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勇者パーティーから追い出され、雷に撃たれたら貞操がおかしい世界に来たんだけど!?  作者: 七夕飾梨
第1章 1.つまり、女性が変態な世界
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第09話 彼が可愛すぎて辛い

 バーの個室。不思議な事に誰一人としていない店内、僕と国王様が座ったテーブルには飲み物が用意されていた。

 ――こうなることは計算通りだよ。

 そんな事を言われたような感覚。いや、実際そうなのだろう。

 僕が家を出た時には既にこうなる事を予想していたんだろう。

 先見の明。まさしくその言葉がふさわしい。


「――魔族が何故人間を襲うか知っているかい?」


 席に着くなり、そんな質問をする国王様。


「さぁ……。そんな事考えてもみませんでした」


「そうだろうね。普通、そうなんだよ。なぜなら魔族が人間を襲うなんて事は――普通、なんだから。そこに理由なんてなくて、ただ風が吹いたから服が靡くのと同じくらいの普通なんだ。疑問なんて持つはずもない」


 一口、グラスに注がれた酒を飲み、微笑み、話を続ける。


「――でも疑問に思って欲しい。普通に疑問をぶつけてみてくれ。魔族だって生き物だ。それも人間と同じくらいかそれ以上に頭を使う。言葉すら喋れる生き物だ。さて、そんな生き物が何のメリットもなく、人間に争いを挑むかな」


「随分遠回し的な言い方ですね」


「ふふ、男の子と素で喋れる機会なんて少ないからね。少しくらい長引かせてくれよ。それで、なんでだと思う?」


 知性のある生き物が争う理由。

 魔族と人間との争いで一番近いのは戦争――戦争の原因は大抵が何かを得る為、もしくは守るため、正義と正義のぶつかり合いで、悪と悪の押し付け合いだ。

 であれば、魔族と人間との争いにも何かの利益が有ると考えられる。

 だが、思いつかない。ここは一番ありそうな事を言ってよう。


「土地、財産、自由……そのどれかを得る為ですか?」


「ふ、ふふふ、私達は魔族と戦争している訳じゃないんだよ。でも、いいね。その答えが出せるなら正常だ――残念ながら全てハズレだよ。正解はもっと異常なんだ。正解は――人間を飼う為だよ」


「人間を飼う……?」


「そう、愛玩動物に食用に実験用に雑用に処理用にする為に飼う。それが彼らの目的だ。人間からしたらむごくてむごくて、勇者を呼んででも止めたくなるだろう?」


 魔族――それは人間より遥かに強い。一対一の戦いで魔族に勝てる人間なんて数少ない。

 一体十で戦ったって勝てない人間の方が数多い。

 そのトップともなれば、普通の人間でなくとも歯が立たない。例え、百戦錬磨の大男であっても数か所傷を負わせられれば拍手物だ。


 つまり、魔族を楽々倒せる者など勇者しかいないんだ。

 だから、勇者は呼ばれ魔族と戦っている。

 だが、そこまでなら知っている。この世界に来て調べたんだ。『人間を飼う』という目的までは知らなかったが勇者を呼んだ理由が魔族と戦う為だという事は知っている。


「分かっているよ。カシワギさん。君が知りたいのはそこから先――どうすれば元の世界に帰れるのか。だろう?」


 座席を移動して僕の隣に座る国王様はすでにグラスの中の酒を飲み干していた。

 顔はほんのりと赤く、その異世界的美人さに妖艶さを感じてしまう。


「教えてあげるよあげるとも。君が前から早く元の世界に帰りたいと言っていたのは知っているからね。勇者様が教えてくれんだ」


 この世界に居た僕はそんな事を言っていたのか。

 だから、ここまで用意周到に。特別に僕に事情を、秘密を教えてくれるのか。


「まぁ、君が知ったところで何もする事が出来ないのは分かっているから、最初から教えてあげても良かったんだけどね。教えてしまうと、君に危害が及んでしまうから黙っていたんだよ。ハブっていた訳じゃないんだよ」


 少しずつ、少しずつ、国王様は僕に近づいてくる。

 いい匂いがする。紅茶っぽい上品な匂いだ。


「じゃあ、なんで今更教えてくれるんですか?」


「そんなそんなのは簡単な質問だよ。そうすれば君を手に入れられるかもしれないからさ」


 グラスを机の上に置き、その手を僕の手に重ねた彼女の目は、優しく、しかし飢えた獣の様にも見えた。


「次、君が危険にさらされれば、君の身柄は私が厳重に預かる取り決めになっている。いや、そうした。そう取り決められるようにね。だから、君が危険に晒されるのは嫌だけど、晒されてくれれば、大手を振って君を手元に置ける……」


「あの……何を……」


「私はね――」


 国王様の顔が目の前にある。きめ細やかな肌、このケアのしにくい世界でよくそんな綺麗な肌を保ってられる物だ。なんて考えてしまう。


「君が欲しいんだよ。王になって手に入らない物なんて初めてだ。手に入れたいと思ったのも初めてなのにね」


 掴んだ僕の手を胸に動かす、抵抗しようとは思えなかった。なぜなら、その動作に優しさを感じたから、振り解く事ができなかった。

 柔らかい――


「――感じるかい。この鼓動の速さ……好きだからこうなっているんだよ。恋は人をダメにするとはその通りだね。君といるだけで空気が甘く感じて、お酒の辛さなんて感じられないんだ」


「こ、国王様……その、こういうのは……その」


「あはは、焦って可愛いね。はぁはぁ、襲ってしまいたい気持ちを抑えるだけで精一杯だ」


 な、な――なんだこの人!? なんでいきなり告白!?

 国王様の顔の赤みは酒のせいではない。先程まで優しさを感じさせていた目は完全に飢えた獣のそれだ。

 お、落ち着いて表情を変えるんだ。そいして話題を変えて、戻して、この変な空気を正常にしないと。


「あの、それより、話の続きを聞かせてもらえませんか?」


「つれないなぁ。釣り餌が私だからかい?」


「いや、その、国王様は美人なので……抑えているだけで大変なんです。ふざけているだけなら、やめていただけると……」


 はぁはぁ、と息を荒くしている国王様は呼吸を止めて、僕の目を見る。

 恥ずかしい。恥ずかしい。なんで情報を手に入れるだけなのに、こんな羞恥的な事に!


「――抑えてって、え? それって、あれがあれって事だよね。それにまた美人って……。え、嘘?」


 国王様は、取り乱しながら僕から離れる。

 やっぱり、ふざけているだけだったのか……。


「本当です。あの、そろそろ本当に教えてください。こんな事をしていたら夜が明けてしまいます」


「夜が明ける……それって……」


 女王様の鼻から今日何度も見た赤い液体が流れる。


「ん、んん゛ッ! そうだね! 少し、悪乗りが過ぎたね。ノリノリだったね。これからちゃんと説明するよ」


「お願いします」


 出来れば最初からそうしてください。変にドキドキしちゃったじゃないですか。


「君達が元の世界に帰る為には――魔王と邪神と呼ばれる。魔族のトップを倒す事。因みに、魔王はまだ発見されていないし、邪神は復活していないから早くても数か月は、この世界にいるけどね」


 魔王――


 邪神――


 なんだか、一気に異世界的だ。

 魔王というのは何となくだけ予想で来ていた。お決まりだし。

 でも邪神という謎の存在も倒さなければいけないのか。


「わ、私から説明できるのはここまでかな。というか知っている事がここまでかな」


「なるほど、突拍子がないというかぶっ飛んでいるというか」


「魔王の事はともかく――邪神は魔族達の中でもトップシークレットだからね。もし、知られた事が知られたら、君は大変な目に合うだろうね。だから、くれぐれも気を付けてね」


「分かりました」


「もし、何かあっても私はいいんだけどね。勇者様の事だから絶対助けるだろうし、そうなれば君は私の元にくるから」


 まだその冗談を引っ張るんですか。


「さて、国王があまり夜遊びしていては国民から非難されてしまうね。私は(しろ)に帰るよ」


「はい、僕も聞きたいことは聞けたので帰ります。ありがとうございました」


 先に席を立って去る国王に頭を下げる。

 まさか、国王様自ら話を聞けるとは思ってもみなかったが、これで今後やる事を考えていける。

 国王様が店を出たのを確認したら一回席に戻る。

 まず、この後は服屋に行って服を買うべきだろう。

 予想だが、僕の行動がバレたのは服に何らかの仕掛けがされていたからだろう。

 僕の服、いや才徒君達の服もほとんどが国王様からの贈り物だ。


 つまり、服が一番『何か』を仕掛けるとしたらあり得る物だろう。

 幸い、持ち合わせはある。服を一式くらいなら買える。

 もし、それでも行動がバレたら、その時は、また別を考えればいい。

 そうと決まれば席を立ち、店を出て夜でも開いている店に向かう。

 王都は夜でもやっている店がある。少し値は張るがこの際、仕方のない出費だろう。

 今買えば、国王様にバレる確率も少ないだろうし、他に使う予定もないしね。

 僕はフードを深く被り、服屋に行く。


 ――服屋に行くと、スポーツブラ的な物を大量に勧められ、国王様との会話以上に体力を使ってしまった。なんだか色々と割引してもらえたけど、もう疲れた。

 家に帰りつくと、すぐにベットに入る。

 もう、今日は寝る。




〚ノナ・アルファの視点〛




 店から出て、目の前に止まっている馬車に乗る。


「お疲れ様です。どうでしたかカシワギ・ミナミノは。お楽しみできましたか?」


「カラット。駄目ね。全く駄目だったわ」


 馬車の中には私の側近兼メイド長兼騎士団長のカラットが座っていた。


「あら、何か粗相でも?」


「途中まではいい雰囲気に持っていけたのよ」


「あら、ならなぜ?」


「可愛すぎて先にいけなかったの」


 鼻から漏れでる血を、左手で押さえる。


「へ?」


 何言ってるんだこいつ、とでも言いたそうな彼女。


「彼が可愛すぎて可愛すぎて、襲ってしまいそうだったから抑えるので必死だったの」


「……変態ですか?」


「彼が可愛すぎて辛い」


「変態ですね」


 カラットが呆れたように言った。

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