現地民とのはじめてのふれあい
気が付いたらそこは森でした。
短い神生で既に二回も気が付いたら何処何処でしたをする事になるなんて思わなかったわ。すごくどうでもいいけど。
それでまあ周囲が森なわけなんだけど。ちょっと日本では見たことがない植生っぽい。植物に詳しくないけど、その位はなんとなくわかる。ウネウネ蠢いている植物があるんだもん。
海外かな?
私は植物で何処の国とか亜熱帯地域云々とか判断はできないし、取り敢えず周囲の散策をして確認してみようと思う。というわけでさっさと森を抜けよう。
ただし、歩くことはしない。
私は女神だ。空を飛ぶのなんて造作もない事。女神パワー略してMPを使って空の旅に出発だ。
体に満ちるパワーをアレしてほいさー(語彙力)。
するとどうでしょう、私の体がゆるゆると上昇していくではありませんか。
そのまま上昇を続けて、樹上五メートルくらいの高さで一旦停止する。眼下には森アンド森アンド森である。
おおおおお。いいな、これ。人類の悲願が達成された時である。私女神だけど(女神ジョーク)。
冗談はさておいて、五メートルくらいの高さだと周囲の様子がよくわからんね。ということで思い切ってもっと高く飛びあがる。気分は野菜の戦闘民族のそれである。たのちい。
ほどほどの高さでまた止まる。これくらいなら周囲を一望できる。
ふむ、私が目を覚ました位置は、森の中でも浅い所だった模様。
森をそこそこの規模の川が縦断していて、森と川に程近い場所に建物が六棟しかない集落を発見。
何処らへんまでが私の管理する土地なのかわからないけど、近辺に他の集落はなさそうだし、きっとあの集落は私の管理下にあるもののはず。
とりあえず、またまったりと飛行を開始する。
集落に向かってゆるゆる飛んでいると、森がぽっかりと開けている場所があったので見てみると、どうやら泉があるらしい。
吸い込まれるようにしてそこに着地する。
透き通った泉の水にお魚さんがのんびりと泳いでる。泉の周りには花々が咲き乱れ、インスタ映えしそうな光景である。
ちょっと見たことない感じの魚が泳いでるけど気にしたら負けだ。どんな魚かって? 角が二本くらい生えてる。それだけだ。
とりあえずお魚さんが気にならないくらいの素敵スポットだ。よし、ここを私のホームにしよう。屋根も何もないけど、開けているから目印にはちょうどいい。
心の中でこの場所をお気に入り登録して、改めて集落へ出発だ。
というか森の中でも割と浅い位置にいた為、すんなり集落に到着する。
おうおう精が出ますなぁ。みんな手に手にクワとかなんか道具持って働いておりますわ。人類にあるまじき髪色とかしてるけど気にしたら負けだ。どんな色かって? ピンクとか緑とかだよ。
……まーね、いくら鈍感な私でも分かりますわ。
ここ、異世界だわ。
どうやら集落の人々には私の姿は見えないようで。そりゃー土着とは言え女神様のお姿がそうそう軽々しく見られるわけがない。
そして見えないのをいいことに、集落内を好き勝手見て回って次のことがわかった。
まずは生活水準が低いこと。集落の六棟の木造の建物自体は割と新しい。新しいけどそれだけだ。私が良く知るスマホとか冷蔵庫とか電子レンジとかテレビとか、そう言った文明の利器は全くもってない。クワ抱えてる時点で知ってた。
次に彼ら現地民の言葉が理解できること。まあこれから交流を持とうというのに、話す度に翻訳の奇跡とか使ってられないよね。これについてはラッキー。
そんでもって最後。彼らはこの土地を開拓しに来たようだ。開拓がキツイ、つらたん。とか言ってた。つらたんは言ってないけど。
これだけ分かれば充分だよね。と言うわけで、彼らへのアプローチの仕方を考えてみよう。
いきなり集落の中で姿を現わすのは、相手に無用な警戒心を抱かせるだけだからアウト。
空を飛んで神々しく登場することも考えたけど、私に神々しさはない。見た目だけならめっちゃ美しいんだけど、こんな性格だ。今後集落の人々と頻繁に交流を持つことを考えたら、いつか化けの皮が剥がれるだろう。そんでもって、頻繁に人前に姿を現わす女神とかありがたみもへったくれもないし、そんなのは私が嫌だ。私は神秘的で美しい女神でありたいのだ。
ということで、化けの皮が剥がれず私の神秘性と美しさを揺らがすことのない、かつ女神様の有り難みがマシマシになるであろう存在を仕立て上げることにした。
所謂、神の使いである。
神の使いが森から現れる。集落の人と接触。現状で困ってることがないか確認。奇跡で困り事を解決。女神様教発祥。
完璧だ。完璧な計画だ。
そうと決まれば準備開始だ。
まずは神の使いの見た目を考えなければ。またしてもキャラクリする羽目になるとは思わなんだ。
老紳士が出したカードをイメージしながら、女神パワーをほいさー……できない!? ナンデ!?
アレか、信仰の力とやらが足りてないのか? 新たな存在を作り上げる奇跡を行うには、力が足らないと言うことか。
早くも計画が頓挫してしまうとは……。いや待てよ? 私が変身して神の使いを名乗ればよくね?
……うん。これなら女神パワーも余裕で足りる。私天才。
じゃあ変身の奇跡を行いますかね!
ということでほいさー!
現れたるはモニターとコンシューマー機のコントローラー。モニターには人の3Dモデルが映し出されている。
キャラクリの方法は私自身の時を参考にした。むしろ殆ど同じ。映し出す方法がモニターってだけの違い。
キャラクリは一回やった後だし、完璧なる美を求めなくていいからささっと終わる。あ、これ変身リストのお気に入り登録とかできるかな? できるわ。ほいさー。何人か作っておくと便利かも。後で作ろう。
ということで、黒髪ロングのクールビューティな女性を作りましたよ。服装もトーガじゃなんだし、この世界の神官が着てそうな服を勝手なイメージで作り上げた。
ということで変身ーほいさー!
ぬ、鏡がないから自分の顔が確認できない。髪を一房持って見ると、確かに黒髪だし服装もしっかり変わってる。ばっちりだ。
人から見えないことをいいことに、実は集落のど真ん中でキャラクリしてた。てへ。
さて、作戦を実行するために一旦森へと移動しよう。ど真ん中から出直すっていうのもシュールだけどね。
念の為、変身が継続してるのを確認して再スタートだ。敢えて茂みの中をガッサガッサ音を立てながら進んでいく。一応、森付近にいる人達の目に入るようなルートだけど、念の為ね。
しかし歩きにくい。前世というか人だった時は山歩きとか全くしなかったから、めっちゃ疲れる。気がする。
いや、女神になってからというもの、体力的な疲労は全然感じないっぽいんだけどね。精神的には疲れるみたいな。それも人間の時と比べたら精神疲労なんてあってないようなものなんだけど。
というわけで、歩きにくさから若干の精神疲労を感じるような気配を感じとったくらいの精神疲労になりかけた頃、森から出ることができた。
お、都合よく集落の人が二人、こちらを見ている。茂みの音効果万歳。
よくよく見てみたら、なんかクワを武器に見立てて構えてる。警戒してるっぽい?
あ、それも当然か。ここは森が近いし、野生生物が出てくる危険があるわけだ。熊とか出てきたら命の危機だもんね。わかるー。とか考えてたら男性二人が呆けた顔をしてクワを取り落とした。一体どうした。
というかそれどころじゃなかった。作戦を実行せねばなるまい。……よし、いくぞ。
私はとある女神様に仕える僕。この辺りに人が住み始めたと女神様から聞き、確認しにきた。あなた達がそうか?
噛まずに言えたぜ。ちょっとした威厳を出しつつ、あまり偉そうでない物言い。上出来だ。
第一印象は中々のはず。はてさて相手の反応は。……あれ? 無視っすか? やんのかコラ? いやいやここで喧嘩腰になったら信仰の力を得る計画がおじゃんになってしまう。焦るな私。とか考えてたら相手が口を開いた。
「あ、あのぅ、あなた様は……?」
は? さっき名乗ったじゃん。いや名前は言ってないけど神の僕(偽称)って言ったじゃん。聞いてなかったの? あ、私も老紳士に同じことしたことあるし許す。
あれ、というか待って。私、声を出して言ったか? 神となって数時間、一言も声出してなくね? 老紳士がナチュラルに思考読んでくるから脳内会話に慣れてたわ。あかんあかん、仕切り直しだ。よしいくぞ!
「アッアアッノ、ワワ、タワシッシ、トトトトアルゥ」
あかああああああん!!
声がでねぇぇぇぇぇえええええ!!!
こちとら神として生を受けて数時間だ!! 今まさにおギャンと産声を上げました!!!
私の挙動不審ぷりを見た男性二人がちょっと引いてる。
ヤバイヤバイ焦るな私。こういう時は奇跡を使うんだ。素敵な発声ができる奇跡〜ほいさー!
安っぽい奇跡だなんて言うな。使ってる本人が一番わかってる。
「コホン、失礼しました」
やっとの私のまともな発言に、男性二人に安堵の表情が浮かぶ。計画の第一弾、順調な滑り出しである。