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第11話 勘違いと言わせてくれない

 ――おはようございます。

 ベットから起き上がり、眠気を誤魔化しながら着替える。

 昨日は結局ギルドから逃げてしまって、会員登録を完了できなかった。


 今は六時くらい、才徒君達はまだ寝ている。

 今日の朝食担当は夏風さんだし、どうせ僕の分は無いだろうから今から向かってしまおう。

 ギルドは年中無休だし、人の少なそうな時間に行った方がいいだろう。昨日の事があるし……。


「行ってきます」


 返事の帰ってこない家にそんな事を言ってみる。




◆◆◆




「あぁぁああ!! カワギシさん!!!」


 ギルドに入ると昨日のギルド受付の男性が居た。

 あれ、シフトとかどうなってるの。

 肩を掴まれて前へ後ろへと揺らされる。


「なんでいなくなっちゃうんですかー!! そのせいでオレ、帰れなかったんですよーー!!!」


「ご、ごめんなさい。人込み苦手でででで」


 脳みそが揺らされるううう。

 うぷ、吐き気がああああ。


「夜更かしは美容の大敵なんですよ! 確かに女に囲まれて逃げたい気持ちも分かりますけど、会員登録までは終わらせてくださいよーーーー」


「ほんとすみませんんん。だからもう、揺らさないでえええええ」


「全く、もう眠いのですぐに終わらせましょう。本当は色々と聞きたい事あったんですけど……もう限界です」


 本当、すみません。

 目の下に隈が出来ている受付さんに頭を下げる。


「もういいです。それにオレが残ってたのはカシワギさんの担当を絶対オレがやりたかったという理由もありますし……」


「え、担当?」


「はい、勇者パーティー以来の初期上位ですから! それに勇者パーティーの国王命令とは違って、実力だけでの7階級!! その担当になれば、オレのお給料も上がるし!」


 お、おっう、正直な人だ。

 それにしても、7階級か。


 7、七、なな、セブン――7階級!!?


「な、なんで……なんでいきなり7階級……なんで」


「え、なんでって、昨日8階級のエミールさんを無傷で倒したじゃないですか。それに外傷は二つだけ――つまり二撃で倒したんですよね?」


 そ、それはそうなんだけど、そうじゃないんだよ。

 無傷じゃないから、今も結構お腹痛いんだよ。

 誤解なんだよ。勘違いんだよ。


「あのそれは――」


「――えぇ、私が完膚なきまでに一方的にやられるとは思わなかったわ」


 後ろから声、振りむくと額に絆創膏的な見た目の【万能膏】が貼られたエミールさんがいた。

 万能膏は回復薬が練りこまれた特殊な絆創膏だ。

 い、いきなり現れて何を言ってるの、あなた僕に思いっきり一撃入れたじゃないですか! 足滑らせて自滅したじゃないですか!!


「私に一撃入れさせてよろめくふりをして、油断して近づいた私に膝蹴りを入れて意識を飛ばす……今思えばあの水魔法は足場を悪くして私の速度を落とす作戦だったんでしょ?」


 え、膝蹴り? 膝蹴りなんてしてないですよ? 僕の膝にあなたがヘッドバットしてバッド状態になっただけですよ。


「いい一撃だったよ。記憶が少し飛んじゃってるくらい」


 き、記憶が飛んでたーーー。

 なんだが、僕がめちゃめちゃ強いみたいになってしまった。

 出来ればほどほどに強いくらいの印象で居たかったのに、目立ちすぎると面倒事に巻き込まれる確率が上がる。


「あの――」


 僕が勘違いである事を伝えようとすると遮られた。


「――分かってるわよ。あんたの実力は私よりも上なんだから、もっと上の階級からスタートさせなさいって言いたいんでしょ?」


 いえ、全然。


「でも仕方ないのよ。ギルドの規定でどれだけ強くても初期階級は7までって決まってるから――まぁ、あんたならすぐに9――いや10まで行くと思っているわ」


 そんなキラキラした目で見ないでください……。

 僕はそんなに強くないです。確かに特別な力は貰ったけど、まだ全然鍛えてないし、すぐに化けの皮が剥がれるだろう。化けてないんだけど。

 まぁ、そうなったら興味もなくなって目立たなくなるだろう。少し悪目立ちはするだろうけど。


 それに、僕は階級に興味なんてないし……。

 いきなり7階級のクエストを受けられるんだし、結果的に時間短縮になったのかな。

 ここはポジティブに考えていくしかないだろう。

 勘違いって言っても聞いてくれる雰囲気じゃないし。諦めよう。


「階級にあまり興味はなんですが……評価ありがとうございます」


「階級に興味がない……ふふ、ふふふふっ、いいね! あんた凄く凄く凄く大物になる香りがするわ! あんたが私より上になったら一杯くらい奢ってね」


 一人で凄く盛り上がってる。

 昨日のドジっ子ヘッドバットのせいで熱い空気についていけない。


「私はクエストに行くから――あっと、最後に先輩からの忠告よ。いくら強くても魔物には手を出さない事! 絶対に数人以上で挑む事! 油断は致命的なミスを生むわ」


 昨日油断して負けてましたよね。

 だけど、確かに頷く、いくら力が手に入っても溺れてしまえば脆い。

 今の忠告は心の中に仕舞っておこう。


「それじゃ! 頑張んなさい!」


「ありがとうございます。そちらもお気をつけて」


「男に見送られるなんて幸せ者だわ!」


 そう言うとエミールさんは走ってクエストに向かって行った。


「話は終わりましたね。それではカワギシさんこれを」


 受付さんからギルド会員の証である腕章を受け取る。


「ありがとうございます」


「それと、早速なんですが受けて欲しいクエストがあります」


「え、早いですね」


「はい、時間は沢山あったのでクエストを探しておきました」


 うっ、罪悪感!


「カワギシさんに受けて欲しいクエストは【ブルーブル】の討伐です」


 【ブルーブル】初めて聞く名前だ。

 ブルって、確か牛みたいな動物だったよな。


「討伐数は?」


「……討伐できればできるだけお願いします」


 討伐できるだけ? って事はあんまり強くないのかな。

 ま、そうだよね。いきなり難しいクエストをやらせてくれる訳ないし、僕としても最初は簡単な物から始めていきたい。

 僕は差し出されたクエスト受注用紙を受け取る。これを受け取る事でクエストを受けた事になる。


「分かりました。そのクエスト受けます」


 初クエスト……頑張るぞ。




◆◆◆




 オレはギルドの受付。

 今日、オレは英雄の誕生を見たかもしれない。


 【カワギシ】


 仮面に全身真っ黒のローブを纏った男。

 正直、怪しすぎる気もするが物腰も柔らかいし、言葉遣いもしっかりしている。


 ――彼は【たった一人】で8階級まで上り詰めたエミールという上級ギルド会員を無傷で瞬殺した。


 エミールは群れる事を嫌っている。

 そんな彼女は、通常六人以上のパーティーでしか到達できない上階級に一人で到達した。

 これは二世紀以上のギルドの歴史でも数人しか達成していない偉業だ。


 そんな彼女をたったの二撃で倒したカワギシという男。


 偶然や油断のせいかと思ったが、エミール曰く、最初以外は油断していなかった。

 だから、彼はギルド審査の結果一人で【初期7階級】という、ギルド史上初の快挙を成し遂げた。


 【ブルーブル討伐】――王国に住む者なら知らない訳がない最も魔獣に近い獣。

 王国が呼んだ勇者パーティーですら、数体倒すのでやっとだった獣の討伐。


 彼はオレが断られる事を前提で提案すると、声色一つ変えずに了承した。

 それどころか、「何体倒せばいい」と聞いてきた。

 それではまるで、勇者ですら数体しか討伐できなかったブルーブルを一人で何体でも倒せると言っているみたいじゃないか。


 それはあり得ない。あり得るはずがない、と分かってはいるが、彼が言うと当然の様に聞こえる。

 あり得ないがあり得てしまう――そんな事が当然だと思ってしまった。


 だから、オレは「何体でも」と答えた。


 もし、これで――彼が一人で何体ものブルーブルを討伐してきたなら、それは勇者どころか――英雄の次元だ。



 ――だから、オレは英雄の誕生を見ているのかもしれない。

 すみません。新生活の準備などで色々とバタついていました。

 今日から投稿再開です。

 おはようございます。

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