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出発前の思考

(でも、気持ちが見えないってどういうことだろう。)

ゲームでのエルディス王子は、常にアルカイックスマイルで穏やかに話しかけてきたように思う。

たとえ、正解の選択肢であっても、最善でないその選択肢に怒りを覚えていたとしても表向き分からなかった。

だから、彼がヒロインとの仲が進行してからのイベントで微笑んで「愛している」と言うシーンのCGすら裏があるんじゃないかとネットで騒がれていたと思う。


(本当によくわからない人だったかも…でも、声が良かったんだよね…)


正しく美青年って感じの高すぎることもなく、低すぎることもない澄んだ声。現在の、エルディス王子そのままの声だったりするのだから不思議だと思う。

ゲームでは声優が声を当てていたはずだ。担当した声優の写真を見たこ

ともあるが、はっきり言って別人だ。

こういうことを考えると凄く不思議だと思う。羽根うさぎならご都合主義だよと簡単に片づけてしまいそうだが、いったいどうやってできた世界なのだろう。


(まぁ…声のことは今考えても仕方ないけど…、言ってることや行動と気持ちが裏腹でも問題ないってことなのかな…)


考えていること、思っていることと言ってることを別にして行動する。言うより実際は難しいと思う。自分が社会人として働いていた時、確かに所謂営業スマイルなんてものも駆使していたけれど…かなりストレスは溜まっていたように思う。

そんな気持ちだけの問題でなく、どうやらこの世界を支配するシナリオも考慮して動かなくてはならないというのだから、難易度は格段に上昇する。

羽根うさぎとの会話から察するにどうやらエルディス王子にはこなせているらしい。流石ゲーム内最高スペック。


(んー…でも、なんだかもっと逃げ道もありそうな気がするんだよね。)


自分がしている”ゲームの情報をメモする”ことも、公爵令嬢ディアナの行動としてあり得ないことではないだろうか。

知るはずのない情報、知るはずのない未来を記すことであるはずなのだが…


わたしは、何も危害を加えられていない。


(世界を支配する者に気が付かれていないってこと?)


メモすること自体はシナリオに影響することはないから問題ないのかもしれない。シナリオ上でディアナがメモをしたという内容は無かっただろうけど、反対にメモをしなかったという内容もないってことなのだろう。ややこしい。

でも、このメモの内容をこの世界がゲームが元になっていると知らない人物に見せてしまったら…


(…多分、魔物に襲われるんだろうなぁ…ってことは、気を付けて持ち歩かなきゃ)


今の自分には圧倒的に情報量が少なすぎる。

わたしが記憶を取り戻してから出会ったゲームの登場人物は、エルディス王子だけなのだ。

今日は、なんとも都合よく王城に行く予定があるのだから後何人かは出会っておきたいと思う。

そして、思い出すべきはゲーム内でのわたし=ディアナの今後だろう。

(自分のことが一番わからないのよね…でも、他の登場人物みたら思い出すかもしれないし…)

せめてヒロインとかならわかりやすかったのにというのは、どうしようもないことだ。なんとか攻略対象の名前くらい思い出そうと記憶を探ってみる。

目の前にあるメモ帳に書き出していく。


そして、すぐに書き終わってしまった。


そう、すぐに書き終えるほどしか覚えていなかった。残念ながら。


(我ながら情けない…、なんとなくは思い出せるんだけどな…)


言い訳をするなら、公爵令嬢として出会えるのはあくまで、貴族階級の人たちがメインになる。そして、夜会や王城での行事などで見かける程度だろうか。しかしはっきりと顔と名前を知っている人の中に登場人物らしき人がほとんど居なかったのだ。

騎士として王城で働く以上爵位を持っている人も少なからずいたはずだが、夜会のようなような社交の場では要人警護だったり、

行事では王城の警備だったりとお仕事中なのだ。そんなお仕事中の騎士の方々と警護される側である公爵令嬢であるディアナが親しくなる機会などなかった。


(騎士様達だしね…はっきりと顔も名前も思い出せた攻略対象がこの2人か…)


ひとりは、エルディス王子の弟。第二王子のルーファ・トラウスこの国でも珍しい魔法剣の使い手。

研究好き…エルディス王子にも負けず劣らずの美青年。背は、まだわたしと同じくらいだが成長期なのでこれから伸びる余地は存分にありそうだ。

確か、歳はわたしの一つ下だったと思う。流石に婚約者の弟…顔も名前も覚えている。

しかし、あまり見かけることは無い。彼の場合、


「うん…引き籠りだよね。」


研究好きが度を過ぎて社交を疎かにしているらしい。公式行事すらエルディス王子に無理やり引きずり出されていると聞いたこともある。

ちなみに攻略のしやすさは、普通。いかに彼の研究に付き合い(身を差し出し)ながら接していくかが重要だったように思う。

エルディス王子よりは、感情も顔に出るタイプだ。…興味の持たれ方が実験対象としてというのはなんともいえないところだと思う。


(まあ、わたしヒロインじゃないし…関係ないけどね…多分)


そして、もう一人は、カイン・メリエール。トラウス国の近衛騎士副隊長。この人も婚約者の部下であるので面識もそれなりにある。

だけどあまり会話した覚えはない。必要最低限の挨拶と業務的な会話だけしか記憶にない。かなりの長身なので他の騎士たちよりも頭一つ飛びぬけているので目立つのだ。でも、彼を社交の場で見かけることはない。


「お堅い…生真面目が鎧着て歩いてる感じかな…」


とにかくお役目一番。ストイック。結構な爵位を持っているはずなのだが、夜会では大抵警備のお仕事をしていると聞いている。

まあ、上司である近衛の隊長がエルディス王子なのだから必然的にお仕事となるのもわからなくもないけれど。

彼の攻略のしやすさもさほど難しくなかったと思う。


わたしは、ぺんを置いてすこし背伸びをする。もうそろそろフレアが迎えに来てくれるだろう。


「後は、行動あるのみかな。」


王城は、ゲームの始まりの場所だ。シナリオを辿るにはうってつけの場所だろう。あくまで、エルディス王子に会いに行くという建前から外れてはいけないという制限はあるけれど。


(まずは、ヒロインが空から降ってくる…中庭か…エルディス王子に庭の散策がしたいとお願いしようかな…)


ジャストタイミングで部屋のドアがノックされた。フレアが迎えに来たのだろう。


「ディアナ様。出発のお時間です。」

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