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祓い屋少年  作者: ハルモネ
神隠しと少年
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朝起きて学校にって寝て帰る。

教員はもう諦めたかのように無視を決め込んだ。ガヤガヤと教室が騒ぎ出す頃には夢の中にいる。

成績優秀、学費免除。俺がいるだけで学校の評判が上がるので退学や留年はずっと先延ばし。

入学当時はよく話しかけられて迷惑していたが、もうそんなこともなくなった。彼らは理解したのだろう。

『こいつに関わっても自分にとって重荷でしかない』ということに。

人は無意識にそれを判断する。そして俺をもう認識しなくなる。

込み上げてくる感情はいつだって呆れてだった。

今日もいたって何もなく、一人の一日。

風が強くざわめきだした木の葉の音に混じって、二人の女子生徒の声が聞こえた。

「ねぇ、知ってる?最近凄く噂になってる・・・」

「多分知ってる。あの神社のことでしょ?神隠しだーって騒がれてる」

「あれさ、本当に神隠しなのかな。近所の子も行方不明になったっていうし。本当だったら、あのいつもの帰り道使えないね」

「大丈夫だよ。神なんてどうせ嘘っぱちだろうしさ。早く帰ろ」

「うん」

・・・神隠し。

もしそれが本当なら、彼女らが二人して現場の近くを通るなら、多分両方いなくなるだろう。

まぁ様子見だな。一旦。


次の日、学校に登校したらホームルームが始まっていた。昨日の女子生徒二人が行方不明になったらしい。

重い瞼を無理矢理こじ開けていたので、教員の説明を聞いた後即寝した。

結局放課後になって開けてもいない荷物を持ち、即座に学校を出る。

・・・さてどうしよう。

普通の祓い屋なら即座に消滅(はらい)に行くところだが、俺はしない。だって、家出の可能性が完全にないわけでは無いじゃないか。昔早とちりでそこら辺の妖怪を全て消滅(はらい)。しかも大物の妖怪に喧嘩と勘違いされ面倒なことになったことがあるからだ。正直言って、凄く殺りにくかった。

それに神だった場合、良い例もある。数日間監禁して喋った後に食事をとらせ返してくれるなどもある。

なにも神隠しは全て悪いものというわけでもないのだ。良い例も監禁だからある種の犯罪なのだが、神様だし大目に見ないとやっていけないもんな。

ただ、凄く悪い予感がする。

最近ではよく見ない口裂け女。朝でも薄っすら見える紫の瘴気。

今回の神様は()()()()かもしれない。

なら、しょうがないよな。


人に聞くわけにもいかない。俺無いもの扱いだし。

だから簡単に地図で調べた。

場所は住宅街のど真ん中、だけど周りに木が植えてあり、階段も少々。うん普通の神社だ。

見たところ何も感じない。行方不明になっている子も生徒も。・・・まず一日いなくなっただけで届けだすってどんだけ過保護なんだよ。

「くそ、ハズレくじ引いた」

小さく舌打ちして呟く。

『それは可哀想に。あぁ、そうだ。じゃあお前には当たりくじしか引かない運勢を授けよう。うんそれが良い!』

さっきまで気配はなかった。何処からともなく聞こえる声に顔が強張る。

きっとこの声の主が神社の神様だろう。なんか声がそれっぽい。

木が騒ぎ始めた。夕日の光が地面を照らさなくなるまでほぼ数秒間。俺は、この神社に閉じ込められた。

先程歩いてきた鳥居の奥は闇で満たされている。

『あれ?おっかしいな、おかしいな?君変じゃない?おかしいな』

必殺、聞こえないふり。こうしているとすぐに返してくれる奴もいた。呆れたように去る奴らが多かった。声の主が此処の神様なら帰らなくても興味を失っていつか飽きてくれるだろう。まぁ、これやってたせいで一時期神隠しにあったという噂が流れたこともあったが。たかが一週間だった。飲み食いは、家出という設定にしてパンや水を持っていたからどうにかなった。

・・・今回はなにもないが。

『おーい、聞こえてますか?人間!我輩は神様だぞー!なんつって』

声が聞こえるだけで姿を一切見せないんだが。

うーん、おびき寄せてすぐに・・・ってそれの場合俺先に殺られそう。あくまでも相手は神だ。

「うーん」

どうしようか、身体を見せないようにして近くを浮遊してるのなら消滅(はらい)ができるけど。

「とりあえず頑張ってみるか・・・」

『ばぁ!!!!!!』

「わぁ!!!」

息を呑んで顔を前に向けたところ目の前に声の主の顔があった。

『あっひゃっひょぁ!!君驚きのプロ!?最高っ・・傑作・・・!!!』

なんか腹抱えてすげー笑ってる。

あ、姿が見える。

消滅(はらい)・・・」

今ならと思い、試しにやってみた。

本当に女子生徒や子供を神隠しにあわせたのなら、この神は()()()()だ。

『ん?なにこれ?』

消滅(はらい)だ。今からお前には消えてもらう。うん。これは確定事項だ」

『・・・』

自分が死ぬ寸前ということがわかっているのだろうか?もっと足掻くものだろうにもっと叫ぶものだろうに、コイツの行動が読めない。

しかも消えない。

「・・・何故?消滅(はらい)が、できない。コイツは違う」

()()()()じゃない?だから消せないのか。

『ねぇねぇ、俺いつ消えるのー?』

消せないのならコイツは()()()()じゃない。ならば・・・。

「お前消せないみたい。さっきのは言葉忘れて」

『えぇ!?俺消えないのー?そだよね、君みたいな神のご加護さえ受け取れないような人間が俺を祓えるわけないかー』

期待して損したと言うように大袈裟な溜息をする奴を横目に学校の鞄を持ち帰りの支度をする。

「すまないが結界を解いてくれないか。帰れない」

『えっダメだよ。君、俺を消そうとしたんだよ?また腕を上げて来たらどうすんのー』

それ祓われなくて残念みたいなオーラを出してたお前が言うか。

「もう少し此処に居座れと」

『そういうこと!なんでも質問していいからさ!』

「その言葉、偽りは一切ないな?」

『う・・・うん。嘘はつかないよ、それが俺の座右の銘みたいなものだかんね!』


話をするということで、俺は賽銭箱に腰掛ける。

『ちょっと、行儀悪くない?俺の賽銭箱だよ!神様の賽銭箱だよ!!』

「どうせお前が使うんじゃないだろ」

『うん、此処を掃除してくれてる人間が毎朝取ってくよ。いっつもニヤニヤして』

「それただの賽銭泥棒じゃないのか?普通なら神社の宣伝費や業務員の給料になるが、此処にはお守り一つなければ手水舎だって手入れされず水が汚れてるじゃないか」

『別に、俺苦労しないし。困んないならそれでいい』

それならいいか。そう考え、一旦この話を切った。

「・・・質問がある。まずは一つ。昨日の夕刻、此処に女子生徒が来なかったか?」

行方不明になった二人だ。

『来てないよ。そんな子来たら大歓迎!祭りが始まっちゃうよ!』

とりあえず、コイツは違いそうだ。

「次の質問。お前がここの神様か?」

『そうだよ!さっき言った気がするけど、ここの神様!千二百人の天神の中で五本指に入るほどの偉い神様だぞ!』

・・・天神。

「あぁ、じゃあお前じゃ可愛そうだな。神様でいいや。消滅(はらい)

神の額に手をかざし、また祓う。

『ほ?何?またアレやったの』

全然効いてないな。この様子だと。

天神は悪い神様のこと。最近だと学問の神様と言われているが、昔は雷を使う悪い神のことを指差した。

誰もが知っているであろう。『通りゃんせ』にも歌詞で登場している。

「悪神じゃないのか?」

『違うけど?俺は確かに天神だったよ。だけど、別の神に場所奪われて下のクラスになっちゃったんだ。まぁいいけどねー』

「じゃあ神隠しもお前がやったわけじゃないんだな。お前が人を結界に隔離したとかじゃないんだよな」

『もっちろん』

胸を張って答える天神に、本当にコイツ神様なのかと思いながら帰路につこうと腰をあげる。そんな俺に慌てたように服の裾を掴む天神。

『あのさ、仏の顔も三度までって言うけどさ、もう質問いいの?俺暇になっちゃうんだけど』

「・・・?使い所が違っている気もするし、お前仏じゃないだろ。神だろ、キリストだろ?」

『へぇ?』

情けのない声をだす神。

『俺仏じゃないの?』

「神社に祀られている時点で違うだろ」

『いや、ここには住み着いてるだけで』

「だってさっき此処の神って自分で答えてただろ」

『此処に俺しかいないもん。此処の神って名乗ってもよくない?』

「じゃ、なんで自分を仏だと思った?」

『生まれてきた時から天神って呼ばれてただけで、実際俺そこらの妖と喋れるし・さ・・』

「キリストと仏は違うだろ。まぁ、もしかしたら色々混ざったやつが名をつけたってとこか?」

『知らない』

「知ってる。でも此処に来たのは時間の無駄ではなかった。神隠しが天神じゃないのなら他のやつってことになる」

『見つけるなら俺も手伝うけど』

「いい。それにお前落ちぶれた神じゃん。そんな奴の力を借りるほど俺は、祓い屋は弱くねーよ」

めんどくさいのは嫌いなんだけど。

『じゃっ結界を解くね』

暗い場所から解放されたと思えば、月の光や家の灯りが眩しいほどに目がダメになっていた。

神の姿は消え、スマホで時刻を確かめれば午後八時。明らかに時間が経ち過ぎていた。

「これ、神隠しのやつどうにかできるかな」

一週間じゃ足りない気がするが、せっかくの祓い屋としての大きな仕事が一つ達成できると思うと、やらなければの精神になっていた。

あの天神との出会いは、人生の端っこあたりにあるちょっとしたものだ。だから、きっとすぐに忘れる。

どうせもう会うことはないのだから。

「あの神社に手掛かりがないなら・・・近くこともないしな」

その時、涼しげな風が頬を撫でたと同時に、スマホにつけてある金色の鈴が、小さく微かに音を立てた。











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