序章 幸せの絶頂から絶望の底への滑落
久しぶりに新作を投稿しました。
三重苦の~と並行して投稿していきたいと思いますのでよろしくお願いします。
必ず死ぬ主人公を書くのは初めてですので、色々試行錯誤していきたいと思いますので、
色々指摘くだされば嬉しく思います。
「ねぇ、約束して。もし私が殺されても、決して復讐をしないことを。そして、私の死を悲しまないことを」
そう、彼女がふと独り言のように呟いた言葉を、今でも俺は鮮明に覚えている。
その言葉を当時はあまり深く考えてはいなかった。彼女はたまに冗談でそんな不吉なことを言う傾向があったからだ。
しかし、今になって思い返してみれば、いつものアイツの様子と明らかに違ったような気がして・・・・・・。
あぁ、どうして俺はあの時、もっとアイツの言葉を真剣に聞いてやれなかったのか。後悔ばかりが俺の肩に重くのしかかる。
そうすれば、アイツは、俺の恋人はあんな無残な殺され方をしなくて済んだのに・・・・・・、と。
―――――――時を遡ること十年前。
2009年2月13日。
奇しくもそれは俺の誕生日の前夜に事件は起きた。
珍しく東京都でも連日の雪が降り続いていて、俺は同棲している恋人と三十回目の誕生日&初めてのバレンタインデーを一緒に過ごす予定でいた。
俺の勤め先は警察庁であり、そこの殺人課に所属する一端の刑事であった。職業柄もあってか休日など不規則でその日は休めないかもしれないと事前に彼女に告げていたが、偶然だったかもしれないが無事に休みが取れたことに内心ホッと安堵したのを、今でもその感覚を嫌になるくらいに覚えている。
今覚えば、あれは何かの暗示だったのではないか。
もしかしたら、彼女は自分の遺体を一刻も早く俺に見つけてほしかったのではないかと、今になってそう思えてきてならないのだ。
だって、そうでも思わなければ、俺のちっぽけな心なんてあっという間に粉々に壊れ崩れ果ててしまっていただろうから。
しかし、十年前の俺は、そんな悲劇がこの後待ち受けていようなど露ほども思っていなかった。これから家で彼女と二人きりで過ごす甘い一時に胸を高く躍らせていた。
言葉で言い表せないほどの高揚感と多幸感に酔いしれていた。
その日俺は定時過ぎに職場を後にし、数日前に予約していた有名ショコラティエが経営する店のバレンタイン限定チョコレートを受け取った帰り道。
その日に限って俺はいつもの帰宅道を通らず――――よっぽど早く帰りたかったのであろう――――団地側じゃなく公園側の道から帰ることを決めた。
俺の住むマンションは土手で東西に区分された東側に位置し、ちょうどその傍に公園があったのを思い出したからだ。ここに越してきた当初は地理を覚える為に近所を散策し、その時に公園があるのを確認したものの、公園で遊ぶような歳でも遊ぶような子供がいるわけでもないので、長らくスルーしていたのだが。
この公園のちょうど真後ろに俺の住むマンションは建っており、公園の中を突っ切った方がよっぽど近道なので、その日だけ俺は街灯の仄かな明かりに照らされた薄暗い公園の中を通り抜けていくことに決めたのだ。
街灯の白色の淡い光に、空からちらほらと降り落ちる雪が絶妙にマッチングしていて、何だかとても幻想的な景色に俺は年甲斐もなく感激していた。
いつか俺もアイツと二人で・・・・・・、と淡い妄想を脳内で描きながら、恋人の待つ家へと歩く足を速める。
すると、何だろう。
公園の一番奥――――――遊具が置いてある辺りからザワザワと人の話し声が聞こえてきた。
(なんだ? こんな夜遅くに)
手元の時計を確認すると、指針はちょうど19時を指していた。深夜でもないが、こんな夜更けに公園で人が集まるのも珍しい。
雪を見に来た見物客か? いや、それでも綺麗に雪が積もっている訳でもないからそれは違う。
ならば何故?
俺の心臓が嫌な昂ぶりを見せ、脳が『引き返せ』と警鐘を鳴らす。
しかし、そんな警鐘を無視して、俺の体は人だかりの方へと勝手に進んでいく。
感情が、自分の感情なのに制御できない。
刑事の勘からか、この手の嫌な予感は、必ず当たる。
だから、せめて―――――――――、と願う。
どうか、どうか。
俺の、大切な人でありませんようにと。
しかし、そういう時に限って当たるもので―――――――、俺は初めて己の無力さと神を呪った。
俺は決して忘れないであろう。
降り積もる新雪の上に眠るようにして横たわった、物言わぬ恋人の亡骸を。
さながら辺りに染み込んだ真っ赤な血しぶきは、彼女の好きな薔薇の花に見えた。
その日から、俺の時は止まり―――――――、俺は二度と自身の誕生日を祝う事を禁止した。
とてもじゃないが、大切な人が殺された命日の次の日に、どんな顔して俺の誕生日を祝えばいいのか分からなくなったからだ。
そんな俺を世間では”可哀想な人”とか”哀れな人”。極めつけは”無能な警察官”とまで呼ぶ奴がいる。
その言葉を浴びせかけられた時。
俺はある心理へと辿り着いた。
俺が無能だったから、アイツは殺されたんだ。
ならば、俺は――――――――、誰もが恐れる警察官になってやる。犯罪者が俺の名を聞いただけで震えあがるような警察官になってやる。
犯罪者を捕まえて捕まえて、そして―――――――――、あいつらに思い知らせてやる。
お前たちは、虎の尾を踏んだってことを―――――――――。
それから十年間。
俺は24時間不眠不休で犯人逮捕に全力を注ぎ、その方法を選ばない非道すぎる捜査手腕からついたあだ名が”狂犬”であった。俺の名を聞いただけで犯罪者は全身を恐怖に震わせ、まだ捜査の手が伸びてもいないのに勝手に自首してきて自爆するケースが増えてきた。
俺は自分の功績に酔っていたのかもしれない。頑張れば頑張るほど努力は報われる。
しかし、栄光を得る代償に俺は自身の体を労わることもなくなり―――――――。
すると、やっぱりしわ寄せがドッと押し寄せてくるもので。
気づけば取り返しのないことになっており、慌てて病院に駆け込んだときは時すでに遅し。
精密検査の後。
担当医師に告げられた言葉はあまり無情なもので、
「――――――――君、余命あと365日ね。一年後には死んじゃうから、今のうちに身辺整理しといた方が良いよ」
あまりの急展開に、
「――――――――――マジかよ」
と、だけしか言えなかった。
ミステリというかサスペンスが好きなので書いてみました。
あまり推理場面は出てきませんが、頑張ってひねり出してみますので
温かい目で見てくだされば幸いです。
それではまた次回に会いましょう。