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目覚めたら

懐かしい夢をみた。幼いころの夢。


そこには、いつも一緒に居てくれるひとりの侍女の姿があった。公爵令嬢であるわたしに侍女がいることなんて当然なのだけれど、彼女は特別だった。

侍女の中でも最も若く歳が近かった彼女にわたしは凄く懐いていた。

姉妹の居ないわたしにとって姉のような存在だった。一緒にお話ししたり、鬼ごっこしたり庭のお花を摘みに行ったり…他愛ない遊びを一緒にしてくれた。

ある日わたしは、公爵家の庭の一角で一生懸命に何かを探していた。

一面に咲いているのはシロツメクサだ。

でも、その花には目をくれようともしない。

「ねえ、これかなぁ~…?」

幼い私が手にしていたのは小さな4つ葉クローバーだった。声を掛けられた侍女は手元のそれを見てにっこりと笑った。わたしは、彼女の笑顔に自分がやっと欲しいものを見つけたのだと理解する。

朝からずっと探し続けていたのだ。既に陽は傾いている。

「ええ、それです。お嬢様。」

「うん。―――喜んでくれるかな?」

その侍女は笑顔で頷いてくれた。でも、どうしてだろう。彼女の顔がぼやけて見えないのだ。




はっと目を覚ました。窓から差し込む朝陽が少し眩しい。見覚えのある天井。

ここは、公爵家の自分の部屋だ。寝間着に着替え、ちゃんとベッドで眠っていたのだ。

(わたし、確か婚約披露のパーティーに出ていたはずよね…?)

そこで、意識を失う直前のことを思い出す。あれは、エルディス王子の魔眼の力だ。

魔眼、黄金の瞳…あの瞳と視線を合わせた途端全身の力が抜けてしまった。自分でいうのも何だが人並み以上の魔力を持っている自分がいとも簡単に意識を持っていかれた。

(…油断していたというのもあるけれど…ちょっと悔しい。)

それにしても随分といろんなことがあったと思う。王子と婚約が正式に公表されたと思ったら自分が前世を持つ人間で、しかもここがゲームの世界だとわかって・・それに加えて、変な羽根のついたうさぎに出会って、そしてエルディス王子がゲームの世界だと知っていたと知った。


ふと、昨晩のエルディス王子とのやり取りを鮮明に思い出してしまった。王子の綺麗な瞳、柔らかくて熱い唇の感触…一気に心拍数が上がる。顔が赤くなった。


(もうっ…落ち着け自分…婚約者にキスされたくらいで…)


頭をぶんぶんと振った。16年+26年目でファーストキスがあれとか、ちょっとレベルが高すぎる。

ゲームや小説と実体験では違いすぎる。赤くなった顔を誤魔化すように思わず枕に顔を押し付ける。


「お嬢様、お目覚めですか?」


ふと声を掛けられた。侍女が起こしに来くれたのだろう。公爵令嬢である以上朝の身支度にも侍女が付く。16年間慣れていたことだが記憶が戻った今、少し不思議な感じだった。

わたしは、返事をするべく起き上がって声のするほうに顔を向けた。

瞬間返事をするのも忘れて固まってしまった。

そこに居たのは、可愛らしいうさぎのお面を被った侍女だった。


(うさぎのって…ああ、デジャブだ…あのふわふわもこもの)


「本日から、ディアナ様のお世話をさせていただきます。フレアと申します。」


身だしなみ、所作…隙のない侍女。お面を着けている以外は特に不審な点は何もない。


不審な点は…お面以外無いのだが、それが一番不審なことには違いなかった。


(…わたしの部屋に入って仕事をしているのだから間違いなくお父様や侍女長は、

了承しているということだわ)


「どうして、お面を着けてるのか聞いても構わないかしら?」

「ディアナ様のお傍でお仕えするのに必要だからです。これ以上はわたしからはお伝えできないのです。どうか、ご容赦願えませんでしょうか。」


声やお面に隠れた以外の身体の部位を見るに年若い女性だとはわかる。背はわたしより高いだろうか。

細身だがバランスの取れた見事なスタイルだ。胸のボリュームは女性の自分が羨ましいくらいだ。前世風に言うならモデルか芸能人と言われても納得だ。


(って…何見てるのかしらわたし。まあ、予想できた答えね)


「…わかった。聞かない。」


わたしは、そういってにっこりと笑った。フレアの纏う雰囲気が和らぐ。表情が見えなくてもわかる。彼女は安堵したのだ。


(人の嫌がることをする趣味は無い。別に非礼でもなんでもないわ。)


フレアは手際よく準備を進めていく、わたしも着替えを済ませて部屋の椅子に腰かける。フレアがテーブルにお茶を置いてくれる。淹れてくれたお茶の味はちゃんとわたしの好みに合ったものだった。というか、凄く美味しい。


(とはいえ、気になるし…ここは解決しておくべきだわ)


「ねえ、フレア…」


わたしが片づけをしていたフレアに声をかけた途端に世界が暗転した。


「やあ。おはよう。ディアナ」


目の前には、ふわふわもこもこの羽根うさぎが浮いている。


もうお約束だ。

ひとつだけ確信した。フレアにはこいつが関わっているのだ。


「僕が君の疑問を解決してあげるよ。」

わたしは、ため息をつくと羽根うさぎに視線を合わせた。


「…なんで出てこれたのよ…?」

「まあ、そうだね。まっとうな疑問だよ」

羽根うさぎはうんうんと頷いている。でも、その質問に答えずに話し始めた。

「彼女はね、エルディスが君につけた侍女だよ。まあ、今は護衛の意味合いが強いね。」

わたしは、予想外に人物の名前が出てきて驚いた。確かに王子が直接つけるなら両親も何も言わないだろう…いや、言えないだろう。エルディス王子はわたしの婚約者で次期国王、でもそれ以上に両親はエルディス王子を高く評価しているのだ。仕事も社交も優秀な人だが、両親の評価ぶりは少し不思議なぐらいだ。


「護衛…?でも、それなら別にお面なんてつける必要ないわ。人の目を引いてしまうし。それに、仮にも公爵家よ?護衛なら事足りているわ」

「そだね。普通の護衛で普通のお面ならね。そうだろね。」

わたしは怪訝そうな表情になる。やたら普通を強調する意味を測りかねたのだ。

羽根うさぎは相変わらずふわふわと目の前で浮いている。まったくもって普通でない代表のような存在だ。


「彼女は、君に関わることでイレギュラーの塊になった存在で、君をこの世界を支配するものから守れる数少ない存在なんだよ。」


「え…?わたしに関わったから?」


どきっとした。何かが引っかかる。でもまだそれが何なのかはっきりとわからない。昨晩からこんなことばかりだ。


「…そう。まだ思い出せていないことだからね。おいおい思い出すよ。」


羽根うさぎが戸惑うわたしに優しく声をかける。その戸惑いの中にある不安を知っているかのように。頭の中に今朝の夢が重なる。小さいころ傍に居た…侍女。

「まあ、そして彼女は何より君を守りたいと思っている者だよ。だから心配しないで」

「…ねえ。フレアはもしかして小さいころに…一緒に居た?」


羽根うさぎは、少しの沈黙の後…小さくうなずいた。


(ああ、そうなんだ…)


わたしには前世の記憶がある。前世の記憶は26歳という年齢に見合う程度に思い出として残っている。大好きだったゲームのことだって、必要以上に覚えている。でも、ディアナとしての小さいころの記憶が曖昧なのだ。何かが抜け落ちている。思い出せないことがあるのだ。


(気に留めたことなんか無かったのに…)


気になり始めたのは…昨晩だ。何もかも昨日からだ。


「…無理に思い出すことはないよ。今はね。」


羽根うさぎがふわふわと近寄ってきてぽんとわたしの肩をたたいた。わたしははっとして羽根うさぎを見る。

感情のないはずのぬいぐるみの瞳。それなのに…


(気を使われている…本当に変なの)


からかってきたかと思うとこんな気遣いを見せる。この羽根うさぎは掴み難い。


「…わかったわ。話を進めて」

わたしは、深呼吸して改めて羽根うさぎを見据えた。


「僕が出てこれた理由だね。まあ、あのお面のおかげかな?あれは、僕の力が込めらた特別製なんだよね。

だから、あれが近くにあると僕は君に干渉しやすいんだ。まあ、過度の干渉はできないけどね。」


「この世界を支配してる力に邪魔されるってこと?」


「まあ、それもあるね。それと、実はこの干渉は無理やりだから君の魔力を頂いてるんだ。吸ってる感じ?」


羽根うさぎが可愛らしく首をかしげる。言ってる言葉となんとも合わない動きだ。


「ええっ~!!」


「もちろん、加減してるから心配しないで」


(不安しかない…でも、まあ体に変化はないし。随分都合良いのね…)


「そそ、ご都合主義万歳だよね。でも、これは君限定だよ。君の力じゃなきゃ意味がないんだ。君は存在自体がこの世界にとってのイレギュラーそのもの。フレアはあくまで君と関わってイレギュラーの塊になったからここに居ることが出来ている。」


口に出していないことまで会話で繋がっていることはあえて突っ込むのをやめた。もうそういうものなのだと理解する。


「わたしが、関わってるってことが重要ってことなのね。」


羽根うさぎは、わたしを最大のイレギュラーに成りうる存在だといった。

ゲームの世界でヒロインでもない脇役のわたしが転生者だなんて…それはそれでイレギュラーなんだろう。でも、それだけなんだろうか。


「そうだよ…君は結構重要な存在なんだよ~。」


重要だと軽い口調で言われてもいまいち説得力はない。しかし、基本に自分の力があるってことだけは理解した。

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