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遭遇

 集落の人々を信者にして早数日。あっさり食料問題が解決したため、今度は建物を急ピッチで作ることになった。村人を受け入れる為の受け皿が全くないからね。

 木材の原料となる木なら、すぐ側の森から唸るほど調達できる。材料には事欠かないはずだ。しかし、建築以外にもやることはある。

 まずは芋の収穫。これは私が集落を訪れる度に畑に奇跡を行使してるので、毎度発生する作業である。とは言え、もう十分な量が手に入ったから奇跡は今日で最後にしようと思ってる。

 今後は通常の畑作りを行ってもらう。毎日を一生懸命に生きてる人に、女神様のご慈悲が与えられるのだからね、えっへん。

 そして芋の加工。芋は保存に適しているけど、流石にすぐ消費できる量じゃない。消費を待つ間にダメになってしまう可能性がある。だから適宜保存食に加工する必要がある。エグい量の芋を前に、人々は嬉しい悲鳴をあげている……はず。

 村人の受け入れの懸念材料であった食料問題が解決したため、村人の受け皿である家屋と今の保管場所の建築をするという、次の計画へと移行する段になったのだ。

 そこで、収穫組、畑作組、加工組、建築組の四グループに分かれて作業を行なっている。現在の私は赤髪のモロウと一緒に建築組に加わっている。


「木は適当な間隔で伐採していきます」


「効率悪くねぇか? 村側から順に切り倒していく方がいいんじゃねぇか」


「将来の事を考慮してのことです」


「ほう、それはどういう?」


「木を切り倒すばかりでは森がなくなってしまいます。木がなくなることで、様々な問題が起こり得ます。森の生態系が崩れる、土の栄養分が流されてしまい植物が育たなくなる。他にも色々と。これらを避けるために、伐採と同時に植林も行います。間隔を空けて伐採することで、若木の生長の下地を作ります」


「……御子さんは学者先生だったのか?」


「そんな大層なものではありませんよ。あ、後、建物の建築は将来を見越して計画的に行いましょう。例えば」


「あー、そ、そこらへんで。また詳しく聞くから。今は伐採の時間だ」


「そうでしたね」


 日本でも区画整理事業とかやってたからね。そんな苦労しなくても済む様に、今のうちから計画立てて建築すれば後々楽だよね。ビバ前世知識。

 そんで気が付けば森の入り口。手始めに、ここから木を切り倒して行く。泉側に向かいつつ伐採を行うことで、簡易ではあるが泉までの道を作ろうという魂胆もある。


「じゃあ頼む」


「おう」


 言葉少なに、木こり兼大工のおじさんのヤークさんが斧を片手に木へと進み出る。この世界はチェーンソーもないから、木を一本切り倒すのもひと仕事だ。


「俺も向こうの木を切って来る」


「頼むわ」


 モロウさんものこぎりを手に伐採へと向かった。

 私は木が切り倒されるまですることがないので、邪魔にならない位置でホゲーと突っ立って、木こりのヤークさんの仕事っぷりを眺める仕事をしている。ちょういそがしい。

 斧が木にぶち当たり、木片が飛び散る。段々と切り口が大きくなっていくと、やがて木は軋み始めてゆっくり傾き、最後には大きく傾いて、音を立てて倒れた。


「んじゃ、頼むわ嬢ちゃん」


「お任せください」


 木が倒れたら私の出番だ。木を切ったら木の乾燥を待たなければならないが、奇跡を使ってその工程を省いてしまう。木から水分が抜ければ、その分運搬も楽ちんだからね。

 祈りを捧げるポーズをとって、ほいさー、はい完成。

 急激な乾燥にも関わらず、割れや曲がりのない綺麗な仕上がりである。流石奇跡の力、匠である。


「うん、大したもんだ。ありがとうごぜぇます、女神様」


 奇跡を行使した後、集落の人々は感謝を欠かすことがない。うむうむ、良いことだ。私も奇跡を使った甲斐があるよね。

 暫しの感謝の祈りの後、ヤークさんが立ち上がった。


「んじゃ、モロウのとこに行くか」


 私は頷き、ヤークさんの後に続く。




 ある程度伐採が進むと、村近くということもあって、三人で連れ立って昼休憩をとりに村に戻ることにした。


「待て」


 後少しで村なんだけど、モロウさんから制止が入った。一体何ぞと思ってると、モロウさんが無言で森の切れ目あたりを指差した。

 んんー? なんか人の形をした茶色っぽい何かが、村の様子を確認してる?


「なんでしょう、あれ」


「御子さん、ゴブリンを知らないのか?」


 ゴブリンってサイゴノファンタジーに出てくるアレ? ラノベとかに出てくるやつだと、女性を孕ませて苗床にしたり、一匹見つけたら百匹いると思えと言われるくらいの異常な繁殖力を持つアレ?

 はえー。魔物がいるとは聞いてたけど、まさかゴブリンがいるとは。なんか感激。


「危険なんですか?」


「そりゃもう。ちびっこい見た目に反して、アイツらの力は成人男性を超えるやつすらいる」


 おおう。雑魚モンスターの代表格かと思ったけど、意外と危険なのね。


「モロウ、どうする?」


「まだ気付かれてない。やるぞ」


 わお、過激ね。みんなの安全の為だし、やむを得ないのかな。やるにしても、怪我のないようにお願いしたい。奇跡で怪我は治せるとしても、万が一即死してしまったら目も当てられない。人を生き返らせることができるかわからんし。生き返らせる奇跡って制限の対象な気がするんだよね。

 モロウさんとヤークさんはゴブリンに気付かれないよう、音もなく素早く歩いていく。私は枝を踏んだりしそうだから、数センチ浮かんでこっそり後ろから二人の後を付いていく。

 あと少しで不意打ちできそうな所で、ゴブリンが森から勢いよく飛び出した。


「チッ! モロウ行くぞ!」


「わかってるっ!」


 二人は音を立てることも厭わず駆け出した。私はすいーっと後ろを飛んでいく。


「ゴブリンが村に入ったぞ!」


 モロウの大音声が、村に響いた。

 ゴブリンは驚いた顔で、こちらに振り返った。


「なっ! 後ろだと!?」


 シシシシャベッタァ!!!??

 このゴブリン、めっちゃ流暢に喋りおる! この世界のゴブリンは人の言葉を話すのか。たまげたわ。

 そして言葉が通じるなら話は別だ。私はできれば血を見たくないから、平和的解決を試みたい。

 立ち止まるゴブリンに襲い掛かろうとするモロウさんとヤークさん。


「待って!」


 いつもの敬語口調を使ってる暇などなかった。飛行速度を上げて二人を追い越し、ゴブリンとの間に割って入る。


「御子さん、何を!?」


 まさか私に武器を振り下ろすわけにいかない二人は、止む無く立ち止まる。いやーすまんね。てか女神って怪我したり死んだりするのかな? わざわざ痛いことして試したくないしなぁ。まぁいずれ分かるでしょ。

 っと、ゴブリンが駆け出した。


「ちょっ待てよ!」


 つい、またしても敬語を忘れてしまう私をギョッとした顔で振り返るゴブリン。えっ、私、またなんかやらかしちゃいました?


「あの、悪い様にはしません。少しお話しませんか?」


「……何を話す必要があるというのだ」


 やっぱり、めっちゃ流暢。話し方もなんかこう、カッコいいよね。ところで、私とゴブリンを囲む様にわらわらと集落の人達が集まってきた。さっきモロウさんがしてた注意喚起って逃げろって意味じゃなくて、囲んで殺せ的な意味だったのかな? 血の気多過ぎない? もしくはそれ程過酷な世界ってことなのかな。


「もはやここまでか……」


 諦念が浮かんだ言葉を吐くけど、ゴブリンもタダではやられるつもりはないらしく、武器は降ろさない。そしてジリジリと距離を詰めてくる集落の人達。


「皆さん、ここはひとつ私にこの方とお話をさせてもらえませんか?」


 血を見ないで済む方法を模索しよう? 私はスプラッタには耐性がないんだ。いや前世の事は覚えてないけど、なんとなく感覚でわかる。

 すると、ファーストコンタクトをとった集落の人の片割れである、グルーレさんが声をかけてきた。


「話って……御子様はゴブリンなんかと話ができるんですか?」


 え。このゴブリンめっちゃ流暢に話してたやん。あ、まさか。


「そういえば御子さん、さっきゴブリンみたいな声出してたな」


 あーあーなるほどねー。私女神様だし、きっと色んな生物の声がわかるようになってんだろうね。とりあえず女神様の加護で言葉がわかるという設定を採用しとこう。


「グギェゴリャベバ、みたいな」


 私そんな声出してたんかい! 可愛らしさのカケラもねーな!

 そこで、事態の推移を見守っていたというか隙を見計らってたゴブリンが、話しかけてきた。


「そこの娘、お前は我々の言葉が話せるのだろう? 何がどうなっている」


「今、あなたとお話をするための猶予を貰えるように、彼らと交渉しています」


「……驚いたな。問答無用で殺されるとばかり思っていたが」


 どうやら本当にそう思っていた様子。まあ農具とはいえ、武器を持った十二人もの人に囲まれたら死を覚悟するよね。人間時代の私なら恐怖で気を失うと思う。


「そうならないよう、あなたの事情とか、色々聞いてみたいと思ってるんです。場合によっては、あなたの助けになれるかも知れませんし」


 なんとなく、予感めいたものがあるんだよね。このゴブリンを助けるべきなんじゃないかって。


「本気で言ってるのか? 我々の、ゴブリンの助けになると?」


「話の内容次第ですけどね。いかがですか? 私とお話、してみません?」


 少しの沈黙の後、ゴブリンは重々しく口を開いた。


「……よかろう」


「それじゃあ、なんとか彼らを説得してみます。少しお待ちください」

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