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1.花の季節。


「ジン!!土曜日だからっていつまで寝てるの!隣の歩ちゃんは店の手伝いをしてるって言うのに!」


母さんの大声で目が醒める。


こみ上げてくる欠伸を噛み殺しながら、寝ぼけ眼でベッドから降りる。


小学生から使い古された相棒はギシギシと名残惜しそうに鳴くが、二度寝をしたら母さんがまた大声を上げて起こしにくるので後ろ髪を引かれながらも部屋を出る。



木造二階建ての我が家の階段はどこの名門野球部の為に作られたのかは知らないが無駄に急だ。幼い頃自分の部屋にと父さんが使っていた二階の部屋を与えられてからと言うもの、転げ落ちた事は数知れない。



今回は踏み外す事も無く安全に一階に降り立ち、居間でテレビを見ながらせっせと朝ご飯の支度をしている母の前に着いた。


昨日は夜勤だったのだろう、目にクマが出来ている母は俺に早くご飯を食べさせて寝たいのか、土曜の朝はだいたいいつもカリカリしている。



そんなベーコンな母さんの純和風な朝食を食べながらテレビのニュースを見る。



どうやら今年は紫陽花が綺麗らしい。綺麗な女性アナウンサーが心なしか笑顔でニュースを読み上げる。



しかし俺は花には興味が無い。すぐさま次のスポーツニュースに関心が持って行かれた。ほう、タイガースの藤浪がまた完封か。




「ジン~!あんた今日ヒマなら笹山さんとこにお土産持って行ってくれない?」


自分の部屋の前から母さんが半身だけ出して声を掛けて来る。おそらく今から寝るのだろう。



笹山さんとは俺の家から2キロ程の所に住んでいる母の元同僚だったゴツいおばさんだ。女性なのに肩甲骨がやけに盛り上がっているのが小さい時から印象的だった。もう還暦が近い人だがその豪腕は健在で、こないだ会った時もヒョイっと抱き抱えられてしまった。



どうせする事も無いので了承し、食べ終えた食器を片付け、階段を登り服を着替える。



近場の大型ショッピングモールで買った無地の灰色のTシャツにジーパン。[無地にハズレはない。] 町のファッションリーダー節子おばさんの名言だ。



父の使っていた皮の財布を尻ポケにねじ込み、スマホを左のポケットに入れ、右には自転車の鍵を。これで準備は完了。




再び階段を降り、玄関にあるよく分からないセンスの紙袋を持って家を出ようとした時、また母さんに声を掛けられた。



「あ、そうそう。去年町内会で植えた遅咲きのジャスミンが見頃らしいわよ。まぁ、あんたは興味無いから言うだけ無駄か。」



ごもっとも。

ジャスミンなんて紅茶の名前ぐらいしか知らない。目の前にあったとしても気付かずに通り過ぎるのが関の山だろう。



適当な相槌を打って、そそくさと自転車にまたがった。






笹山さんの家に着きインターホンを鳴らすとすぐにドアが開かれ、骨が折れる程の抱擁を受ける。お土産を渡すと家に上がるように勧められたが、何が悲しくて思春期真っ盛りの俺が独り身の元ナースの家に上がらねばならんのだ。



シチュエーションだけ考えれば年上のナース女性の家に2人きりなのだが、相手は年が四十も上だしプロレスラー並みの上腕二頭筋の持ち主だ。


これでは無い。俺が求めているものは。




どうにか断り、チャリに乗って来た道を帰る。



高校2年生の遊びたい盛りならここから街にでも。と思うかも知れないが、チャリで行ける行動範囲には商店街しかないのでそう言う展開は無い。隣の幼馴染は徒歩で近くのショッピングモールまで行った事があるらしいが、俺はそこまで健脚では無いし、それなら文化的にバスを使う。



つまりは家に帰って母さんを起こさない様に音量を最小限にしてゲームをする位しか選択肢は無いのだ。




ふんふんと鼻歌を歌いながらチャリを走らせる。湿気が多くジメジメとした空気を風が吹いて爽やかにしてくれる。




ふといつも通る公園を横切ろうとした時に、1人の少女が目に止まった。



見た事の無い同年代の女子のようだ。



これは珍しい。こんな田舎なら同年代どころかプラマイ3歳は確実に知っている筈なのに。しかも観光で来るような場所でも無いので誰かの親戚だろうか。




肌が浅黒いのを見て親近感が湧き、どうしても顔が見たくなった為、チャリを止め公園の椅子に座っている彼女に近づく。




すると相手も俺の存在に気付いたのかパッと目が合う。





間違いなく今までで1番の、とても綺麗な少女だった。



そして瞬時に理解した。これが一目惚れだという事に。




つい見惚れていると、少女が口を開いた。



「あなたは、西アジアとのハーフですか?」


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