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アマネセル紀行録  作者: 氷室零
第二章 霧の海
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次の目的地へと旅は続く

「……もう行くのか」

「はい。僕たちもまた次の場所へ行かないといけないので」

「そうか」


 谷からおり、村の近くまで戻ってきたところで、一行は別れることにした。

 四人(実際は姿を隠したルイス含め五人)が街道へ出るところを、ギルバートとレイン、館から合流したアイザックの三人が見守る。


「今回は、本当にいろいろと助けられた。村のことだけでなく、水の問題も解決したからな。改めて礼を言いたい。本当にありがとう」

「いえ、それはこちらも同じです。お世話になりました」




 これは、谷へ行った後教えてもらったことも含むのだが、彼らが村を訪れ、谷へ向かってその結果起こったことまでをここにまとめておく。


 まず、数年前に突然、この地域を流れていた川の水量が減り始めた。この川は、村の数少ない大事な水源の一つになっていて、これがなければ生活に少なくないさわりがでる。おまけにこの地方は薬草の産地で、この川の水が一役も二役も買っていたから、打撃はなおさらひどかった。


 領主のギルバートはいつか水がなくなる事態も見越して、この時点で騎士団を動かし、井戸を増やしたり遠くの川まで行く道を整備したりしていたらしい。


 だが、一年前、とうとう川が()れ、水がなくなった。

 四人が谷で歩いていたのは、この川の川底だったのだ。


 水がなくなれば、当然薬草の生産量は大きく減る。

 さらに、ここ数年の凶作で食べられる量が減っていたこと、はやり病が入ってきたことなどで、村の状況は大きく悪化した。


 この段階で、四人がたまたま村を通りかかった。


 あとのことは、皆さん知っての通り。


 薬草を持ってきたのと、谷を調査してくるといって向かい、ついでに因果関係はわからないが川の水も元に戻った。

 結果としては、万々歳ということになったわけだ。




 谷川のことまでは知らなかったけれど、結果としてもとに戻ったならいいことだったんじゃないだろうか。少なくとも、川が涸れたままで水不足のまま、というのよりはマシなはずだ。

 多分、水不足になったっていうのが、今回この村で起きた問題の一番の原因なんだろうから。


「さっき聞かせてもらった話は貴重なものだから、こちらで記録としてきちんと残しておく」

「それは残さないで!!」


 フィルの悲鳴のような声に、どっと笑いがおきる。


「今度は、どこへ行くんだ?」


 名残惜しそうに、ギルバートがたずねた。


「東を回ってたので、今度は西に行ってみようと思ってます」


 旅を始めてここに立ち寄ったときも、まず街道に出るため北に、そこからは街道に沿って西へ、さらに南へ、というふうにぐるりと国中を一周するつもりだった。それくらいなら目的地を絞られるわけでもないし、教えても大丈夫だろう。


 ついでにいうなら、この街道に出た時点で行く方向はわかっているようなものだ。

 この街道に出たら、東は国境がすぐ近くだから出国してしまうことになるので、西に行くしかない。この地域、エストレリアじゃ北東の辺境になるんだし。


「そうか、気をつけてな。何かあったら、いつでも便りを送ってくれ。できる限り、力になる」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「二言はない。約束は守る」


 ギルバートが微笑む。


「そんじゃガキども、途中でへばんじゃねーぞ? なんならもう少しだけこの俺が面倒見てやっても……ぐおっ!」

「お前というやつは! こういう時くらいましな言葉があるだろう!?」

「……若、そんぐらいにしといた方が。坊主たちになんとも微妙な顔させてます」

「あ、ああ! 本当に毎度すまないな……」

「い、いえ……」


 ……最後まで、この人たちらしいと言うべきなんだろう。多分。

 ギルバートが謝り通しというのも印象に残るが、苦労してるなとついつい心配になってしまいそうだ。こんな若造に心配される人じゃないだろうけど。

 ひとまず胃に穴があかないように祈っておく。


「それじゃ、行きますね」

「元気でな」

「達者でな、坊主たち! 嬢ちゃんたちは特に気をつけるんだぞ!」

「先に言われたぁ!? ちっくしょう、ガキども、せいぜいくたばんねえように精進しやがれ!」


 三者三様の言葉に、思わずほおがゆるんだ。


「本当に、ありがとうございました!」


 最後に、おもいっきりよく頭を下げて。

 四人は踵を返し、街道を西へと向かった。

 目指すは、ここから西に当たる街である。


二章、なんとか終わりました。長かったなあ……。

次に一つ、関わりのある人たちの話をいれて、三章に入ります。

なにとぞお付き合いくださいませ。

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