1
良い子が寝静まる暗い夜。
誰も彼も出歩かない。いるとすれば残業終わりのサラリーマンや、野良猫ぐらいだ。
まぁ、出歩いている僕はサラリーマンでも野良猫でもないのだが。
『こんにちわぁ』
電灯の光が消えかかって音を立てているとき、目の前にはいつの間にかいた女性が、嫌な笑みで話しかけてくる。ニタァと口元を歪ませると、ゆっくり長い黒髪を揺らしながらこちらを見た。
人間とは思えない暗闇が蔓延る目で。
『ねぇ、アタシ、綺麗?綺麗よねぇ?』
そう問いかけてくる。逃げられなさそうだなぁ。これ。面倒な奴に絡まれちった。
「綺麗だと思いますよ。多分」
素っ気なく返すと何故か殺気が。おかしいなぁちゃんと答えたのに。
夜の道に薄紫の瘴気が走った。
『なんでこっちを・・・アタシの目を見て言ってくれないのぉ!?』
怒って襲ってくる。だから嫌いなんだよ、女ってすぐこんな感じになるから。
全くさぁ。手間とらせんなよ。
「消滅」
あたりから渦巻く黒い渦は簡単に女性を飲み込んだ。体の自由を奪い、最終的には消滅させる。
『やめてぇ!やめろぉ!私のアタシの美しい顔がぁ、あぁ・・・壊れて・・消えて・・く』
何も残らず消えた女性は、言わずもがな妖怪。言わずもがな口裂け女だ。
本来なら口裂け女の対処法は「ポマード」と三回唱えるらしいが、俺には関係なかった。
俺はあれだ。祓い屋だ。
生まれた時から悪いものはなんでも消してきた化け物。
祓い屋、多村 翔平。