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第10話 何してるんですか。

書き直しました

 昼。才徒君達は今日もクエストに向かい。僕は家に一人だ。

 自室をくまなく調べたところ、やはり家にある服――いや、装飾品に至るまで全てに【追跡の魔法陣】が書かれていた。

 それも気づかれない様に巧妙に細工されていた。


 【魔法陣】――それは【魔導】と呼ばれる【魔法】とはまた違った不思議な力を使う為に必要な媒介。


 【魔導】――それは魔法と違い【想像】でなく、【空想】を【創造】する力。


 え、凄く強いじゃんそれ! と最初は思ったが、魔法陣が無ければ発動できない上に【魔法陣】を書くには特別な石が必要だ。

 何故か、燈火さんは魔法陣を書かないで【魔導】を使える【魔導士】だけど……。

 そこは、神様パワー的な何かでどうにかしているんだろう。


 【追跡の魔法陣】は読んで字の如く、その【魔法陣】の書かれている物のある場所を知る事が出来る【魔導】を使用するために使う【魔法陣】だ。


 つまり、この【魔法陣】の書かれている物を一つでも僕が持っていれば、国王様に居場所や動向がバレる訳だ。

 うちにある物は、そのほぼ全てが王国からの贈り物。もしかしたら持っているお金にも仕込まれているかもしれない……。


「とりあえず、家にある物は何も着れないし持てない……」


 これから僕は【魔王】や【邪神】を倒す為に色々と行動を起こしていく予定だ。

 それが誰かにバレるのは、都合が悪い。

 昨日買った服に着替える。顔も隠すために特別な仮面も被る。


 着替えると鏡の前で自分の姿を見る。

 フード付きの黒いローブに、目の部分以外がすべて覆われている白い仮面。

 この仮面には【変声の魔法陣】が内側に書かれている。

 これは、簡単に言えば名探偵コ〇ン君の蝶ネクタイっぽい事が出来る【魔導】だ。


 今の僕の見た目は完全に――


「――不審者だなぁ。完全に職質不可避」


 まぁ、この世界に職質なんてないんだけどね。


 僕がこれから行くのは【ギルド】と呼ばれる組織。

 【ギルド】では【クエスト】という依頼を受ける事ができ、【ギルド】に所属する者の事を【ギルド会員】という。

 【クエスト】。依頼には二種類あり、魔物や危険な野獣の討伐と野草や鉱石の採取の二つだ。


 才徒君達は魔獣討伐を主にしている。

 そして、これから僕がやろうとしている事も魔獣討伐だ。

 魔獣は強く、依頼額も高い。能力の特訓と資金の調達の二つが出来る優秀な仕事だ。

 その分、死亡率も高いらしいが。僕の能力を特訓するには一番の環境だと判断している。

 【魔王】も【邪神】も倒すには力が必要不可欠だろう。

 これから、僕は才徒君の数倍――数百倍は頑張らないといけない。

 じゃないと、先に鍛え始めている才徒君達を守る事なんてできないんだから……。




◆◆◆




 昨日、服屋で使ったお金のお釣りだけを持って、ギルドに来た。

 中に入るとざわざわと女性の声がいっぱい。酒場も兼ねているギルド内は昼から酔っぱらっている者もいる。

 そのざわめく声の中「なんだあいつ」と声が聞こえた。

 ギルド内の数人から視線を感じる。今の僕の姿は完全に不審者だし、そりゃそうなるよね。


「当ギルドへようこそ、ご依頼のお申込みですか?」


 受付の人が男だ……。


「いえ、ギルド会員の登録に参りました」


「ギルド会員に……すみません。あなたは男性ですよね?」


 仮面の効果で声が若干低く変わっている。むしろ、前より男っぽい声になっている。


「はい」


「あの、ギルド会員になる手順をご存知でしょうか?」


 ギルド会員になるには、銀貨三枚と実技試験を受けなければいけない。

 流石にそれくらい知ってる。


「もちろんです」


「えっと、実技試験の方は実戦形式での模擬戦なので、顔に怪我をしてしまう事もありますが……」


「? それくらい、どうという事はありませんが」


「そうですか……後でギルドを訴えるとかやめてくださいね?」


「訴えるって……」


 そんな、無責任な事しませんよ。

 受付の男性が一枚の紙を渡してくる。


「こちらの方にお名前をお書きください。丁度、試験官の一人が空いてるので、すぐに開始できますがどうしますか?」


 紙を受け取り、噓の名前を書く。

 柏木なので、入れ替えて【カワギシ】という名前を書いた。安直? 案外これくらいの方がバレないだろう。

 紙を受付に渡した。


「すぐにお願いします」


「かしこまりました。案内いたしますので、ついて来てください」






 受付の男性に案内され、ギルドの中にある広い部屋に連れてこられた。

 その部屋は元の世界の体育館を思わせる作りで、二階に観覧できるスペースもある。

 その部屋の真ん中には一人の髪の長い女性が立っていた。


「――ふーん、男っていうからどんなのが来るかと思ったら……魔力量も背丈も普通の男じゃない」


 僕を見てそう呟く女性。女性の腕にはギルド会員である証の腕章に【8】と書かれている。

 あの番号は階級――ギルド会員には階級があり、階級の高さで受けられる【クエスト】の難易度も変わる。

 階級は1から10まで存在し、7階級以上のギルド会員は上級と呼ばれる。


 つまり、彼女は上級のギルド会員。


「初めまして、私は【エミール】。あなたの試験官よ」


「初めまして、【カワギシ】です」


「試験内容を説明するわね。と言っても説明するほど難しい内容じゃないけど……。要は私に一撃でも入れれば合格、倒せば大合格。それだけ、よ」


 分かりやすい。


「まずはメンズファーストね。私に一撃入れてみな。それが合図だよ」


 これは……舐められてる。

 まぁ、この世界からしたら男が一人でギルド会員になるなんて、自殺行為みたいなもんだろうし、仕方ない。

 それに、これはラッキーかもしれない。油断してくれているなら甘えるべきだろう。


「ありがとうございます。では――」


 【想像】するのは硬い岩のグローブ。

 僕の手の周りに空気の揺らめき、今の僕の拳は岩に近い硬さだ。

 だが、上階級の人だ。もう一つ――【想像】するのは風の流れ。

 僕が拳をエミールさんの腹にぶち込む瞬間、強力な追い風を作り、拳の速度と威力を増す。

 後は、全体重を乗せて拳を繰り出す!



「ふんッ!!!」「うぐぅッ!!??」



 僕が彼女のみぞおちに渾身の一撃を叩き込むと、彼女は数歩後ろに下がり膝をつく。

 え、えぇ、今の一撃、確実に意識を飛ばすつもりで撃ったのに膝をつく程度しか効いてない。

 もう立った……。流石、上階級のギルド会員……。


「大丈夫ですか?」


「うぐ……ぐ、大丈夫。あはは、油断だったよ。あんた、中級魔法を使えるのね」


 エミールさんはそう言うとポケットから【魔法陣】の書かれた指ぬき手袋を取り出す。

 先程までの、どこか小ばかにした様な目ではなく、戦う者の目だ。

 上階級の本気だ。今の僕じゃ勝てない。何とかしないと一撃入れるのだって難しい。


「こっからは――本気よ」


 エミールさんの姿が消えた。


「うぶッ!?」


 次の瞬間、横腹に激痛。

 エミールさんに殴られた事に気づいたのは激痛に膝を突いた後だ。


「今の一撃、意識を飛ばすつもりだったんだけどね……」


「……水。想像」


 昨日、神様のおかげで劇的に進化した水魔法。

 痛みで頭が回らない今の僕には、その場に大量の水を作る事しか出来なかった。


「水? なんのつもりかしら……? まぁ、いいわ。次で確実に終わらせてあげる」


 エミールさんの姿が消えた。


 また来る。片膝を突いたまま立ち上がれない。

 その態勢のまま脇腹を防御する。


「――あぎゅッ!!?」


 脇腹を襲うと思っていた激痛は訪れない。

 そのかわり、膝に鈍い痛みが……目をやると、エミールさんが濡れた床に足を取られて、僕の膝にヘッドバッドを食らわせていた。


 ――え……?


 体育館の様な室内、濡れた床には足を取られやすい。

 転んでしまい。僕の膝に顔面を強打して、鼻血を出しながら気絶……。


 この人……何してるの?


 周りには誰も居ない。これって、勝ったって事でいいのかな。

 仕方がないので、エミールさんを抱きかかえて受付に戻る。

 受付の男性に気絶したエミールさんを見せると、目を見開いて「ほぼ無傷で……エミールさんを倒した……そんな」と言っていた。


 いえ、誤解です。


 と、言おうと思ったが周りにいた女性ギルド会員に質問攻めにされ、言えなかった。

 何とか、ギルドから逃げ出した僕は家に帰り、才徒君達の夜ご飯を作るのだった。

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