったわ。でもガブルズさんたち一族のゴブリンには全く効果がなさそうだ。魔物にも良い性質の魔物と悪い性質の魔物がいて、悪い魔物にだけ作用するとか、そんなところかな?

 一人考察をしていたら、金髪DQN君が口を開いた。


「そ、そうだ! この女を領主様に差し出せばいいじゃないか! そうすれば、税も何もかも解決する!」


 うおい! 正体を隠しているとはいえ、こちとら女神様やぞ! 流石にキレるぞワレェ、と思ったらモロウさんがその豪腕でぶん殴った。人ってこんなに吹っ飛ぶんだって、その時思いましたまる。

 なんかモロウさんが額に血管を浮かべてブチ切れてるのを見てたら落ち着いてきた。人が怒ってるの見ると、逆に冷静になることってあるよね。ない?


「ぐぅ……! 何をする!」


 鼻血を出しつつ金髪DQN君は立ち上がろうとするけど、大分足にきてそう。めっちゃプルプル震えてる。産まれたての子鹿の様だ。


「てめぇ、言っていい事と悪い事の区別もつかねぇのか?」


「何故その女を庇う? 部外者のその女を一人差し出すだけで、税の問題も解決する! 住み慣れた村を離れずに済むんだ! 見知らぬ女一人を犠牲にすれば、みんな一緒に暮らせるんだ。むしろ、こんな有用な力、領主様から感謝されて褒賞が出るかも知れないぞ!」


「貴様っ!!」


 これにはさしもの私も閉口した。が、モロウさんが二撃目を叩き込もうとしてるのを見たら止めるしかない。今のモロウさんは人を殺してしまいそうな勢いを持っている。流石にそれはいただけない。


「モロウさん、いけません」


 二人の間に割って入ると振り上げた拳は下ろしてもらえたけど、まだ怒りの形相を浮かべている。私に手出しはしないんだろうけど、怖い。怖いが引いてはダメだ。


「御子さん、そこをどいてくれ」


「どきません。……モロウさん、私の為に怒ってくださってありがとうございます」


 怒りを鎮めてもらうため、モロウさんにリラックス効果を発揮する、なんか素敵な奇跡をほいさーと使う。


「落ち着きました?」


「……悪い」


 バツが悪そうに頭を掻き毟るモロウさん。

 未だ尻餅をついたままの金髪DQNに私は視線を合わせる。


「あなたの村人達と村を想う気持ちはよく伝わりました。ですが、私はこの身を犠牲にするわけにはいかないのです」


 何故なら女神だからね。


「あなたは領主様を説得する、と仰いましたね」


「……それがどうした」


「例えばですが、この集落を保険と考えてはいかがでしょう。説得に失敗しても集落に移り住めば大丈夫だと思えば、領主様に対して強気の交渉も行えるのではないでしょうか? 上手くいけば元の村に皆さんで戻れる道があるやもしれません」


「……」


 こうさ、人を諭すって言うのかさ、説教じみたこと言うのって苦手なんだよね。多分、人間だった時の私ってそんなに立派なもんじゃなかった。その感覚が少し残ってるんじゃないのかなって。

 そして金髪君は黙ったまま、俯いている。

 沈黙が耳に痛い。周りの人も押し黙っている。

 私が沈黙に耐えきれず、また何か言い募ろうとした時、金髪君が口を開いた。


「……考慮する」


と。

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