クロの夢
何も見えない暗闇が途方もないほどに広がっていた。
それはクロの心の中。
今年16になる少年のクロは、物事に対して何も興味が持てず、
ただ毎日を曖昧に暮らしている少年だ。
根拠もない漠然とした不安だけが心を覆っている為、
何を見ても、何を食べても、真っ暗なフィルターが邪魔をして、
何も感じない。
今日母さんが作ってくれたオムライス、妹のシロは美味しいと喜んでいた。
僕も美味しいと思った、だけどそれがなんだっていうんだ。
そんなものどうでもいいじゃないか。
ただ生きて、それで死んでいくんだろう。
学校の連中ははやりの歌手の話ばかり、
そんなの赤の他人なのに、くだらない。
喉が渇いたから、水飲み場で水を飲む
誰からも話しかけられない僕はまるで透明人間。
透明人間のクロ、まるで影のよう。
家に帰ると、空虚なテレビに情熱大陸が映し出されていた。
そう、イチローや福原愛は光なのだ。
正当な努力に光があたり、世の中は彼らを映し出す。
その裏に無数の影がある事など誰も知りはしない。
影は影らしく消えてしまえばいいのに、
なぜに幸せを求めていくのか。
今日もクロは何も見えない暗闇の中で、
溶けるように消えてしまう事を、ただ夢見るだけなのであった。
闇のヴェールをはがすと、見渡すほどの光があって、
時に痛く、その眼をふさぐとしても、
時に甘く、生きていてよかったと思える事がある事も、少年ゆえに知らないままで。