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対立

 奇跡を行使した後の村人達はそりゃ凄かった。みんな集落に連れてけって言いだすんだもん。飢餓の恐れのあるこの世の中で、安定して食料が供給されるっていうのは、かなり魅力的だからね。

 連れて帰る順番で一悶着起きたけど、モロウさんのカリスマ性と采配で事なきを得た。可能な限り早目に家を建てる事、先に集落に行く村民は建築に協力すること、奇跡で得た野菜は残った村民に優先権があることを条件にしたようだ。むしろ残りたいと言いだす村民まで出てきた。村に残ってたら野菜ももらえるし家建てる苦労を負う必要もないからね。魔物に襲われる恐れはあるけど。

 さて、勝手に物事を決めてたら面白くないと思う人が出てくるのも必然だよね。

 そう、村長一家である。

 村の行く末を決めるのに全く介在出来てないもんだから、村長も、その息子のサム君も、顔に青筋を浮かべてる。


「勝手に村の共有財産である畑の野菜の所有権を決めるでない!」


「誰がこの畑を耕して、種を植えて育てたと思ってるんだよ」


 村長の一喝に、村人達の間から不平の声が上がってきた。


「碌に畑仕事しないくせにな……」


「街に同行すら許されないんだから、作物売った金で遊んでるんじゃないのか」


 村長一家は、普段から余程恨みを買っていたらしい。村人思いのいい人なのかなーとか思ってたけど、これは黒でしょ。アウト!

 村人達が糾弾し続けてる中、モロウさんが村長とサム君の前に進み出てきた。


「村長達も集落に行こう。そこで、一からやり直そう」


 やだイケメン。というか懐深いのにも限度があるでしょ。あんだけ憎まれ口叩かれていて、なおかつ救いの手を差し出すとか、人間できてるどころの騒ぎじゃないよ、モロウさん。


「我々が気に入らないから、この様な仕打ちをしたと言うのか」


「何?」


「我々を代表の座から引きずり下ろし、新しい集落で権力を握るのがお前の企みなんだろう!?」


「どうしてそうなる? このままこの村にいては領主の食い物にされて、みんな倒れてしまうぞ」


「女神とやらの力があれば、それこそ問題ないだろう! 類に見ないほどの作物を納めれば、領主のおぼえも良くなる!」


「そして、領主の懐を肥やすのか?」


「そうだ、巡り巡って我々の地位も立場も盤石なものになるだろう! 左団扇の生活を送ることも夢ではないぞ!」


「女神様は特定の人物の私利私欲の為に、お力をお使いにはならないだろう」


 ごめん、多分ちょっとは使っちゃいます。ちょっとよ?

 まあ、悪欲の権化の様な人物の為に力を使うつもりはないよ。みんなを幸せにしてくれそうな人にはいいかなって思うけど。頑張りは報われて欲しいから。


「……話は平行線の様だな」


「集落に来ないのか」


「誰が行くものか」


「……気が変わったら来るといい」


 モロウさんの言葉に返事はせずに、二人は背を向けて家に入ってしまった。

 陽が落ちてすっかり暗くなってしまったのもあり、辺りは重い雰囲気につつまれてしまっている。

 今夜辺り、村長達からの報復があるかもしれない。モロウさんに付きっ切りで護衛に励もうと意気込んだが、そんな私の心配は全くの杞憂に終わった。いや、それは良いことだ。

 朝起きたら、みんなで集落に向けて出発した。

 道中は何事もなく、陽が暮れかかった頃に集落へと到着した。

 翌日から、残る村人達の受け入れ準備が始まった。





 集落に人が増えてきたことで、一つ問題が浮き出てきた。

 それは塩である。人間が生きていくのに必須なものだ。女神の私には栄養分的なものは必要ないけど、料理の味に関わってくるからめちゃくちゃ大事なものだ。

 塩は村長が管理して村人に配布するものらしく、今回は村長と対立する結果に終わったので、もちろん塩なんか持ってこれなかった。

 集落に移住する計画が立ち上がった時は、むしろ快く塩を渡されたらしい。

 これは推測だけど、移住計画が頓挫したらモロウさんの人望がなくなる。その上で村長が徴税官と交渉して、税の据置きや果ては減免なんて成果を打ち出す。その結果、村長としての威信も保てて株も上がるとか、そんな目論見があったんじゃないかな。

 そしてその目論見は、私が居なければ概ね達成出来てたと思われる。

 移住の為の食料の備蓄に家の建築、本来は相当長期に渡っての事業のはずだ。やってる事は開拓そのものだからね。その間、作物を枯らさず、魔物に襲われず、その他いろいろな問題に出くわすことになっただろう。小さな問題が積み重なり、やがて取り返しのつかない所にまで問題が発展していた可能性もある。モロウさんは賢いから引き際は心得てるとは思うけど。

 本来は失敗するはずの事業が、半ばまで完成してきている。村長一家としては面白くない所か、自分達の立場を脅かす存在にまでなってしまったのだから、あの怒り具合も頷けるというものだ。全部想像だけどね。

 何はともあれ、現在の課題は塩である。

 栄養分として、お料理のお供として、非常に重要な課題だ。

 そんなわけで、私はみんなの助けとなるべく今日も奇跡を使います。決してお料理の味の為ではないからね? ね?

 それではほいさー! 取り出したるはいつものモニター、ではなくスマートフォン。画面にはこの地域一帯の地図が描かれている。大半は森だけどな!

 さてさて岩塩の在り処はどーこだ、ほいさー!

 お、マップ上にピンが刺さった。ここかな?

 みんなをぬか喜びさせたくないし、ひとまず私だけで現場に行ってみよう。そう遠くないから、飛んで行けばあっという間だし。

 手元のスマートフォンのマップを、飛びながら確認する。歩きスマホならぬ飛びスマホだ。私は透明だし飛んでるしで人にぶつかる心配はまずないから、やりたい放題である。ひゃっほう。

 そして到着。飛ぶとやっぱり早いね。森の中を歩くとなると障害物だらけだから、こうも早く到着は出来ないだろう。歩いて二時間くらいかかるかな?

 最近ゴブリンズも仕事なくて暇そうだったし、岩塩の採掘は彼らに任せても良いかもしれない。彼らなら森も歩き慣れてるだろうからね。

 スマホのマップを詳細化するけど、岩場と森しかないから分かりにくい。と、歩いてたら、何やら白っぽい塊がちらほら見えてきた。

 実体化して、試しに一塊を手にとって舐めてみる。うん、しょっぱい。岩塩だ。地表に結構な数の岩塩の塊がゴロゴロ転がってるけど、掘ればまだあるのかな?

 スマホは消して、今度はシャベルを取り出して掘り返してみた。硬い感触が手に伝わってくる。よしよし、まだまだ沢山ありそうだ。とりあえず、持ってきた麻袋に三つほどの握りこぶし大の岩塩を放り込んで、また透明化して空を飛んだ。

 森の中に鉱脈があるから、ゴブリンズに採掘のお願いをして、みんなには家づくりを頑張ってもらおう。家づくりが落ち着いたら、今度はみんなの暮らしが楽になるような何かがしたいな。今は何も思い浮かばないけど。

 何か問題が起こってからなら色々思い浮かぶんだけどなぁ。必要になってからじゃないと考えが浮かばないなんて、もどかしいったらないね。

 ま、今は岩塩の報告だ。みんなの喜ぶ顔が目に浮かぶ。

 集落近くの森の中に着地して、私はいつもの姿に変身した。

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