お迎え
鶏小屋が建って早数日。もふ鶏達は小屋から脱走する事なく、日々を大人しく過ごしている。
村人達ももふ鶏の脅威は認識しているものの、私がもふ鶏を抱えている姿を見て、「ああ、またか」とかなんとか内心思ったらしい。またって何ですかねぇまたって(半ギレ)。
そんな人々の視線も然程気にならなくなってきた今日この頃。本日ももふもふを堪能すべく、餌持参で鶏小屋に足しげく通っている。
カルシウム成分が卵を作るのに良いとかかんとか聞いた事があったようななかったような、要はかなり曖昧なので、潰した芋と近くの川で釣った魚の骨を砕いてすり潰したものを混ぜて与えている。
「早く卵を産みますよーに」
私は柏手を打って雌鶏に祈りを捧げた。女神が鶏に祈りを捧げるとはこれいかに。
祈りを捧げた後のハイパーもふもふタイムをひとしきり堪能すると、私は変身を解いてインビンシブル女神様モードに戻った。目指すは集落の出入口。
というのも、遂に集落で労役役でない村人を受け入れることになり、村までお迎えに行く事が決定したのだ。だから私も付いて行くことにした。そろそろ集落の外に目を向けても良いんじゃないかなってさ。
……本音? 楽しそうだからだよ。
だってさ、私ってば異世界に来てからこの集落の事しか知らないんだよね。折角の異世界だというに、異世界っぽいことなんも堪能してない。いやゴブリンとかもふ鶏とか居たけどね? それとはまた別っていうか? 私も冒険者ギルドで絡まれてみたいんだよ文句あっか(ガチギレ)。
お、そろそろお迎え組が出立する模様。わーい楽しみー。
つまらん(爆)。
いやいや言い訳をさせてください。やっぱりさ、ただただ歩いてるだけって退屈なんですよ。初めは色々と物珍しさから景色とかその辺の植物とかに目移りしちゃうんだけど、段々とそれも飽きてきちゃうわけ。
透明だからお迎え組にも話しかけらんないし、マジ退屈。だからお迎え組リーダーのモロウさんの引く荷車に乗って寝ることにした。よっこいせっと。
「む……」
「モロウ、どうした?」
「いや、急に荷が重くなった様な……」
「気のせいなんじゃないか?」
そうそう、気のせい気のせい。
「いや、確かに重さを感じたんだが……疲れてるんだろうか」
モロウさん働き者だからね、きっと疲れてるんだよ。集落に戻ったらゆっくり休むんだよ。それじゃ私は寝ようかな。おやすみー。
そしておはよう。よく寝たよく寝た。昼前に寝たのに気が付けばもう夕方で、村までもう少しで到着できそうだ。
因みに私ってば女神だけど普通に眠れるんだよね。女神は基本、睡眠も食事もなくて平気っぽいけど、集落のみんなに生活を合わせているからか、これらの習慣がなくならない。寝るのも食べるのも好きだから、嫌ってわけじゃないんだ。
ぼんやり荷車の上で過ごしていると村に辿り着いた様で、村の人達が出迎えてくれた。
「モロウ! よく帰ってきた!」
「おう、みんなは元気か?」
「まあ、何とかやっている。それよりも、お前達が来たって事は準備が整ったってことか?」
「ああ、流石に全員は無理だが、半数は連れて行けるだろう。今回連れ戻った人数がいれば、全員分の家なんざあっという間に揃うだろ」
周囲の村人から、どよめきが上がる。そりゃそうだよね、まさかこんなに早く移住が進むとは思ってなかったはずだ。食料問題だけで考えても、本来はまだ解決してなかったもんね。
「おお! そりゃ何よりだ。で、どの家族から連れて行くんだ?」
「そうだな……」
なんて打合せをしていたら人垣が割れた。
えーと、金髪の彼の名前はなんだっけ、サム君だったかな? それと、彼を老けさせたらこんなおじさんになるんだろうなって人もいる。
「モロウ、戻ったようだな」
「村長……」
サム君の父親と予想したけど、どうやら的中した。モロウさんは若干苦い顔をしている。村を捨てて出て行こうとしてるんだし、それも仕方ないよね。
「サムとアラドから、大体の話は聞かせてもらった」
アラドって人は、サム君の護衛さんの事かな。集落に来て村に帰って行った人はこの二人だけだから、合ってるはず。
「しかし、どうにも信じ切れん。ヤム芋の収穫と家の建築が既に終わってるとは」
「信じられないのも仕方ない。だが事実だ」
モロウさんの言に、お迎え組の面々は頷く。
「ふむ。もう一度、お前達の言葉でしっかり報告を聞きたい。家まで来れるか?」
「いや、みんなにも話を聞いてもらいたいから、報告ならここでする。村の今後に関わる話だ」
そこで、静かだったサム君が食って掛かってきた。
「モロウ! 村の長に従えないと言うのか!」
「なんだ、やましい事でも話そうと言うのか? それなら仕方ないがな」
「どこまで愚弄するつもりだ貴様!」
「よせ、サム」
あわやって所で村長の制止が入った。
「立ち話もなんだろう。それに家の仕事もある。各家の代表者を我が家に集めればいいだけの話だ。異論ないな?」
「ああ」
モロウさんはそれで矛を収めたけど、サム君は異論ありまくりの模様。
みんなぞろぞろと村長宅へ移動を始めた。その間にさらっと村の様子を伺い見ると、家の出来は集落の物よりしっかりしてる。まあ集落の家は急造だからね。余裕が出来たら、もっとしっかりしたものを作ってもいいね。
ほかに特筆すべきものはなく、すぐに興味をなくしてしまったのはここだけの秘密である。
まあすぐに村長宅に着いたからね!
居間っぽい所に、車座になって腰掛けた。各家の代表者も全員揃ったところで、モロウさんの報告が始まった。
「戻ったサム達からも聞いたと思うが、村人全員が一年位は食っていけるだけの備蓄ができた」
「ふむ。女神を名乗る、得体の知れない存在の力だと聞いたが」
「村長、紛れも無い事実だ。これを見てくれ」
モロウさんは腰に括り付けていた布袋を取り外すと、それを村長に差し出した。村長は怪訝そうにしつつも、開けて中身を確認する。
「……干してはあるが、これは確かにヤム芋。収穫時期にはまだ早いはずだが」
「それが女神様のお力だ。女神様の奇跡がヤム芋の生長速度を速めたんだ」
速めたどころの話じゃ無いんだけどね。何しろ一瞬だし。やっぱりみんなも半信半疑だったみたいで、袋の中身を見ては驚いていた。
「うむ、食料の件については了解した。で、家についてはどうだ」
「家人の人数次第ではあるが、七世帯の受入は可能だろう」
「ふむ」
一度聞いた話のせいか、今度は村人達も落ち着いて聞いている。
村長は目を瞑り、しばしの黙考の後に口を開いた。
「移住の件、取り止めにせんか」
「何故だ、村長!」
モロウさんは怒りと困惑の感情を露わに立ち上がる。
「落ち着け。その女神とやらの力があれば、徴税の件なぞ全くの問題になるまい。それどころか収穫物を大量に売り払うことで、この村に莫大な益を生む事になろう」
「女神様を利用しようというのか!」
「これも村の為を思っての発言だ。それに利用と言うのなら、モロウとわしにどれだけの違いがある? モロウはその女神の力を使って移住を推し進めようとしているではないか」
一理あり……そうで全然違うんだよなぁ。私とモロウさんは、村長と違って共存共栄の対等な関係なのに。けど、モロウさんはまだ私を上に見ているらしい。反論できないようだ。
「だから言ったろうが。あの女一人差し出せば済むと。内密に捕らえて、作物にあの力を注がせ続けるだけでいいんだ」
聞こえてるぜサム君。全然内密じゃないし、そもそも女神を捕らえられると思うてか。
うーん。村長とサム君は取りつく島もなしって感じ。他の村人は徴税は嫌で移住したいけど、やっぱり権力者たる村長親子の顔を伺ってる感じ。
村長親子はともかくとして、他の村人達は救いたい所。
うーん。一丁やったりますか! ほいさー! 女神様ボイス発動!
『モロウよ。貴方の気持ち、有難く思います』
姿は見えないから、みんなに私の声が聞こえる様にするだけで済むし、信仰の力も少なくて楽チンだ。
「も、もしや女神様?」
『村人に加護も与えず、また見も知らぬ私を信じよと言っても無理からぬ事です。ですが、これだけはお伝えしたいのです。モロウ達の、貴方達村人を思う気持ちは本物であると』
いい感じいい感じ。みんな騒ついてる。村長とサム君に至っては顔面蒼白になってる。大分失礼な発言しちゃったもんなぁ。
『そしてモロウの気持ちに感謝し、この村に祝福を与えましょう』
「っ! みんな、表へ!」
さすがモロウさん。私の意を汲んでくれるあたり、本当に優秀な人だと思う。
外に飛び出したモロウさんに続いて、村人達も次々と出て行く。
そして、畑に生っている野菜の数々を見て、驚きに目を見開いていた。
これで村人も移住を決心してくれるといいけど。




