第13話 早過ぎる対面
後日、ギルドに行くと8階級に昇格していた。
――何故!?
才徒君達が7から8階級に上がる時は一月くらいかかったのに一日!?
何が起きたんだ。
「おい、あいつ」
「えぇ、あの伝説の」
遠くの席に座っているお姉さん達の声が聞こえてくる。
な、何がどうなったら一日で伝説が出来るんだ……。
昨日、何かしたっけ……。 ブルーブルを討伐して、モノの谷を破壊したくらい……。
でも、それは依頼通りだから違うよね。
「か、カワギシさん~。オレが帰った後に何してくれてるんですか~!」
受付さんが僕を見つけた瞬間、近づいてきて肩を掴まれ前後に揺らされる。
ま、またかかかかか。
「な、何って依頼をクエストをクリアしただけけけけ」
「それだけでこんな大騒ぎになるわけないじゃないですかー!! 女ギルド会員に質問攻めにされるオレの気持ちにもなってください!」
「本当に何もしてててないいいい」
うぷ、き、きもぢわるい。
「聞いてますよ! ブルーブル全滅にモノの谷壊滅!! 何……何一日で二つも伝説作ってるんですか!?」
「えええ、だってそれ依頼だったじゃないですかああああ」
「依頼書には確かに書いてますよ! でも、あれは駄目元というか無理元というか不可能元なんですよ! やる事無茶苦茶すぎてカワギシさん魔族説なんて出てきてるくらいなんですよ!!」
「え、ええええ!? なんで!? 魔族って!!」
むしろ真逆! 勇者なんですけど!!
「オレ、休みだったのに叩き起こされてギルドの会議に引っ張られたんですよ……」
受付さんは肩から手を退けて、僕に顔を近づける。
あ、目の下に隈が……本当にごめんなさい。
「はぁ……そんな事言ってるのは一部の噂好きくらいですけど、そんな噂が立つくらいの事をしたんですよ!」
な、なんだってー!
やってしまった。ただでさえ勘違いされているのに、その上に勘違いが上乗せされた。
ど、どうしたらいいのでしょうか。
「まぁ、やってしまったものは仕方ありません。別に悪い事をしたわけでもないですし……。それで、これからの予定について話させていただきます」
「予定……ですか……」
受付さんは手帳を取り出す。
参ったなぁ。本当はあまり目立たずに、地道にお金とか地位を確立するつもりだったのに……。
「まず明日、急なんですが――勇者パーティーと面会していただきます」
「はぁ……勇者パーティーと面、か……い――?」
「はい、そうです。なんでも、貴方ほどの実力者なら勇者パーティーに加えてもいいんじゃないかと国王様から御達しがあったようで」
こ、国王様ぁ! 仕事が早すぎますよー!!
もっとゴロゴロしてていいんですよ!
まずいまずい、流石に勇者パーティーに――才徒君達と会うのはバレるかも知れない!
「あのぉ、それは断れ「――ません」ですよね!」
な、なんか考えないと……打開策を妙案を――考えなくては。
◆◆◆
――考えつきませんでした!
一日考えたよ! でも、無理だよ。詰みゲーだよ!!
何国王命令って!!! 僕達の特典よりもチート能力じゃないですかああああ。
考えて寝れなくて、朝うとうとしてたら才徒君に『大丈夫か? 何か悩んでるなら相談に乗るぞ?』って言われたよ。
優しい! でも無理!! だって、悩んでいる理由君なんだもん!!!
「あ、あの、腹痛が痛いから今日は無しに「――できません」ですよねー!」
「なんでも、勇者パーティーには回復魔導の得意な女性がいるみたいですよ。その方に見てもらえばいいんじゃないですか?」
その人知ってるー! 今朝会ったよ!!
初めて『おはようございます』って言ってもらえて嬉しかったよ!
「あぁ、ここ魔素の量多くないですか? 勇者パーティーの近くだからかなぁ。具合が悪くゴホゴホッ」
「あの谷の魔素で最上級魔法を発動した人の言える事じゃないですね」
八方塞がり! もうこうなったら背水の陣で挑むしかない。
バレない様に頑張るしかない!
「なんでそんなに勇者パーティーに会いたくないんですか? ギルド会員からしたら憧れの存在ですよ?」
「いやぁ、会いたくないというか会ったらマズいと言いますか……」
「もしかして、知り合いとか?」
「ま、まままままま、まっさか! そんな! 勇者パーティーと知り合いなんて僕風情がそんな!」
(わっかりやすいなぁ……)
今の僕は仮面を付けてフードを付けて、声も変えてるんだ。
バレる訳がない。皆がそんなに僕の事を見ている訳がないし、性格少し変えておこう。
こう、いつもの僕とは違うクールな感じで……。
「――カワギシ様をお連れしました」
来てしまった。この扉を開けたら居るのか……。
「どうぞ」
「あの、受付さんは……?」
「オレが入るわけないじゃないですか。ほら、さっさと行ってください」
笑顔だけど目が笑ってない受付さん……怖い。
なんか、ドキドキしてきた。
深呼吸して――よしっ!
「――初めまして、僕がカワギシだ」
「君が……初めまして俺は【神野才徒】。知ってると思うけど勇者をしています」
「わ、私は【桜井美空】です」
「あたしは【北上夏風】よ」
「私は【海崎燈火】。よろしくね」
うん、全員知ってるよ。
でも、あれだ――皆が勇者パーティーの格好しているのは初めて見た。
なんか、ドラ〇エっぽい。でも、勇者役の才徒君が魔法の杖を装備している。
「立ち話もなんだから座ってくださ――ん?」
途中まで言いかけた才徒君が僕に近づいてくる。
え、まさかバレた!?
「クンクン……柏木の匂いがする……気がする」
に、匂いって……僕そんなに臭い!?
「な、何を言っている? 柏木とは誰だ?」
「あっ、すみません! そんな訳ありませんよね! あはは、俺ってば何言ってんだ……」
そんな訳あります。
全身隠してて良かったぁ。今、冷や汗ダラダラだよ。
「全員座って話しましょうか」
「あぁ……神野、敬語はやめてくれ慣れないんだ」
「え、分かりました……分かった」
少し困惑した様子の才徒君。
普段と違い過ぎるから、むず痒さを感じてしまう。
――全員座る。
話を早く終わらせてしまおう。
「すまないが単刀直入に言わせてもらう。僕は勇者パーティーに加わるつもりはない。これからもソロでやらせてもらう」
これからも何もまだ一つしかクエストをクリアしてないけどね。
「なっ……それは……本当に単刀直入ですね」
「ちょっと待ちなさいよ。理由を聞かせて頂戴。それと、仮面を付けてフードを深く被るなんていくら何でも失礼なんじゃないの?」
夏風さん鋭い!! ど、どうしようか。
ここは嘘でも取れない理由を作るしかない。
「すまない。この仮面は呪いの様な物なんだ。僕は日が昇っている間に肌を外に出す事が、あまりできないんだ」
「……吸血鬼みたいね」
燈火さんがボソッと呟いた。
吸血鬼! それいい!!
「……そうだ。鋭いな。これは吸血鬼の呪い。僕は僕に呪いをかけた吸血鬼を倒す為にギルド会員になった。だから魔族の討伐などに興味はない。すまないが時間がないんだ。勇者パーティーは断らせてくれ」
全部嘘だけどね。凄い。
僕ってこんなにスラスラ嘘を言える人間だったのか……新たな才能……なんか嬉しくない。
「……そうなのか。君の噂が本当なら心強い味方になってくれると思ったんだけどな」
「君達は10階級だろう? 僕の助けが必要だとは思えないけどな」
「はは、階級なんて飾さ。ここだけの話、俺達は壁に当たっている……」
「サイト、喋り過ぎるのは駄目」
「夏風……そうだな。すまない今の話は忘れてくれ」
「あぁ」
無理だよ! 絶対、今日の夜会った時に思い出すし、寝る前に思い出すし、寝起きに思い出すくらいインパクト強いよ!!
要件は伝えたし、僕は部屋から去るために立ち上がる。
「――あの、君さえ良ければ……偶にでいい! パーティーに加わってくれないか!!」
あ、あぁああああああ、その少し涙声で頼まれると断れないよおおおお。
逃げきれなかったぁ!!!
「――分かった……。本当に困った時は頼ってくれ」
あひいいいいいい、予定がどんどん狂っていくー!!!
――もういいや……。新しいクエストに行こ……。
◆◆◆
彼が立ち去った部屋。
この世界に来て、初めて人間で俺達より強い存在に出会った。
最後に、彼に頼ってくれと言われた時、心の底から嬉しかった。
それに――
「――柏木と同じ香りがしたなぁ」
「あいつ、何か隠しているわね」
「えぇ、隠してたわね」
「お顔隠してました」
「違うわよ。そういう事じゃなくて、もっと大きな何か――」
「吸血鬼の呪いの話、あれも半分は嘘だと思うわ。仮面を取れない理由は他にある」
彼女達が彼についての考察を始める。
確かに、彼はカワギシさんは何かを隠している気がした。
でも、踏み入ってはいけない。そんな気がした。
「まぁ、これから偶にクエストを一緒にするなら分かるでしょ……。帰るわよサイト。まだ朝食も食べてないんだから」
「ん、そうだな。今日は柏木の当番だから急がないと!」
「ふん、どうせ私達の分はないでしょうけどね」
「なにか買って帰りますか?」
「いいわ。昨日の余り物があったはずだし……」
「うぅ、冷めたご飯は美味しくないです」
伝説の二本投稿。
眠い星人。