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白くて丸い流線形のアレ

 岩塩を持ち帰った時は、それはもう喜ばれた。

 塩って必需品だけど、そこまで安い物でもないらしいからね。

 私の案の通り、今後はガブルズさん達ゴブリンが岩塩の採掘を担当し、定期的に集落まで運んでもらうこととなった。

 それだけじゃ暇過ぎるってんで、狩りにも勤しみ肉まで持ち込んでくれる始末で、集落の民一同、ゴブリンには頭が上がらない。

 あ、移住した村人にも早い段階で、ゴブリン達との交流はカミングアウトしている。どの道バレることだし、何より、魔物であるもふ鶏が普通に村で飼われてるからね。それ見てびっくりしてたし、じゃあついでにってゴブリン達を紹介したのだ。前回、少数の村人を受け入れた時もそうだったけど、今回も問題なく受け入れてくれた。村人達の度量がやばいくらい深い。

 まあ、ゴブリン達の勤勉っぷりを見てたら、どのみち受け入れも時間の問題だったとは思う。

 さておき、塩問題は解決したし、食料問題は完全に片付いたと見ていいでしょ。

 次は何しよっかなー。

 折角、塩も採れるんだから、外貨の獲得はしておきたいよね。村で物を生産するより、お金で買い物した方がお得って物は山ほどあるだろうからね。

 しかし、塩って国が管理するくらい重要なものだし、下手に売りさばいて御上に目を付けられないかが心配だ。

 その辺の知識を持ってるのは村長あたりの人間で、この集落の人達はわからないとのこと。ここは大人しく様子見しておくのが得策って事で、岩塩輸出作戦は保留にしておく。

 となると、本格的に何しようってなるんだけど、みんなは家の建築で忙しいし、みんなの手を煩わせることはできない。

 中々考えがまとまらないので、もふ鶏をもふりにもふ鶏小屋へとやってきた。もふ鶏をもふもふする事で、発想力が増して考えがまとまりやすくなるのだ(当社比120%)。


「もふ鶏やーい、もふりにきたよ……!?」


 私は言葉を失った。

 もふ鶏小屋に足を踏み込んだ私は、驚くべきものを見つけたからだ。床に白くて丸い、それでいて完全な球ではない流線的なボディをもつそれを。


「た、卵が生まれてる!」


 そう、卵だ。普通のLサイズの鶏卵と比べてみても、三倍近い体積がある卵が、三つも床に転がってる。


「ちょ、もふ鶏さん、暖めてあげて!」


 孵化、孵化させなければ!

 もふもふランド設立への大いなる一歩を踏み出した歴史的この瞬間を石碑にして残しておかなければ(錯乱)。

 あ、いや待てよ。三つもあるんだし、一個くらい食べてもいいよね。私が連れて来たもふ鶏で、もふ鶏小屋を作ったのも、この私。一個くらい食べたところで誰も文句は言うまい。餌の芋はみんなが苦労して収穫したんだけどね。そう考えると罪悪感ががが。

 あ、いや待てよ(二回目)。これは毒味、そう毒味なのだ。みんなが食べても平気な物かを確認する必要があるのだ。それこそが女神たる私の使命なのである(確信)。


「御子さん、ここにいたのか」


 モロウさんが珍しくもふ鶏小屋にやってきた。私の姿が見えない時は、大抵もふ鶏をもふもふしにもふ鶏小屋に出向いている事は周知の事実なのである。そしてそんな時は、集落のみんなは女神の使いである私を気遣って小屋に来たりはしないんだけど、何か急いで確認したい事でもあるのかな。


「モロウさん、何か急ぎのご用事ですか?」


「ああ、大したことじゃないんだが」


 対応の為、小屋の入口に向かった私が抱えてる物を見て、モロウさんは口を開いた。


「お、卵を生んだのか。その鶏の卵ってうま「ああああああああああああ!!!」」


 違う私は何も聞いていない。だから毒味は必須なんだ、いいね?


「こほん。それでご用事は一体なんでしょうか」


 私の突然の絶叫に唖然としているモロウさんだったが、直ぐに気を取り直した。


「……ああ、その事なんだがもう大丈夫だ」


「え?」


「今日はもう何もしなくていいから、ゆっくり休むんだ。女神の使いともあれば、俺達の想像のつかない苦労があるだろうからな」


「はあ、そういう事なら」


「じゃあ、くれぐれもゆっくりとな」


「はい」


 最後まで念を押してきたモロウさんの瞳には、なんかこう、憐れみ的な何かが含まれていた様な気がしなくもないけど、多分気のせいだろう。うん、気のせい気のせい。

 ゆっくりしろと言われたら、ゆっくりさせて頂きますとも。

 さてさて、この卵であるが、どう調理してくれようか。クックック。

 その前に、これが有精卵だとしたらもったいないにも程があるから、キチンと検査してみようかな。もちろんお手軽簡単に奇跡でね。

 ほいさー。

 ふむふむ。まるで御誂え向きの様に、二個が有精卵で一個が無精卵だった。まるで私に食べてくださいと言わんばかりである。

 私がもふ鶏にサムズアップすると、頷き返してくれた。うん、賢い。番いのもふ鶏達は、器用に足で卵を転がして隅っこに移動すると、二羽くっつきながら卵を暖め始めた。


「何がいいかなぁ。目玉焼き、卵焼き、オムレツ、スクランブルエッグ。うーん、悩ましい」


 これだけ大きいと、さぞかし食べごたえがあるだろう。久しぶりの卵だし、よく吟味して食べなければ。

 とりあえず卵は彼らの横に置いておく。古来より卵は保存食であったと聞くし、今日一日くらいで腐ったりはしないだろうから、のんびり悩むのもいいだろう。

 まったりとお散歩と洒落込もうかな。卵は逃げないからね。

 もふ鶏小屋から出て、ぷらぷらと目的もなしに歩き出す。

 そういえば、モロウさんの用事ってなんだったんだろ。

 ゆっくり休めとは言われたものの、特に疲労があるわけでなし。女神になってからは、奇跡を使う事でしか疲れない。故に今は元気いっぱい。

 モロウさんの憐れみの目が気にかかるけど、なんか問題があって相談に来てたとしたら、速やかに話を伺わなければなるまい。

 そうと決まればモロウさんを探そう。

 しかし、そう広い集落でもないから、比較的早くモロウさんを見つける事ができた。見ると、数名の人と深刻そうな顔で話し合っている。


「どうしたんですか?」


「御子さん!? 動いてて大丈夫なのか? その、疲れてないのか?」


 えらい驚かれたけど、さっきも言ったとおり私はすこぶる元気である。


「ええ、元気いっぱいです。それより、みなさん集まってどうしたんです?」


「それがな……」


 いまいち納得のいっていないモロウさんだったけど、今、私の興味はみんなの話合いに向いている。先を促すと、深刻そうな顔で話し始めた。


「毒、ですか?」


 どうやら、家屋の建築も想定以上のスピードで進んでいるらしく、しかし、以前も起こった道具不足が発生していて、暇な人達はこの周囲を探索して資源となるものを探していたらしい。

 で、ある場所で刺激臭に遭遇したと。

 というか、暇な人おったんかい。忙しいだろうと気を使ってたけど、暇な時間すら働くとか勤勉すぎる。むしろ私が無理にでもみんなを誘って、もふ鶏をもふもふさせてればよかったもふもふ。


「ああ、これまで嗅いだことのない臭いだった。毒だったらいけねぇと思ってよ、すぐに戻ってきたんだ」


「今はあくまで毒かもしれない、という判断だがな」


 モロウさんは補足して言う。


「でもよ、本当に毒だとしたら、いつかこの集落にも影響がでるかもしれねぇ」


「せっかくここまで苦労して集落を大きくしたのに、ここを捨てて逃げるのもな」


 なるほどなるほど。そこで、モロウさんは私に相談に来たと。やっぱり来てよかった。とても放置できる内容じゃなかった。


「話はわかりました。それでは、現場には私が向かいましょう」


「おい、危険だぞ」


「私には女神様の加護がありますから、毒くらいなんて事ありません。それに、本当に毒だとしたら、それこそ女神様に浄化してもらわなければ」


「本当に大丈夫なんだな?」


 モロウさんが念押しして聞いてくる。今日はよく念押しされる日だな。


「もちろんです」


「休めと言ったばかりで済まないんだが、頼めるか」


「お任せください」






 場所を聞くと、結構離れた場所まで探索していたらしい。距離にして三キロメートルくらいかな? 途中、歩くのが面倒になって、みんなの目が届かない所まできた所で空を飛んだ。

 聞いた目印を高速で上空を通過しつつ、一分もかからず現場へと到着した。

 話のとおりの刺激臭が、辺りに立ち込める。

 まるで、卵が腐敗したかのような刺激臭だった。


「まさかの温泉だったとは」


 ちょっとした岩場に、天然の温泉が湧き上がっていた。刺激臭とは、どうやら硫黄の臭いだったようで、毒と勘違いしても仕方ないくらい臭い。

 一応、奇跡で毒性の強さを確認する。この世界の人達にとって、温泉の成分が猛毒でした、なんて結果もあり得る。なんせ異世界だからね。

 結果。問題なし。

 効能。打ち身や切傷、火傷によく効き、疲労回復、食欲増進、あとなんか色々体にいい。

 これはもうさ、あれよ。温泉施設を作るしかあるめぇ。

 集落のみんな、頑張ってる。私、応援したい。私、施設作る。集落のみんな、温泉でゆっくりする。みんな元気になる。

 これはすごい。やるしかない。よし、やろう。ってか源泉を集落まで引っ張った方がいいやん、みんなその方が気軽に入りやすいし……と思ったけど、温泉の成分って畑に良くなさそうだし、面倒かもだけどここまで入りに来てもらおう。みんなが頑張って作った畑を潰すなんてことはしたくないからね。

 気を取り直して、施設の作成だ。

 もうね、私にかかれば入浴施設の一つや二つ、小指の先でひねってぽーいってなもんですよ。

 木材は近くの森までびゅーんって取りに行って、切り出しから乾燥まで僅か三分。カップラーメンができる時間で済んじゃいます。

 心持ち多目に木材を確保して一緒にびゅーんって戻ったら、岩場に製材した柱をずんずんとぶっ刺していく。刺した部分は奇跡で固めて、なんちゃって基礎を作成する。その後は梁を渡して屋根を設置していく。順調順調。

 ただ、うん。これだけだと外から丸見えである。目隠しに切り出した板を地面に突き刺していく。あ、脱衣所もないじゃん! 脱衣所も設置設置! げ、これじゃ男女混浴やん!? 仕切り作らなきゃ仕切り!

 とかかんとか、どんどん追加で設備を増設していって、なんとか無事に入浴施設は完成した。計画って大事ね。今回痛いほど痛感した。誰だ小指の先でぽーいとか言ったやつ。

 ま、まあ、ちょっと見た目は不恰好だけど、無事に完成したわけだし、それよりなにより入れりゃいいのよ入れりゃ。

 よーし、みんなに報告だ。





「温泉?」


「そうです。刺激臭の原因は、天然のお湯にあったわけです」


「毒ってわけじゃないんだな?」


「むしろ、適正な時間浸かれば、健康になれるんじゃないかと」


「ふーむ。ま、女神様がそう言うなら、きっとそうなんだろ」


 安定安心信頼の女神様である。

 みんなは湯に浸かるって事にピンときていない様だったけど、濡らした布で体を拭くのが村人のスタンダードだから、想像がつかないらしい。

 これから少しずつ、温泉の魅力に取りつかれるといい。ふふふ……。




 その後、案の定みんなは温泉にどハマりし、片道三キロの道のりを二日に一回のペースで行くことになった。

 そして温泉施設の事で頭がいっぱいの私は、すっかり卵の存在が頭から消し飛んでて、翌日にもふ鶏小屋に鎮座する卵を見て思い出した。

 温泉卵にした。

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