第06話 なんでこうなった!?
気絶してしまった夏風さんは一旦ソファに寝かせて才徒君が帰ってくるまで待つ事にした。
待っている間に床の血も掃除してしまおう。
夏風さんの口ぶりからして才徒君も僕を探しに出てしまったんだろう。
掃除を終えて、三つあるうちの夏風さんとは逆側のソファに座る。
「――あら、帰ってきていたのね」
「あ、燈火さん」
声に振り返ると勇者パーティーで【魔法使い(本当は魔導士)】を務めている女性【海崎燈火】さんが居た。
銀色のセミロング、お姉さんっぽい顔立ちの彼女はパーティーで一番年上だ。19歳らしい。
「燈火さん? あなたが名前を呼んでくれるなんて珍しいじゃない」
なるほど、この世界の僕は前の世界の彼女達の様に名前を呼ばなかったのか。
僕が別の世界から来た【南野柏木】である事を伝えてもいいんだけど、そうすると混乱させてしまうかもしれない。そもそも僕が呼ばれた理由はこの世界の僕の替え玉だ。あまり余計な事はしない方がいいだろう。
「あはは、考えを改めまして」
「そう、まぁ邪険にされるよりはいいわね」
流石年長だな。夏風さんの時から着替えてないけど、夏風さんの様に鼻血を出したりしない。取り乱したりもしないし、落ち着いている。
「ん、夏風寝ているのね。こんな所じゃ風邪を引くわ……【テレポート】」
彼女がそう唱えると夏風さんが消える。これは彼女の能力【魔法創造】だ。【魔法創造】は無い魔法を作り出す魔法。
魔法とは本来、実物を目にしないと発動できない。実物をイメージする事で初めて魔法とは発動する。
しかし彼女の能力は【自分の空想だけで魔法を発現できる】のだ。
自分や相手をある程度の範囲に瞬間移動させる魔法【テレポート】もその一つ。
そうか、これって魔法だと思ってたけど魔導なんだな。
「才徒は今も必死に探し回っているわよ。私もさっきまで探してたけど【魔力探査】したらここに反応があったから戻って来たの」
【魔力探査】一度目にした人間の魔力から現在位置を割り出す魔法……いや魔導か。
「すみません。下着を見られて取り乱してしまって……後で改めて皆に謝ります」
「あなたがそんな事を言うなんて驚きね。てっきり私達なんて才徒の付属品とか思っていると思っていたのだけれど」
「そんな事はありません! 燈火さん達は才徒君と一緒に僕を助けてくれました!! 感謝してもしきれません!!!」
燈火さん達が僕の事を疎外し始めたのは、才徒君が僕のせいで大怪我を負って以来だ。
この世界でその事件が起きたのかは分からない。
でも、それまでの間は燈火さん達も僕の事を助けてくれた。
命を心を……だから、僕は感謝している。どれだけ酷い事を言われても、どれだけ罵られても感謝の気持ちだけは忘れない。
「そ、そう……そんなに真っすぐ言われると照れるわね。その、私達も南野には感謝してるのよ。何だかんだ料理とか作ってくれるし、掃除や洗濯も……だから感謝しているわ」
う、今まで邪険にされていた燈火さんから感謝されると不思議な気持ちになる。でも、これって僕じゃなくてこの世界の僕の事なんだよね。
そうか、前の世界でも家事全般は僕がしてたけど、この世界でもそうなのか。
それでもなんだか、自分の事みたいで嬉しいな。
「えへへ、ありがとうございます……」
「ツンデレの破壊力…………」
バタッ。
という音と共に燈火さんが倒れてしまった。
……どうなってるんだ。
とりあえず、今の気持ちを叫んでおこう。
「なんでこうなったぁぁあぁぁ――!?」
〚海崎燈火の視点〛
夏風、美空、私の三人でお風呂に入ろうと浴室に向かったところ偶然パーティーメンバーの【南野柏木】と遭遇してしまった。
運の悪い事に南野はお風呂上りで、下着姿だった。
『この変態共!!! 死んでしまえばいいのに!!!! もう出て行く!!!!!!!!』
と、驚くほどキレて家を飛び出してしまった。
その声を聞いた才徒が慌てて追いかけて、私と美空も探しに行くことになった。
夏風は「あんな奴の為に動くのなんかごめんよ」と言って、南野探しには参加しなかった。
正直、私は夏風と同じ気持ちだった。
なんで、あんな我が儘なクソ男の為に疲れている体を動かさんと行けないのか。
「あのクソガキが……お前の貧相な体になんか興味ないのよ」
誰にも聞こえないから気持ちのままに言葉を口にする。
全くもって、あんな奴の為に魔力を消費したくはないんだけど……時間を無駄にするよりはマシだ。
「【魔力探査】」
南野柏木の魔力を位置を探査すると、魔力は家にあった……。
こ、これだけ探したのに……家に帰ってやがった……。
「あんのクソガキがああああぁあああぁぁあああぁああああ! 帰ったら絶対ネチネチと嫌味言ったやるんだから!!」
私は【テレポート】で家まで戻る。
先程の怒り顔を隠して、軽く微笑むように、いつものお姉さんポジションを気取る。
魔力反応があったリビングまで行き、ムカつく後頭部を見て声を掛けた。
「――あら、帰ってきていたのね」
「あ、燈火さん」
南野が振り向いてこちらを見る。
な、なんでいきなり名前呼び? 昨日まで『おい』か『あんた』呼びだったのに?
それに、なにそのいやらし恰好? 誘ってる?
エチエチじゃない!
それに、表情も凄く柔らくて可愛い……って何魅了されてるの私! 今日という今日は文句を言ってやるんだから!!
「燈火さん? あなたが名前を呼んでくれるなんて珍しいじゃない」
「あはは、考えを改めまして」
え、私が何か言う前に考え改めちゃってる。確かに、いつも感じる【どっか行けオーラ】も感じないし、むしろ積極的に話し返してくれる。
何これ、私なんでこんな我が儘男にキュンキュンしてるの……。
「そう、まぁ邪険にされるよりはいいわね」
私は横目でソファに寝ている夏風を見る。なるほど、もしかしたら私が来る前に夏風に色々と言われたのかもね。
彼女、私達の中で一番文句とか言える正確だし。
「ん、夏風寝ているのね。こんな所じゃ風邪を引くわ……【テレポート】」
とりあえず、寝ている夏風を部屋に移動させる。
正直、彼が心を改めたとしても私は文句を言いたし、少しくらい皮肉を言ってもいいわよね。
「才徒は今も必死に探し回っているわよ。私もさっきまで探してたけど【魔力探査】したらここに反応があったから戻って来たの」
そう、あんたのせいで雨の中、山を駆けずり回っていたのよ。
ビショビショだし、疲れるし、明日も仕事なのに……。
「すみません。下着を見られて取り乱してしまって……後で改めて皆に謝ります」
本当に心を改めたのね。ここまで素直に謝られると皮肉りがいもないわ。
それに……なんだかさっきまで有った怒りの感情が無くなってきているし……。
「あなたがそんな事を言うなんて驚きね。てっきり私達なんて才徒の付属品とか思っていると思っていたのだけれど」
「そんな事はありません! 燈火さん達は才徒君と一緒に僕を助けてくれました!! 感謝してもしきれません!!!」
私が思っている事を言うと、南野は声を大にして反論した。
え……? 南野ってそんな風に私達の事を思っていたの? あんなに邪険にしてたのは何なの? なんで私は彼をこんなに可愛いと思っているの?
「そ、そう……そんなに真っすぐ言われると照れるわね。その、私達も南野には感謝してるのよ。何だかんだ料理とか作ってくれるし、掃除や洗濯も……だから感謝しているわ」
な、何言ってるの私……確かに彼はなんだかんだ言いながら家事を全部してくれてるし、料理も私達が帰ってくるタイミングに出来上がるようにしているし……。
あれ、彼って思っているより良い人? 今までのってもしかして照れ隠し?
そう考えた瞬間、とある単語が頭の中に浮かんだ。
それは私の大好きな属性だ。
「えへへ、ありがとうございます……」
彼は顔を赤くしてそう言った。かわいい。
あぁ、分かった。これはあれだ。今までの【ツン】の反動だ。
【ツン】が大きければ大きいほど、【デレ】での反動も大きい。
良かった。私が鼻血の出にくい体質で、もし鼻血の出やすい体質だったらここら辺は真っ赤に染まっていた。
あぁ、これが――
「ツンデレの破壊力…………」
私は頭に血が上り、意識を無くして倒れてしまう。