もふもふ
内政始めよう。
と思ったけど、私の知識なんてたかが知れてるからその分は奇跡で補うしかない。
そして人手が足りない今、私のワガママで人々の手を煩わせるのも申し訳ないから、何が出来るかなーと思案中なのであった。
しかして、私の脳裏を一つのアイディアがよぎったのだった。
ーー肉、食べたい。
と。内政でもなんでもなかった。
いやね、集落の人々に合わせて朝晩芋生活を続けてきたんだけど流石に飽きる。グルーレ君が野菜の苗をいくつか無理言って持って帰って来てくれたけど、「食事情が解決された今、食料に関してこれ以上女神様を頼るわけにはいきません」ってみんなが言ってきたから、それらは普通に育てる事になった。収穫は先だし、種の確保が最優先だから、すぐには食べられないだろう。
種を確保するまでは頼ってくれてもええんやで(震え声)って伝えても遠慮されるばかりだった。違う、私が食べたいから言ってるんだ、とはさしもの私でも言えない。どれだけ食い意地張ってるんだこの女、とかまだ思われたくないんだ。化けの皮が剥がれるのは、せめてもう少し先がいい。
頼りすぎは良くない、なんてルールを作ってしまったばかりにこんな事になろうとは。以前の私に説教してやりたい気持ちに駆られつつ、肉が食べたくなったから肉を探す事にした。
肉と言えば狩り。狩と言えばガブルズさん。ってなわけで、やって来ましたゴブリンの住処。ガブルズさんとその息子のギベレさんが洞穴の入口に座っている。
「ガブルズさん、ギベレさん、おはようございます」
「うむ、ミコよ、おはよう。今日はどうした?」
私が彼らの住処を訪れるのは珍しい、というか集落の人がここにやってくる事自体が珍しいのだ。森を通らなきゃいけないし、道なんてあってないようなものだ。ガブルズさん達が定期的に集落に訪れる様になって、けもの道程度の道はできて来たけど相変わらず歩きにくい。要は、よっぽどの用事がない限りはここには来ない。
それをガブルズさんは察してくれたのだ。このゴブリン、デキる男だ。
「実はかくかくしかじかで」
かくかくしかじかに「肉食べたいんだけどどうすればいい?」って意味合いを込めて奇跡を使いつつ言ってみたら通じるかなぁとやってみた。結果通じた。
「狩るしかあるまい。オレらも狩りに出るところだった。良ければ手伝ってくれ」
やったぜ。あ、私が肉を食べたいんじゃなくて、人々と分け合えればいいなって思って、とガブルズさんに言い訳をするのは忘れない。まだ猫被ります。
ガブルズさんとギベレさんは、穂先が黒曜石らしき石の槍を携え道を行く。私は手ぶらで彼らの後をついて行く。ガブルズさんの手伝ってくれってのは方便で、何も手伝わずとも肉をお裾分けしてくれる感がハンパない。いや、もちろん手伝う気満々ですよ?
無言で茂みを歩く事数十分。時たま立ち止まり、足元を調べ始める二人のゴブリンを眺めつつ、私の頭は肉でいっぱいだった。
ステーキがいいな。あ、けど鉄板ってあったかな。それならマンガ肉だ。こう、焚き火で焼きつつ肉にかぶりつきたい。味付けは塩しかないけど、それで十分だよね。スープに骨を放り込んでダシを取るのもいい。具材は芋と野草と肉だけだけど、いつもの塩スープに比べれば格段に味も良いだろう。食べ切れない肉は干し肉に加工するのも忘れてはならない。ジャーキー食べたいジャーキー。あ、でも干し肉にできるほどの塩ってあるのかな? 要確認だ。ああ、夢が広がりんぐ。
肉に思いを馳せてたら、ガブルズさんが片手を上げて制してきた。先を指で示したので見ると、茶色くて丸くてもふもふした生き物がいた。
「鶏?」
そう、茶色くて丸くてもふもふはしているけど、どこか鶏チックなのだ。ただし、大きさは鶏の三倍近い。遠目だからわかりにくいけど、足元の下生えの草の高さを考えると、あの鶏のデカさがわかるというものだ。
「オヤジ、どうする?」
「オレが向こう側に回り込んで気を引く。オマエは後ろから襲え」
「ちょっとお待ちを」
着々と狩りの打合せを行う二人に待ったをかける。私、思ったんだよね。あれ、養殖できないかなぁって。
「なんだ?」
「あの鶏、連れて帰れませんかね?」
「……ミコよ、アレはああ見えて危険だぞ」
多分に呆れを込めた目を向けられた。ガブルズさんが言うなら、やはり危険なんだろうか。いやでも、養殖を試す価値はあると思うんだよね。デカイから食い出がありそうだし。食い意地が張ってるって? これもしゅうらくのひとびとのためなんだよ(棒)。
「そうだぞ、ミコよ。ヤツの蹴りは人の骨も容易く折るぞ」
思ったよりも危険だった。いやーでもなー。養殖すれば、狩りをせずに肉を手に入れられる。ついでに卵も食べられる。集落の人々にタンパク源を供給できると思うと、やってみたいんだよね。
「一度試させてくれませんか? 囮は私がやりますから」
「わかった」
「オヤジ!?」
「ミコに怪我をさせる前に、オレらが狩れば良いだけの事」
「む、それもそうだな」
やだ男前。この二人はゴブリン界のイケメンなんだろうな、きっと。
「ギベレ、オマエは向こう側に回りこめ。後ろから抑えこむんだ。逃げるような事があれば構わず仕留めろ。オレはミコの側にいて、不測の事態に備える」
「わかった」
早速とばかりに、ギベレさんは音も立てずに移動する。なんだかお手間をかけさせてすみませんね。
しばらく待つと、ガブルズさんから合図が出た。ギベレさんが所定の位置に着いたと。どこにいるんだか全然わからん。ゴブリンすごい。
「よし、じゃあ行け」
ガブルズさんの指示に従い、敢えてガサッと茂みを揺らす。すると、茶色いもふ鶏が首をこちらに向けた。と思いきや、地面を啄ばみ始めた。ガブルズさんはそれを見て不思議そうにしている。はて?
じりじりと距離を縮めても、もふ鶏は一向に気にする様子がない。案外大人しいやんけ。
そして彼我の距離が一メートルになったと言うのに、変わらず地面を啄ばんでいる。なんか馬鹿らしくなったので、もう気にせずに近づく事にした。
もふ鶏の側に屈んで、そのもふもふに手を添える。おおお、やわらけええええええ!! めちゃ触り心地いい。ついでに抱き締める。おっほおおおおおお。ふっわふわ!! 大きめのぬいぐるみ感があって抱き心地もすこぶる良い。この子、もうウチの子に決定だわ。
この子雌鶏かな? 雄鶏も連れて帰って繁殖してもふもふを増やしてもふもふランドを作りたい(錯乱)。
もふもふを堪能してたらガブルズさんとギベレさんが茂みの中から呆れたように出てきた。
「オヤジ、一体どうなってるんだ?」
「わからん。が、これもメガミサマの思し召しとやらなんだろう」
聞けばこの鶏、姿を見せたら猪突猛進に襲い掛かってくるくらい危険な鶏らしい。こんなに大人しい姿を見たことがないとのこと。
今回、こんなに大人しかったのも私が女神であることが関係しているのかもしれない。そのおかげか、ガブルズさん達ももふもふを堪能することができた。
その後、鶏冠を持つ雄鶏も確保してから、ガブルズさん達の手を借りて集落に二羽のもふ鶏をお持ち帰りした。
お持ち帰りしたもふ鶏の見張りをガブルズさん達にお任せし、私がするのは鶏小屋の建築だ。幸い木材は余り気味な事もあり、ヤークさんから快く譲ってもらえた。ありがたや。
さて、新しい集落の一員を迎える為の家を建てないとね。奇跡を使っての建築って初めてだから、どうしたもんか。脳内で処理できるほど単純なものでもないだろうし。あ、キャラメイクの時と同じ感じでいいじゃん。
ほいさー、と現れたるはいつものコントローラーとモニター。モニターにはサンドボックスゲームみたいな映像が映されている。材料は立方体ではないけど。
まずは基礎から。と言っても私に建築家のような知識はないからいい加減だ。雨水が鶏小屋の中に入らないように一段土を盛って固めて、倒れなきゃいいのだ、と言わんばかりに地面にぶすぶすと木材を突き刺していく。
次に切り出した板材で囲んでいって、ある程度の高さまで囲えたら屋根を取り付けて完成。あ、放牧もできるように、壁の一部は取り払っておこう。逃げ出さないように柵も取り付けて、と。今度こそ完成だ。因みにどうやって板材を繋ぎ合せてるかって? 私もわからん。
そしたら決定キーを押して、奇跡を実行する。すると木材が勝手に動き出し、大きさが調整され、自動的に建物が組み上がっていく。おお、すごい。
その光景を眺めること数分、鶏小屋が完成した。
もふ鶏の番い(強制)を小屋に放つと、満更でもない感じだった。ふふふ、気に入ってもらえて何よりだ。是非子作りに励んで、もふもふランドを私に提供するといい。
こうして私は満足して小屋を出た。
「あ、肉……」
翌日、また狩りに行った。




