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アマネセル紀行録  作者: 氷室零
第三章 セイレンの島
33/34

ルイスの話

 サク、サク、サク。

 ザッ、ザッ、ザッ。


 あたり一帯静かな道に、足音がいくつか響いている。


 ついでに、複数の笑い声と話し声も。


「ほんと、ルイスってあんまり笑わねえよな」

「そういう貴方たちはよく笑いますね」

「だって、しかめっ面してたら楽しくないじゃない! 笑わなきゃもったいないわよ」

「……そういうものでしょうか」

「そうなんじゃないかな? よく知らないけど」


 人間の少年少女四人と、明らかに人外の女一人。

 言うまでもなく、フィル、レオン、エリザ、ヘレナ、ルイスの五人である。


 リーシュ湖での契約を終えて、五人になった一行は、西を目指して街道を歩いていた。


 村を出てから歩き通しだが、もう慣れてきたので、四人ともそこまで辛くはない。

 一方のルイスはというと、まったく疲れも見せず黙々と歩き続けている。精霊というのは、体力まで人間とけた違いなのだろうか。

 今更だけと、精霊について知らないことばかりだ。むしろ知っていることなんてほとんどない。


 当然、聞きたいことがありすぎた。


 そんなわけで、道中、四人は思いついたはしからルイスにいろいろ質問をぶつけていた。


 ちなみに、最初にルイスから「丁寧語やら敬語やらは面倒なので、外していつも通りに話してください」と言われたので、四人とも遠慮なく自由に話している。

 ルイス本人は「この話し方が性に合っているので」と言って、何を言われても言葉を崩そうとしなかったが。


「うえっ!? ルイスんちって、貴族なのかよ!?」

「貴族とはいっても、大貴族ほどの家ではありません。古くから続く武家というだけです」

「それでも十分だろ!」

「精霊の世界にも貴族ってあるのね。てことは、王族もいるの?」

「ええ、もちろんです」

「そのあたり、説明してくださいませんか?」

「わかりました」


 三人の言葉に、フィルもうなずいた。そのあたりは確かに気になる。

 ルイスがうなずいて、ゆっくりと話し始める。


「まず、精霊たちを治める王家があります。そのすぐ下には、精霊王家が成立した当初から続くといわれている大貴族の家系が四つ、通称、四大貴族が位置します。さらにその下に、その他の貴族、平民、というように身分が分けられています」


 へええ。ということは。


「つまり、王家、四大貴族、ほかの貴族と続いて、あとは一般市民やら商人やら、平民はいっしょくたってことかな?」

「そういうことになります」


 ルイスがほほえんだ。

 といっても、わずかに頬をゆるめた、くらいしかわからなかった。笑っているのかそれとも無表情なのか、いまいち表情が読み取りにくい。


「ちなみに、精霊たちの中で『均衡の契約』に参加できるのは、貴族より上の階級の者となります」

「そりゃまたどうして?」

「平民まで含むと、本当に伝えるべき情報の統制がとれなくなります。ならば、たとえ数が少なくとも、しきたりをそのまま伝えやすい貴族以上に限定してしまった方がいい。そういう判断だと聞いています」

「へええ……」

「そのかわりといっては何ですが、貴族の子女は幼少から、貴族としてのふるまいのほかに契約についても教え込まれるのが習わしです」


 そうなると、貴族というのも大変なんだな。


「ということは、精霊の方々はそれだけこの契約を重要視しているのでしょうか?」


 ヘレナがたずねた。


 伝えるべき情報がどうとかしきたりとかいっていたし、それだけのことを小さい頃からすりこむとなると、精霊の世界では、この契約けっこうなポジションを占めているのかも。


 そう思ったのだが。


 ルイスは、ちょっとどころでなく驚いたのか、目を軽く見張っていた。

 あれ? 何か変なことでも言った?


「今さら何当然のことをおっしゃっているんです?」

「へ?」

「精霊にとって、この契約の有無はそのまま生死に直結するといっても過言ではありません。契約が重要かなどと、当たり前ではありませんか」

「……そうなの?」


 四人は顔を見合わせた。


「まさか、それさえも知らないとはおっしゃいませんよね?」


 ルイスに真顔で問われ、答えに困って苦笑いする。

 やはり、フィルたちとルイスとで、把握している情報がかなりずれている。


「えっと、あたしたち、そのあたりのところもよくわかんないのよね……」


 エリザが代表して口を開いた。


「そもそも、あたしたち人間と精霊の違いもわかってないし、あなたたちがどんなふうに選ばれてるのかだとか、そっちの社会がどうなってるのかだとか、知らないことばっかりなの。ぶっちゃけ、この契約の重要性がどうとか、って話もさっぱりだわ」

「大前提の話ではありませんか。基本的なことさえ理解していないと?」

「だって、その重要性とやらを実感するヒマも理解するヒマもなかったもの。選ばれたとき、まるっきり他人事にしか思えなかった」


 エリザの言葉に、うんうんとうなずく残り三人。


「貴方たちは、契約者の家系の生まれだったはずです。ならば、基本的なことは教えられたでしょう? それらについてある程度は理解しているはずですし、選ばれることも予想できたでしょうに」


 ルイスは、信じられないといった顔をしている。

 フィルは、「はは……」と笑いながら頭をかいた。


「理解はともかく……予想は無理だったかな」

「なぜ?」

「確かに、僕らは契約者の家系に生まれたらしいし、実際いろいろなことを教わった。だけど、いざ選ばれる直前まで、僕たち自身がその家系だってことも知らなくて。先祖のことを聞いたその日のうちに代表に選ばれちゃったものだから、予想も何もありゃしないんだよ」


 それを聞いたルイスが、四人を改めて見つめた。何やら、考えているらしい。

 内心を表現してみるとしたら……あちゃあ、ってところ?


「……ということは、ですよ。貴方たち、歳は?」

「全員、十五ですわね」


 ヘレナが、ルイスの言いたいことを察したのか、やれやれと言いたげな顔で返し、ついでに肩をすくめてみせた。


「なんと……」

「成人したばかりのひよっこ四人、よくって足手まといにしかなりはしませんわ。これからも、せいぜいご迷惑をおかけします」

「い、いえ。こちらこそ」

「……ヘレナ、ちょっとやめときなよ」


 エリザが顔を引きつらせながら、ヘレナの袖を引っ張って注意をひく。

 フィルも、表面では「まあまあ」とエリザに同調しつつ、内心苦笑いしていた。


 自虐にしては痛すぎる。

 だけど、ヘレナの言うことも事実だからどうにも反論しようがない。


 あと、一つ注文つけるなら、ルイスさん、ヘレナの言葉を真に受けてそのまま返さないでくださいよ……。

 まあ、おとなしそうに見えるヘレナが急に毒を吐いたので驚いたのかもしれないが、めったに顔にでない彼女にしてはめずらしく、表情が揺れている。


 ルイスがわざとらしい咳払いをして、ちらりと四人を見た。


「……ええ、何も問題ありません。それで、今の話から考えるに、互いの情報を共有しておくことが必要だと考えますが、それでよろしいですか?」

「もちろん」

「わかりました。一回しか言いませんよ」


 そう言いつつも、ルイスは嫌な顔ひとつせずに再び口を開いた。

 とはいえ、やっぱり話は相当長くなったので……。

 話の内容を軽くまとめると、こんな感じになった。




 まずは、人間と精霊の違いについて。


 人間は、自身がもつ魔力(オド)を使い切っても、しばらくの間なら問題ない。ただし、エネルギー不足で腹が減る。そこらの魔力(マナ)を取り込むことができないから、食事してエネルギーを取り込むしかない。


 一方で精霊は、体内に持つ魔力を全て使い切って魔力切れになると死んでしまう。魔力(マナ)を使える分食事はあまりしなくても良いが、そのかわり常にある程度の量を取り込み続けなければならない。


 人間と精霊で使える魔法にも違いがあるという。

 人間だと例えば、一人の人間が火や水といった属性の違う複数の魔法を使うことができる。フィル自身も、火だけでなく風、水、土系統も一通り使える。


 だけど、精霊の場合は、これはまずありえない。生まれ持った一つの属性魔法しか使えないのだという。例えば、水の精霊であるルイスは水系統しか使えない、というふうに。


 これをふまえた上で、もう一度契約の重要性を考えてみよう。


 もし契約が壊れたらどうなるか。

 一言でまとめると、魔力(マナ)のバランスが崩れる。理論はごちゃごちゃしていてわかりにくかったので、すっとばす。

 結論として、起こることはこうだ。

 まず初めに、魔力に生命のほとんどを依存している精霊が一番にその影響を受ける。その身に持つ魔力を維持できなくなるのだという。待っているのは当然ながら死だ。

 次に、循環する魔力(マナ)を利用している自然界のバランスが崩れる。

 結果的に、自然のサイクルに依存している人間も共倒れして死ぬ。




 ……と、いうことだそうだ。


「ここ数十年、精霊と人間の交流が途絶えていたため、契約が途切れたのではないかという噂が流れていたのですよ。なので今回のことは本当によかった。これで先への保障が得られたわけですから」


 ルイスの話を聞きながら、フィルは半分以上目をパチクリさせていた。


 ここまで重い話になるとはねえ……。


 契約が壊れたら世界がどうとかいうのはぼんやりとしかわかっていなかったけど、具体的に聞くと鳥肌ものだった。自分の死に方がありありと想像できるというのは、したくない体験だと思う。

 話のとおりなら、精霊は契約の影響をもろにうけるということだ。


 今なら、ルイスが言っていた意味がよくわかる。たしかに、自分だけじゃなく他人の生き死にまで直結するというのなら、この契約はとんでもなく重要なものだ。


「……なんか、これあたしたちには荷が重すぎない……?」


 エリザがぐったり疲れた顔でつぶやく。


「そうおっしゃらずに。今更、選ばれたという事実は変えられませんよ。ですから、あらためて、今後ともよろしくお願いいたします」

 ルイスが軽く会釈したので、四人とも反射的にうなずいた。


 これが、なんとも重たい事情すり合わせ会の内容だった。


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