第03話 なんかおかしくないですか?
目を覚ますと草むらに倒れていた。
服が所々焦げている。
あぁ、雷に撃たれた直後なのかな。
「これで本当に僕は……」
僕は試しに魔法を撃ってみる事にした。
――魔法とは【想像】を階級レベルで【創造】する力。
例えば、初級火属性の魔法使いが火炎放射器の炎を【想像】したとする。
しかし、【創造】されるのは指先からマッチ程度の火の玉を打ち出す程度。
これを最上級火属性魔法使いが【想像】したとする。
その【創造】は【想像】をそのまま具現化する。
問題は、この二つの魔力消費量が同じという事だ。
「【想像】するのはコップ一杯の水――」
【想像】を開始した瞬間、目の前に【創造】される水。
神様が言っていた【全属性魔法成長異常】の能力。
名前からして、魔法の成長速度が数倍になるんだろう。
「【想像】の半分か……。やっぱり半分のまま」
目の前に【想像】した水の丁度半分程度の水が【創造】された。
成長速度が数倍なら、数十回繰り返せば目に見えるくらいの成長ができるだろう。
毎日魔力が尽きるまで訓練すれば、数か月で最上級にも届くかもしれない……。
「もう一度……【想像】」
先程の様に【創造】される水……あれ、と、止まらない……ちょ、とまッ!!
「ウブブブブブブブ!!!?(お、溺れる!?)」
【創造】された水は、先程の比ではなかった。
浴槽クラスの水が【創造】され、完全に溺れる。
「ビブンボバボウベブバベルッッ!!!!(自分の魔法で溺れる!!)」
抜け出さなきゃ!!
発動している魔法を解除する。
「うべっ!!」
僕を包んでいた水は重力に従い、地面に落ちて僕から離れる。
危なかった……もしも、焦って魔法を解除できなかったら溺れて気を失って、また神様の所に行く所だった。
いやぁ、本当に危なかった――
「――って、なんですかこの成長ーーーーー!!!? 成長異常にも程がありますよぉーーーーー!!!!!!」
使用した魔力量は先程のコップ一杯の半分と変わらなかった。
最上級魔法でも【想像】をそのまま【創造】するだけなのに……。
(それは、あなたの才能がプラスされたからですね)
「え、神様!?」
急に脳内に神様の声が響く。
不思議な感覚に戸惑うが、そんな事を気にせずに神様は話を続ける。
(はい、神様です。今チュートリアルサポートの為、あなたの脳内的な所に間接的に語り掛けています。本当は直接語り掛けたいんですけどね。制約があるので、天使を仲介してじゃないと人には話しかけられないんです)
へぇ、神様にも制約とかあるんですね。
「っじゃなくて! なんですかあのとんでもない量の水!? 溺れかけましたよ!!」
(自分で作った水に自分で溺れるなんて……滑稽ですね(笑))
こ、この神様の野郎様……口でかっこわらいって言った。
(南野柏木の【全属性魔法成長異常】は貴方の成長の速さを数十倍~数百倍まで上げる【特典】です。先程の水魔法の成長は初回サービスの【999倍】にしてみました!)
「きゅッ!? 999倍!? いや、それにしてもいきなり最上級魔法を超えて浴槽に溜められるレベルの水が【創造】できるなんて……おかしくないですか?」
(はい、おかしいですよ。でもそれは元々の南野柏木の成長率が異常なんです。まぁ、だからこそ勇者に選ばれるわけですが……)
元々の僕……いや、僕は元々中級魔法を使える程度しか……。
(いやいや、あなた一度でも魔法の練習をした事がありましたか?)
魔法の練習……いや、僕が練習しても無駄だからって彼女達から止められてたし、それに才徒君も「き、君は俺が絶対守るよ! だから、鍛錬なんてしなくてもいいからね!!」って言ってたし、一度も練習してない。
(それで全属性の中級魔法が使えていた時点で【化け物】ですよ? それに、元々のあなたの成長率はステータス的に常人の【500倍】です。ですので先程の水魔法の成長は【49万9500倍】ですね)
倍率の桁がおかしい……。
そ、そんな……僕にそんな力があったんて……。
一度でも練習していたら気づけたのに……くそっ、もし練習していれば才徒君達の迷惑にもならなかったのに……!!
自分の怠慢さが憎い……なんでやる前から諦めてたんだ……。
手の平に爪が食い込むほど強く握りしめる拳からは血が滲む。
(……そんなに自分を責めないで下さい。貴方は悪くありません。それに、これから才徒さん達に恩を返していけばいいじゃないですか)
「恩を返す……そうだ……!! これだけ力があれば、才徒君達のお荷物になる事もない!! すぐに、戻ろうっ!!!」
(え、あっ、も、もう戻るんですか?)
「はい!! 早く戻って土下座でもなんでも謝罪して、これまでの事を話して、またパーティに入れてもらいます!!!」
僕は山道を登り、才徒君達の居る家まで駆けあがる。
喜びで口角は吊り上がり、笑みがこぼれる。
謝るなら早い方がいい。謝罪を遅らせると、わだかまりは広がり深くなり、許してもらえなくなっていく。
今謝れば、数日雰囲気が悪くなるくらいだ!!
(数日雰囲気が悪くなるって……)
それでもましな方ですよ!
僕の別れ方って最悪でしたし!!
(確かに、あの別れ方は勇者達と決別して別の仲間を見つけて本当の自分の力に気づいて無双していく展開でしたね……)
なにバカな事言っているんですか?
そんな都合のいい展開ある訳ないじゃないですか!!
(いや……私が呼び出さなければ概ねその通りになっていたかと……)
「きゃッ!!」
「なっ!?」
無我夢中で山道を登っていると、見覚えのある少女とぶつかった。
肉体の強さは変わらないので、吹っ飛ぶのは僕の方だ。
な、情けない。
「南野さん!」
「えっ……」
僕がぶつかったのは桜井美空。
勇者パーティで回復担当をしている少女だ。
名前に合った綺麗なロングの桜色の髪を持った可愛い系の少女だ。
いや、今はそんな事どうでもいい。
――美空さんが僕の名前を呼んだ……。
彼女は他の二人ほどではないけど、僕へ嫌悪感を感じていた。
そのせいか、他の二人同様に僕を『彼』と呼んでいた。
「わ、わわわわっ!! 南野さん!!! 前、前がおっぴろげだよぉ!!!」
前が……おっぴろげ?
えっ、まさかズボンが雷のせいで!!?
最悪の事態を考え、すぐにズボンに目を向けるが、焦げ穴が開いているのは上だけで下は何ともない。
「べ、別に……おかしい所はないよ?」
「胸が見えてます!! 程よく鍛えられているけど外に出ないから白い大胸筋さんが見えてますよ!!!」
大胸筋さん…………。
「う、鼻血がでてきてしまいました。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。違うんです。年頃の女の子だから仕方ないんです。見ないでください」
鼻血……年頃の女の子…………。
美空さんは顔を赤らめ、鼻血を袖で押さえて止めている。
「私はサイトさん一筋。私はサイトさん一筋」
「あの何かおかしくない?」
「おかしいのは南野さんです!! さっきは下着を見られたからって激怒して出て行ったのに!!! なんで、胸を見られて平然としてるんですか!! もしかしてあれですか『他の人に見られるのは嫌だったけどお前なら(壁ドン』ですか!?」
美空さんってこんな想像力豊かな人だったっけ!?
というか、おかしいよ!!
ツッコミどころが多すぎるけどまず、僕が出て行った理由が違うし、下着を見られて怒るって逆に『なに汚い物見せてくれるの?(拳ドン』される自信あるよ!?
「あっ、なんかくらくらしてきました。鼻血の出しすぎです……ひゅぅ」
バタッと音を立てて倒れる美空さん。
ほっておく事は出来ないので、背負って家まで連れて行くしかないだろう。
でも、その前に……――
「――神様、なにかおかしくないですか?」
(――神様は現在、電波の届かない場所にいるか、電源が入っていないため返事できません)