一人の少年
窓から高速道路が見える。
大して興味もない廃れたパーキングエリアに一瞥をくれる。
「喉が、乾いたな…」
呟いてみるものの、運転手は反応しない。
恐らく聞こえていないのだろう。
若しくはフリなのだろうか。
「お前、たしか須賀川市出身なんだよな?
俺もそうなんだよ。まさか、同郷のやつだとはな…」
運転手は続けた。
「それに、お前と同じ歳の倅もいる。15だろ?
俺の倅は、耳が聞こえねえんだ。赤子の頃、誤って近くの製鉄工場の中に入ってしまってな。そこで機械の隙間に入って爆音に曝されちまって、耳を聾したんだよ。」
聾児なのか。音楽を聴けないなんて、悲しいだろうな、と思う。
「着いたぞ」
人気のない、町から離れた僻地だった。
鬱蒼とした森林を抜けたところ、殺風景な場所に似合わず佇む白い屋舎。
「随分従容としてるじゃねえか。その様子なら、心配なさそうだな。杞憂に終わりそうだ」
そう言うと運転手は愁眉を開き、車から降りた。
「がんばれよ」
耳の奥でやけに残響する。
短くその一言だけ放つと、運転手は忽ち踵を返した。
一揖し、彼の背中が見えなくなるまで見送る。
今日からもう、普通の人生は送れない。
わかってはいた。しかし、胸の奥で鎖に刺されたような重さがあった。