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第14話 気まずくて楽しい食事

 食事――それは僕にとって決して楽しい物ではない。

 四角いテーブルを囲んで、食卓を囲んで、同じ物を食べる。

 そんな共同の空間、共同の時間を、共同の場所で過ごす時間。

だが、僕らには才徒君という壁があった。同じ場所に居るはずなのに僕と彼女達は喋る事は一切なく、間に才徒君という壁があったんだ。


 今日の朝食当番は僕、ギルドに行く前にほとんど調理を終わらせて温める程度だったので、簡単に終わった。

 温め終わると「ただいまー」と才徒君達が帰ってきた。


「――いい匂いだな」


「あれ……人数分あります」


 人数分あるって美空さん、もしかして僕の分は要らないとかそういう事ですか……。

 夏風さんと燈火さんは驚いた顔で見てくる。

 首を傾げてしまう。なんだ?


「私達の分もあるのね……」


「あたし達の分は無いかと思っていたわ」


「え、そんな事する訳ないじゃないですか! 働いてくれる人のご飯を作らないなんて……」


「……あんた、つい数日前もあたし達の分抜いたわよね」


 ――あっ、そうか。この世界の僕は前の世界の彼女達の様な行動をとっていたのか……。

 だとしても、一番働いている人達のご飯を抜くのは酷い。


「すみません。今日からはしっかりと作らせてもらいます」


 この世界の自分に代わって頭を下げる。

 前の世界との相違、これを少しずつでも無くしていかないと……。

 似ていても前の世界とは、まるで違う世界なんだ。


「……ふん、別にもう気にしてないわよ。謝ってもらえたし」


「私は元々朝食は取らない派だから、気にしてなかったわ」


「その……作ってくれてありがとうございます!」


 彼女達との会話が成立する。なんて嬉しいんだ。

 前の世界なら、絶対に許してもらえないだろう。

 優しい世界だ。


「皆が仲直りしてくれると俺も嬉しいな! それじゃ、柏木の作ってくれた朝ご飯を食べるか」


「……仲直りも何も、あたし達を一方的に嫌ってただけじゃない」


「ふふ、もういいじゃない。きっと反抗期だったのよ」


「は、反抗期ですか……なるほど……」


「美空……多分違うと思うけどいいわ。今回だけは見逃してあげる。でも、またその【反抗期】が来たらあたしはもう知らないからね」


 な、なんだかいい感じの雰囲気に持っていけてる気がする。

 才徒君が仲介に入ってくれたからかな。


 僕はいつもの席に着く、皆も続いて席についてくれる。


 才徒君の「いただきます」の一言で食事は開始する。


「やっぱり、柏木は料理が上手いね。とても美味しいよ」


「はい! 美味しいです!」


「まぁまぁね」


「毎日味噌汁を作って欲しいくらいね」


 そ、そんなに褒めてもらえるなんて、照れてしまう。


「そんな事より、さっきの話よ。あの――カワギシとかいう男の話」


「んぶっ――!?」


 夏風さんが言った知っている名前に驚いて、口の中に入れていたパンを喉に詰まらせてしまう。


「だ、大丈夫か柏木!?」


「な、何してんのよ」


「あ、あわわ、ティッシュを持ってきます!」


「美空ちゃん、もう持ってきたわよ」


 皆が心配してくれる。

 なんだろう。ちょっと嬉しいかも……。


「大丈夫か?」


「う、うん」


「全く心配させんじゃないわよ」


「ビックリしました」


「辛そうな顔も可愛かったわ」


 皆優しい……なんか最後の人だけおかしい気もするけど優しい――


 ――じゃなくて! これから始まる話、絶対に僕が聞いたら駄目なやつなんじゃないの。


「さて、話を戻すわ。あのカワギシとかいう男、皆から見た感想を教えて頂戴」


 か、感想……聞きたいような聞きたくないような聞いちゃ駄目なような。


「俺は不愛想だけど良い人だと思う。自分の事もあるのに最後には協力してくれると言ってくれたし」


「私はその、優しい雰囲気の方だと思います。昔からぱっと見で分かるんです」


「私は嘘の下手な人……かしらね。仮面やフードの件もそうだけどあの喋り方とか声のトーン……ふふ、作ってるのが分かりやすかったわね」


 ……なんだか、クールキャラを信じてくれてるの才徒君だけ!?

 皆さん鋭い! このやろう!!


「そうね……。それに皆気づいていると思うけどあの男……とんでもなく強いわ……」


「あぁ、まさか全員で魔力をぶつけても一切効果なしとはな……。普通なら気絶してもおかしくないレベルの魔素濃度のはずだったんだけど」


 え、そんな酷い事してたの!?

 だからなんか少し部屋が暑いなぁって思ったのか。


「あの谷で最上級魔法を使用したというのは本当みたいね」


「はぁ……国王様の命令とはいえ、人を騙して調べるなんて心が痛むな」


「仕方ないじゃない。もし、敵対勢力なら私達しか止められないんだから」


「安全なら逆に意地でも味方にしたいわね」


 そんなに大きな話だったのか……。てっきり国王様が思い付きで「強いなら勇者パーティーに入れて」って言っているのかと思っていた。

 ごめんなさい国王様。


「まぁ、これから彼の調査は続くだろうし、俺達は俺達で出来る事をしよう」


「そうね」

「そうですね」

「ふふ、そうね」


 調査……続くのかぁ……。

 なんだか、いつもとは違う居心地の悪さだ。

 悪い事をしている気分……。


「あ、ごめんな柏木。仕事の話をしても分からないよな」


「ま、他の話は後でいいわ」


「た、たまには南野さんの話を聞いてみたいです……」


「そうだな。良ければ柏木の話を聞かせてくれ」


 この世界に来て……いや、前の世界の含めて僕から話をするなんて初めての経験だった。

 皆、話をしっかり聞いてくれる。話し下手な僕だけど、しっかりと相づちを打ってくれる。


 元の世界以来だった――食事の時間を楽しいと思ったのは……。


「それで――」


「――やぁ、お食事中に勝手に失礼するよ」


 急に話を遮られ、驚いて声の方に振り向いた。

 するとそこには、国王様がいた。

 今回は短めです

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