0.プロローグ。
昔の偉い人はこう言った。
「 誰にでも人生を変える物語がある。それに何時出会うのかは神様にも分からないし、既に出会っていても気付かない事もある。しかし、必ずある。」
本当に勝手な事を言ってくれたものだと思う。
何故なら俺にもその物語があるからだ。また、そのせいで俺の人生は大きく変わったと言っても良いだろう。
人生の転機は小学校一年生のお楽しみ会で、当時の担任の先生が大好きだと言うアニメ映画を見た時に起こった。
内容は、どこにでもいる普通の青年が、魔法のランプと空飛ぶ絨毯を手に入れて、悪者を倒しお姫様と結婚をする某有名アニメ会社お得意のファンタジー。
まぁ、よくある成り上り系のストーリーだ。と、言ってもその青年はコソ泥なのに正義感と人望があり、非常に頭の回る猿を親友として連れている。そう言う時点で滅多に居ないと思うのだが、この際その辺はどうでもいい。
問題だったのは主人公の名前が俺の名前と激似だったことだ。
俺の名前は阿原仁。片仮名に直すとアハラジン。そんでもって主人公の名前はアラジン。
もう分かっただろう?その日から俺のあだ名はアラジンになった。小1で不本意な二つ名を貰う事のストレスは計り知れない。
それまで純粋で可愛らしかった俺の性格は、途端に捻くれ者の素直じゃない奴に変わってしまった。唯一アホな幼馴染の虻川歩と、四年時に転校して来た寺原大河だけはこの呼び方をせず、名前や他のあだ名で呼んでくれていた事は、これまでヤンキーにならずに済んだ大きな要因だろう。
しかしだからと言って全てが丸く収まる訳では無い。給食にカレーが出てきた時はムチャ振りでアラビアンソングを歌わされたり、カーテンで空を飛んでみてくれと懇願された事は両手の指の数じゃ足りない。地黒と顔が濃い事が更に悪ノリに拍車を掛け、気づけば立派なアラビア芸人になってしまっていた。
だから俺はこの物語が嫌いだった。DVDのパッケージが目に入る度に唾を吐きたくなり、カレーを見ると手足が震え、ガラムマサラの匂いを嗅ぐだけで頭痛がする程に。
とにかく大嫌いだった。
何故あだ名とは言え同じ名前の俺には願いを叶えてくれるランプの魔人が居ないのか、空飛ぶ絨毯が手元に無いのか。
何故俺はこんなにアラジンアラジンと茶化されて居るのにお姫様と出会えないのか。
そもそも何故両親はこのリスクがあるにも関わらず紛らわしい名前を付けたのか。
弄られる度にこんな事を考えながらの小学校生活だった。
その後小学校、中学校と卒業し、高校でも無事アラジンと呼ばれ2年目になる。悲しい事に需要の尽きないアラビア芸も円熟味を増して来た。
そして相変わらず俺はその物語が大嫌いだ。
だけど、
そんな日々の中で、君に出逢った。