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第01話 勇者パーティーから出て行きます

 南野柏木みなみのかしわぎ

 16歳。

 どこにでもいる普通の高校生より若干劣っている僕はクラスメイトに巻き込まれて、異世界に転移した。

 異世界転移。

 それは、僕の数少ない友人の一人が好きだと言っていたジャンルの一つだったと記憶している。


 異世界転移で巻き込まれ系はチート?


 そんな事はない。巻き込まれた僕は本当に巻き込まれただけだった。

 僕の持っている力は他のメンバーの完全な劣化版だった。


 ――【全属性の中級魔法を使える】


 その能力は、一緒に来た『神野才徒(かみのさいと)』の【全属性の最上級魔法を使える】という能力の完全な劣化版だった。

 当然だ。正式に勇者として選ばれた彼らは【主役】で、僕という存在は【脇役】でしかないんだから……。


 それでも、何故か才徒君は僕に優しくしてくれた。それは、同情や哀れみからの行動だったのかもしれないけど、彼は僕に居場所をくれた。


 彼は、弱い僕の傍でずっと守ってくれた。

 もし、彼らに見放されていたら僕は王城を追い出されて路頭に迷っていただろう。

 彼らには感謝してもしたりない。


 そんな人間だからこそ、彼が【主役】に選ばれたのだろう。


 でも、彼と一緒に選ばれたメンバーは僕の事を邪魔者として見ていた。

 昔から人の目を見れば、なんとなく何を考えているのか分かるという特技があった。


 【主役(ヒーロー)】である彼を見る【彼女達(ヒロイン)】の目は彼を【主役(あこがれ)】と見ていた。

 【脇役(ボク)】を見る【彼女達(ヒロイン)】の目は僕を【脇役(あくやく)】と見ていた。


 当然だろう。当然すぎて反論などする気も起きない。

 僕は、本来居るはずのない存在なんだから、彼の隣にいるべきなのは僕ではなく彼女達なのだから……。

 僕は彼女達の居場所を奪っている。奪ってしまっている。


 ――憎悪。


 ――嫌悪。


 ――嫌気。


 ――嫌厭。


 そんな彼女達の感情が僕に向くのを、僕は当然だと受け止める。

 嫌われて当然なのだ。疎外されて当然なのだ。


「いい加減にしてよサイト!!! どう考えてもそいつが犯人じゃない!!!!」


「私達がクエストに出ている間に下着が無くなって、彼がずっと家にいたんだから彼しか疑いようがありません!!」


「そうね。この家には私の結界が設置されているのだから、下着を盗めるのは彼しかいないわね」


 そう、だからこの状況も当然としか言えない。

 もちろん、下着を盗んだのは僕じゃない。

 僕は彼女達がクエストに行っている間、ギルドや市場に行っていた。

 だけど、もし僕が本当の事を言ったとして彼女達は信じてくれるだろうか?


 否。


 信じる訳がない。名前も呼んでもらえない。

 そんな程度の好感度の僕が、彼女達に信じてもらえる事などありえないんだ。


「そんな訳ないだろ! 柏木がそんな事をする訳ないじゃないか!!」


 コバルトブルーの綺麗な髪を持った美形の少年が僕の前に立って弁解してくれる。

 そう、彼が【神野才徒】だ。


「サイト! あなたは人を信じすぎよ!! この世にはどうしようもない【クズ】がいるの!!! 人の善意に付け込んで、平然と悪事を行う【クズ】が!!」


 あぁ、つまり僕がその【クズ】だと言いたいんだな。

 悔しい。冷静を装っていても、ほとんど話した事もないような人間に人格まで否定されるなんてな。


 ――ふざけるな!!


 そう叫んでやりたい。だが、叫ぶ権利は僕にない。

 彼女達は僕に居場所を奪われた。

 彼女達にとって、そんな僕は【クズ】なんだ。


「なッ! 夏風!! いくら君でもその発言は許せないぞ!!!!」


「なによ!!! 幼馴染の私よりその男を信じるの!!?」


 最初から運が良すぎたんだ。

 本来、僕は巻き込まれて最初で見放されていたはずなんだ。

 そんな僕を見かねて【心優しい彼(主人公)】は僕を隣に置いてくれた。


 本当なら彼女達が居るはずだった彼の隣に居させてもらった。

 だから、僕は彼女達に【ここ】を返さなきゃいけない日がくるんだ。

 それが……それが、彼ら彼女らの本来あるべき姿なんだから――


 ――覚悟はしていた。




「盗んだのは僕だよ」


 彼に嫌われる。


「君らが悪いんだよ?」


 初めての親友。


「僕みたいなやつを一人にして外に出るから」


「お、おい……変な冗談言うなよ」


「冗談じゃないよ。正直さ、もう疲れたんだよね。なんで巻き込まれた僕がこんな不幸な感じじゃなきゃいけないの? 僕が一度でも才徒君に助けてなんて言った?」


 一度も言っていない。なぜなら、彼は僕が助けを求めるより先に僕を助けてくれるから……。

 不幸? そんな訳がない。僕は彼のおかげで幸福だ。


「善意の押し売りはやめてくれよ。僕は悪人なのに、君が近くにいるから悪い事ができないじゃないか。ホント、なんで君みたいな奴に巻き込まれたのかな……」


「このックズッッッ!!!!!!!!!!」


 うっ! 胸倉を掴まれる。

 力を上昇させる能力を持っている彼女が全力で胸倉を掴んだんだから、僕の首の骨が軋むのは当然だ。

 息が出来ない……。意識が飛びそうだ。


「待ちなさい。その【ゴミ】が死んでしまうわ」


「なによ燈火! こんなクズ死んでもいいじゃない!!」


 違う。彼女は僕が【死ぬ事】を止めた訳じゃない。


「そうじゃないわ。そのゴミを簡単に死なせるなんて許せないって事よ」


 彼女は僕が【窒息死】なんて簡単な死に方をするのを止めたんだ。


「……そうね」


「丁度、新しい魔法を作ったの……全身に針を刺される激痛を数十日の間感じさせ、その後に燃えて死ぬ魔法よ」


 はは、そんな魔法なんで作ったんだこいつ。

 最初から僕に使うつもりで作っていたんじゃないのか?


「あ、あの、それはいくらんでも酷いんじゃ……」


美空(みく)はこの男を許せるの?」


「そ、それは……許せないですけど」


「こいつは、ずっと守ってくれたサイトを否定したのよ! ずっと助けてくれたサイトを!!」


「だから――誰がそんな事を頼んだんだよッ」


「このッ!!!!!」


 憎悪の膨れた状況での煽りに怒りは爆発させた彼女は【強化魔法】を自分の腕に掛け拳を振り上げた。

 もし、この攻撃を受ければ俺の顔は熟れた果実の様にぐちゃぐちゃになるだろう。

 まぁ、もしもの話だが……。



「――やめろッ!!!!!」



 才徒君は俺の前に割り込み、彼女の拳を受け止める。

 いくら、勇者の彼でも彼女の本気の殺す気の拳を無傷で受け止めきれるわけもなく、赤い液体が滴っている。


 あぁ、知ってた。

 君がそういう人間だって事を……悪党だろうと目の前で殺されそうになると助けてしまうお人良しだって事は――。

 自分がどれだけ傷ついても、人の為なら重荷だって喜んで抱える人間だってことを。


 僕は知っている。



 だから、だからこそ……【重荷(ぼく)】はここで居なくなるべき人間だ。



「みんな、冷静じゃないだけだ……。柏木はそんな奴じゃない……俺は誰よりも知っている。だから、今日は一回頭を冷やそう。明日の朝、皆でまた話し合おうよ」



「そういうところが嫌いなんだよ才徒君……」


 才徒君は僕に背を向けている。

 その背に向かって、【最低】を投げつけた。


「お前ッ!!!」

「やはり殺すべきだ」

「…………」


 彼女達の怒りの視線を無視する。

 僕の言葉に振り返る才徒君。



「――君に、そんな思いをさせていたとは……すまなった」



 それは、僕が初めて見る才徒君の【涙】だった。

 自己嫌悪。僕は最低な人間だ。

 あれだけ、あれだけ僕を助けてくれた才徒君を泣かしてしまうなんて……。


 でも、これしかない。こうするしかない。

 もしも、このまま僕が才徒君の近くに居たら、足手纏いどころか敗因になる。

 一度、人質になってしまった時、才徒君は僕の為に大怪我を負った。


 もう、そんなのは嫌だ。


 この世界での中級魔法は珍しいものでもない。

 全属性を操れる者は少ないが居ない訳じゃない。

 僕は、才徒君達を負けさせたくない。

 その為に、僕は居なくなるべきなんだ。


「僕は出て行くよ。もう、同じ空間にいるのも嫌なんだ」


「えっ……」


「じゃあね。もう、二度と会わない事を祈るよ」


 そう言って僕は背を向けた。

 でないと、涙がバレてしまうから。


「じゃあね」


「かしわぎ……行かな――」


 才徒君の言葉を無視して、扉を閉めた。

 聞いてしまったら、出て行けなくなってしまうから。




 家から出た僕は走って山を下る。

 【ざぁざぁと降る雨】を【思い出】を【未練】を【惨めさ】を振り切る様に、走って走って駆け下りる。

 ごめん才徒君……絶対に、絶対に……絶対に戻るから、そして次は……役に立つ人間になっているから……謝罪も感謝の言葉も全部、その時に伝えるから……。



 だから――――

 あれ、追い出されてなくない……?

 大目に見てください。お願いします。なんでも――

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