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いざ王城へ

フレアは、王城にはついてこれない。付き添うのは別の侍女だそうだ。


どうやらうさぎのお面の効力もさすがにゲームの進行の中心になる王城では、万全とも言えないようで止められて

いるらしい。これは、出発の直前に聞かされた。フレアは凄く申し訳なさそうで、そしてすごく心配そうだった。

なんとく懐かしい感覚だった。はっきりとは思い出せない幼い頃の記憶だけれど、そう感じるのだ。


「大丈夫よフレア。王城に行ったらエルディス王子もいるし…ね?」


わたしはフレアを安心させようと少しうつむき加減の彼女のその手を取って微笑みかけた。

エルディス王子がわざわざ手をまわしてフレアを護衛として付けてくれたというのなら、少なくとも守ろうとしてくれているということだ。


その理由ははっきりとはわからなかった。


普通の護衛では対処できないものでもフレアならできるらしいということも理解した。

前世の記憶を持って既に大きく本来のディアナというゲームキャラクターから外れているだろうわたしという存在は、

ゲームシナリオから外れる要素が大いにあって、普通の公爵令嬢とは別の危険があるということもわかった。


(好きな相手だから…ではないよね…きっと)


これは、最初に思い出したことだ。


公爵令嬢ディアナは、ヒロインの当て馬役なのだ。


どういう結末になるにせよ、彼女はエルディス王子に選ばれないということは思い出していた。

だからこそ、守ってくれる理由が、好きだからとかそんな恋愛感情に起因する甘い感情だとは思えなかった。

昨日の態度を思えば、好意を持たれていると期待してしまいそうになるけれど確証はない。

さすがに単純に当て馬になる婚約者だから、嫌いなはずだとかそんなことは思っていない。


幼馴染として婚約者として…大切には思ってくれているのかもしれない。


(まあ、わたしが婚約者であったほうが政治的に有利とか…そんな理由ならありそうだけど。)


まだまだ、色々知ってそうなのに羽根うさぎは、はっきりとは教えてくれない。

わたしが思い出せないと伝えられないらしいから。でも、これもなんだかはぐらかされている気もする。


「…ディアナ様…どうかお気をつけて」

「…ええ。また、帰ってきたらフレアの淹れてくれたお茶が飲みたいな。わたし、凄くあれが好きみたいなの。」

わたしは、今朝飲んだあのお茶が好きだった。小さい頃、記憶の片隅にある懐かしい味だった。

フレアは、少し驚いたようだ。それでも嬉しそうに頷いてくれた。お面を被っていても気持ちは伝わるものだと思う。


こうして、フレアや他の侍女たちに見送られてわたしは王城に向かった。



これはとても、都合よい展開なのだろう。


エルディス王子は、どうしても外せない用事があるので遅れるのだそうだ。

わたしにそれを伝えてくれたのは、王城の中を先導してくれている目の前の騎士様だ。

親衛隊副隊長カイン・メリエール。エルディス王子の直属の部下だ。


(改めて見ると本当に長身よね。会話する時、首が疲れそう…)


馬車を降りて直後に挨拶を交わして、エルディス王子を待つ為の場所への案内をしてくれると説明を受けてそれから、こうして先導してくれているわけだが。


(一言もしゃべらない…本当に無口よね。)


彼のことは見知っていたが、改めて観察すると今までに気にもしていなかったことに気がついたりもする。


これだけ身長差があるにも関わらずわたしは特に歩く速度に不都合が無い。合わせてくれているのだろう。

職務として先導するだけならそこまで気を遣う必要はないだろう。心遣い。優しさというべきか。

女性を先導するのだから当然気にすべきことなのだが、案外できない男性は多いのである。


そして、結局一度も無駄な?会話をすることもなく目的地にたどり着いた。

自分より高位でしかも、上司の婚約者の女性と親しく話すというのも難しいだろうけれど。


案内されたのは王城の中庭にある東屋だった。

王城の中庭にあるそれには、豪華な椅子とテーブルが備えてあった。

外にあるというのに汚れはほどんど見られない。手入れも行き届いている。


「こちらでお待ちくださいとの事です。どうぞおかけになってお待ちください。」

カインは、そう言って椅子を勧めた。わたしは、ありがとうと一言言って腰かける。


そして沈黙。


カインはそのまま少しわたしの座る椅子から距離を置いて東屋の外で立哨している。

周囲警戒を怠らない正しく騎士のお仕事をしている。エルディスが王子がくるまで警護の役目も担っているのだろう。

王宮付きの侍女たちがこの場に居ないということは、そんなに長い時間待たされることもないのだと推測できた。


(うん…わかってた。こうなるよね。でも、これじゃ何もわからないかも…まあ、覚えていたイメージの通り無口でお堅いってのは十分わかったけど。)


わたしは意を決して話しかけることにした。


「カイン様…お花はお好きですか?」

「えっ…」


カインは、突然の問いかけに唖然としていた。そしてわたしは笑顔を向けながら…


(ああ…なんでこんな質問しか思いつかなかったかな自分…)


と、自分の会話力の無さを実感していた。無難に天気の話を振っても話は続かないだろうし、どんな女性が好みですか

なんてド直球で攻略対象に必要な情報として聞くというのはさすがにあり得ないし、ご家族は?なんて聞くのもおかしい。

と考えていたけれど特に思いつかず、ふと目の前の薔薇が目に入ったからというのが理由だ。

そういえば、エルディス王子が贈ってくれていた花も薔薇だった。赤い薔薇を11本。

なんとも中途半端な数な気もする。でも、凄く綺麗な薔薇だった。


「エルディス王子が薔薇を贈ってくださったのです。ちょうどそこに咲いているような赤い薔薇を…」

「…そうですか。赤い薔薇を…」

カインは、薔薇に目を向ける。わたしは構わず話を続けることにした。どうせエルディス王子が来るまで時間を過ごさなくては

ならない。あわよくば何か情報が引き出せるかもしれないと自分の会話力に見合わない望みをかけた。

「11本贈ってくださいました。」

何気なく本数を伝えたのだが、カインが思いのほか驚いた様子を見せた。


(えっ…何かおかしなこと言った?)


「11本ですか…、ディアナ様は、花言葉をご存知ですか?」

「えっ…えっと…あまり詳しくなくて…」


予想外の返答にわたしは慌ててしまった。貴族の中では花の意味にメッセージを込めて贈り物をするのは一般的ではある。

薔薇は最もポピュラーな贈り物だった。エルディス王子から届けられた薔薇も婚約者への定型的な親愛表現とだけ受け取っていた。


「…そうですか。花は好きです。その花の持つ意味合いの深さも興味深い。薔薇は色や本数で意味合いが変わってくるのですよ。」


カインは、思いのほか優し気な表情でそう言った。予想外の反応だった。さっきまで無言だった人ととは思えない。


(そういえば、花が好きって…設定だったような…なんて適当な会話で情報入手…だけど、偶然過ぎて喜べない)


カインが、花束を贈ってくれるイベントスチルを思い出す。そのとき、その花の意味をヒロインに語りながらヒロインを励ますなんて、

シーンだった。無口な騎士の精いっぱいの愛情表現とかいうお決まりのパターン。顔に似合わない…とか思ってしまったことまで思い出した。


「赤い薔薇が、11本なら…どんな意味があるんですか?」

「11本なら…」

カインが答えようとしたその時、視界の端に待ち人の姿が見えた。

どうやらカインもその気配に気が付いたようで話はそこで終わってしまった。

程なくしてエルディス王子が東屋にまでやってきた。

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