すごい一体感を感じる。
我らが集落に温泉が湧いた。
温泉が湧いたし、集落を観光地化出来ないかなーとも考えたけど、ど田舎だからお客さんは簡単には来れない。ついでに言うと、観光すべき場所は何もない。
強いて言うなら女神の泉だけど、見た目はただの泉だし、寝に帰ってるだけの場所だから、有り難みもくそもない。つらたん。
しかも、領内の平民ってのは商人でもなければ気軽に旅なんかできないようで、温泉などの保養施設で収益を上げるのは難しいだろう。
呼ぶならお貴族様なんだけど、正直呼びたくないよね。だって、どんな無理難題を吹っかけられるかわからないもん。偏見? 税の重さが物語ってるよね。いや、まあ、モロウさん達の村の領主が悪い意味で特別なだけかも知れないけど、そんなに大きく変わらんでしょう(偏見)。
そもそもとして、税から逃れようとしてんのに人は呼べないって事に気がついた。人呼んだら逃げた事バレちゃうやん。
外貨獲得のチャンスかと思ったけど、そうそう甘くなかったね。
人は呼ばない、てか呼べない。超ショック。そんな失意のズンドコにいた私だったが、呼ぶ呼ばないのお話ではなくて、向こうから来ちゃうパターンを全く想定していなかったのである。
遂に、村人全員を受け入れる建物が完成した。そんな矢先だった。
ある昼下がり、最後の一棟が建て終わった。完成を見届けた村人は全員、快哉を叫んだ。
今日はお祝いだと、肉やら芋やらを倉から持ち出して、そういう事ならと、私も奇跡でお酒を出そうとした時だった。
一台の馬車が、この集落に乗り付けた。
馬車の周りを四人の騎兵で囲っており、なんだか物々しい雰囲気を醸し出している。
そしてその馬車は、すっかり静まりかえった広場に停車した。
馬車からは、身なりのいい一人の男が降りて来た。否、もう一人、見知った顔の男が降りて来た。
「サム……」
村人の誰かの声が、静かな広場に響いた。
それを意にも介さず、身なりのいい男は不躾に辺りを見回している。
「ふむ。あの畑がそうかね? 見たところ苗だけの様だが」
「既に収穫が済んで、倉に保管してあります」
途端、集落内が騒ついた。それもそうだ。今の短い会話だけでもわかる。要は、サム君はモロウさん達を売ったのだ。
「どこだね」
「こちらに」
我が物顔で歩くサム君と男と護衛。みんなは突然の状況に動けないでいる。広場から倉まで、然程距離はない。誰かが止める前に、彼らは倉に着いてしまった。
「ほう! 聞いた通り、大した量だな。どれ」
男は醜悪な笑みを浮かべて、倉の中を歩き回った。
「ま、待て!」
モロウさんが止めに入ろうとするも、サム君が立ちはだかり足止めをした。
「サムッ! テメェ、みんなを売りやがったのか!」
「売ってなどいない。村を管理する者として、当然の報告をしたまでだ」
側から聞く分には、至極当然の事にも聞こえる。だけど、集落を作る事に同意したのは誰あろう、このサム君だっていう。ダウト。
モロウさんの顔が怒りに染まり、今にも殴りかかりそうだ。
「おっと、手を出すなよ。俺は今、徴税官のアーリエン様と公務でここに来ているんだ。邪魔したらどうなるか、わかってるよな?」
それをサム君が上手い事躱した。その機転の良さは、他で発揮して欲しかったと村のみんなは思うはずだ。
「七割だ」
「は?」
徴税官のアーリエンが突然口を開いたので、サム君を除く誰もが首を傾げた。
「収穫高の七割を、十日以内に街まで運べ」
「なっ!」
「不服かね?」
アーリエンは心底不思議そうに片眉をあげた。
「当然だ! 誰がここを開拓したと思ってる!」
「君達だろう? 君達の頑張りを評価して、七割に済ませてやろうと言っているんだ」
モロウさんを一瞥すらせず、淡々と徴税官は述べている。めっちゃ性格悪そう。
「俺達が一から、お前達の援助も受けずに開拓したここの作物を、渡せだと?」
「何を勘違いしているか知らんが……」
心底呆れた様にアーリエンは溜息をつき、宣った。
「お前達領民は、須らく領主様のモノだ。領主様のモノが立てた手柄は、全てが領主様のモノになる。お前達が開拓をしたこの地は、領主様のモノである。こんな事も言われなければわからないほどとは、お前の村は愚物しかおらんのか」
「は、申し訳ありません」
モロウさんはもはや、怒りで顔が真っ赤に染まっている。しかし、理性は失っておらず、手を出さずに済んでいる。
何しろ、徴税官の周りを帯剣した護衛が固めている。手出しする前に、切り捨てられてもおかしくない。
「今後も継続的に、同量を納めよ。女神とやらの力を使ってな」
サム君、いやもう、こいつでいいや。こいつ、女神の力の事まで話してたらしい。みんなも驚きで声を失っている。
「くくく。これだけの食料が継続的に入るとなれば、我らが領土は大いに潤うぞ。他領に恩を売れるやもしれんな。領主様も大変お喜びになるだろう。よし、行くぞ」
用件は終わりとばかりに、いや、実際終わったんだろう、倉を出て馬車へと向かって行った。
モロウさん達は立ち尽くすしかない。建物が完成してこれからという時に挫かれちゃったわけだし。こればかりはモロウさん達が可哀想すぎる。
徴税官が言ってた領民は領主のモノってのも、この世界においては間違いではないんだろう。
だけど、なーんか気に入らないんだよね。女神である私の意思が蔑ろにされてる感じがさ。当事者として、文句の一つを言ってもバチは当たるまい。
「お待ちを」
「ん? なんだ、ね……」
さっきまでは空気を読んで透明になって様子を伺ってたけど、もういいでしょとばかりに姿を現した。
振り返った徴税官は、私を見て驚きに目を見開いている。
「ほ、ほう。こんな田舎に、大した女がいたもんだ」
「どうも」
褒めてるんだから褒めてないんだか、よく分からない言葉を言われたから返しに困ったじゃないか。
「お前は運がいい。もし私のモノになると言うのなら、贅沢な生活を送らせてやるぞ?」
うわーい。愛人勧誘受けちゃったー。全っ然嬉しくねぇ。
「本当ですか? 私は安くないですよ?」
私が乗り気な事に村人達は驚いてるけど、安心してほしい。君達が心配する様な事はするつもりないからね。
「ああ、当然だとも。何でも言うといい」
「そうですか。そうそう、名乗り遅れましたが」
私は営業スマイルを浮かべて名乗った。
「私、女神様の使いをさせていただいております」
「何……?」
「さて、贅沢をさせて頂けるというお話でしたね。果たして、私の要求に耐えられますかねぇ」
「どういう意味だね……」
私の言葉に不穏な物を感じ取ったんだろうね、徴税官は警戒してきた。
「私、女神の使いなんかをやってるわけですから、それこそ楽園の様な世界にいた事もあるんですよ」
前世で日本という楽園にな。女神の使いだから楽園を知ってるとか脈絡ないにもほどがあるが、徴税官は知る由も無いだろうね!
「食べ物は国中に溢れ、全国民に教育を受ける機会が与えられる。国土を一日で縦断できる空を飛ぶ乗り物なんかもあったりして」
ネットも漫画もインターネットもある、本当に素晴らしい楽園だった……。私自身の記憶はないんだけどな。
「そ、そんな夢物語の様な国があるわけがない! あってたまるか!」
「いやいや、あるんだなぁ」
あ、やべ、素が出た。まあいっか。
「そんなわけで、あなたの贅沢をさせてやるって誘い文句には全く惹かれないんですよねぇ。毎日、フワッフワのケーキ食べさせてくれるんですかね? 甘いチョコレートとか、松坂牛のステーキとか白いお米とかピザとかラーメンとか食べさせてくれるんですか? 少年週刊誌の続きを読ませてくれるんですか?」
真顔だけど瞳孔が開いているくらい真剣な表情の私を見て、徴税官一行はドン引きである。ラーメンはそのうち奇跡で出してやりたいくらい食べたい。今度試してみよ。
「せめて、今言ったことの一つでも出来るようになってから誘ってくれませんかねぇ」
「ぐっ! 貴様、何様のつもりだ!」
「女神様の使いですが(ドヤァ)」
ドヤ顔してやった。アーリエンはお口をパクパク開け閉めしている。さぞ屈辱であろうね。さてさて、お遊びはここまでだ。
「モロウさん」
「あ、ああ」
呆然としている中、急に話しかけられても返事ができるモロウさんは流石です。
「あなたは税を取られる事が不服である。そうですね?」
「……ああ、そうだ。適正な税ならまだしも、課された税はあまりにも多い。だから、ここを開拓した。俺達は、慎ましく暮らせればそれで良かったんだ」
「ふむふむ。皆さんはどうでしょう。やっぱり不満、あります?」
急に水を向けられて村人達は慌てるが、「おう」とか「ああ」とか、頷くだけだったりの人も居たけど、全員から同意を得られた。同調圧力? 知らんなぁ。
「だ、そうですけど」
今度は徴税官に水を向ける。
「な、ならん! そんな事認められるかっ!」
「だ、そうです。どうします?」
「ど、どうするって……」
再度、村人達に問いかけるも、反応は鈍い。そりゃそうだ。徴税官を前にして、大胆に刃向かう事は出来ないだろう。
「女神様は、あなた方の味方ですよ。あなた方が戦う意思を見せたのなら、最後まで守ってくださる事でしょう」
「っ!?」
「貴様ら、反旗を翻すつもりか!?」
徴税官が喚きちらし、護衛達も剣に手を掛けた。いやいや、こんな所で手は出さないよ。
「何より、女神様は税の為に作物を育ててはくれないでしょう」
「そんな……」
だって、女神が一徴税官の言いなりなんて、女神としての威信に関わる。信仰の力がだだ下がりになるのは、目に見えてわかる。これはよくない。
村人達は税を払いたくない、私は徴税官の言いなりになりたくない。利害は一致している。何も問題あるまい。
「一言、奴らに帰れって言ってやればいいだけなのです。折角の作物は渡さないぞと」
ここは私が手本を見せねばなるまい。
「かーえーれ! かーえーれっ! ハイ!」
パンパンと手拍子を鳴らしつつ帰れコールをする。
「かーえーれっ! かーえーれっ! ヘイ!」
帰れコールと手拍子を続けていると、徐々に手拍子と帰れコールが増えてきた。終いには全員が手を打ち鳴らし、帰れ、帰れと唱和していた。
「かーえーれっ! かーえーれっ!」
すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。
風・・・なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺たちのほうに。
なんていうコピペを思い出すくらいに、広場は熱く盛り上がっていた。やばい楽しい。
「くっ、何だというのだ……!」
徴税官一行はタジタジである。今下手に手を出したら、お互いにタダでは済まないとわかっているんだろう。だから捨て台詞を吐きながら、馬車に向かって逃げて行った。
「貴様らの意思はわかった! 我らに刃向かったこと、後悔させてやるからな!」
おうおう。どちらが後悔する事になるのか思い知らせて進ぜよう。
「あ、因みに、帰り道でそこの金髪野郎の村に寄ると思うんですけど、変な事は考えない方が身の為ですよー!」
彼らは段々と離れていくので、大声を張り上げる。街への帰り道で村人達を人質にされたらやっかいだ。最後の仕上げといこう。
「でないと……」
彼らの目の前で、彼らの馬車が突如として落ちてきた岩塊に押し潰された。上手いこと馬車だけ潰れて、お馬さんは解き放たれた。驚きに駆けていくお馬さん達。達者でな。
徴税官一行は、顎が外れんばかりに口を開けている。
「こうなりますので。女神様はいつでも見守りになっています」
見守るっていうより監視だけど。




