置いてけぼりの会話
無茶はしていない…だからここに居る。
道筋は違えていない。
「うん。違えていない。これでここに居る伯爵令嬢ディアナがエルディス王子の婚約者に確定だ。一つ起点をクリアしたね。エルディス。」
羽根うさぎとエルディスとの間には会話がしっかりと成立している。完全に置いて行かれている。こういう転生とかって、転生した人がメインで話が進む…ってことじゃないのだろうか。
(起点…?この羽根うさぎと王子は何の話をしているの…?)
「まあ、そこにいるディアナが結構困惑しているようだけど…それも想定内だよねぇ。さっきは、せっかく誤魔化せたのにね?」
羽根うさぎがこちらに視線を移した。
さっきとは、わたしがさっき記憶を取り戻した時のことだろう。
またなんだか笑われている気がする。そう、にやにやと笑ってる。
そんな気がする。実際は表情は無いのだけれど。エルディスもディアナに視線を向ける。
「…説明してもらえますか…?」
わたしは、二人を交互に見る。羽根うさぎは背後で相変わらずふわふわと宙を浮いているし、エルディスはディアナを腕の中で支えたままの体勢を変えていない。身体が密着しているのでかなり恥ずかしい。
腕の中から出ようと少し抵抗を試みてみたが…しっかりホールドされていた。
わたしは、必然的に二人の間で視線をさまよわせることになる。
すると、ふわふわと背後に浮いていた羽根うさぎがこちらに近づいてきた。
羽根がついているのにそれを使うこともなく空中を平行移動。
…結構怖い。真っ暗なこの空間では軽くホラーだ。
羽根の意味ないんじゃないだろうか…せめて羽根が動いてほしいと思う。
さっきまでふわふわと浮いてた時には動いていたと思うのに。
「ああ、僕がするよ。言えることも増えたしね…って何。そんな変なもの見るような目で。確かに、僕は可愛いぬいぐるみだし。おかしく見えてるだろうけど君の合計年齢より年上なんだけどなぁ」
(自分で可愛いって言った…こいつ)
「その羽根って…意味あるの?」
ディアナは疑問を口にした。つい砕けた口調になってしまう。年上と言われようがなんとなく、丁寧な口調を使う気になれない。羽根うさぎは自分の背の羽根を見た。
「動かすの忘れてた。」
そういうと、ぱたぱたと可愛らしく動かした。そう悔しいだけれど…可愛いのだ。絶対に言わないけど。
(忘れてたって…)
「まぁ、いいや。話進めるよ。エルディスはディアナがはっきりと思い出すより先にこの世界がゲームの世界だって知ってたんだ。知っていて今まで過ごしてきた。」
「…王子も転生者とか…?」
わたしは、エルディスに視線を向ける。エルディスは首を横に振る。
「違うよ。俺は転生なんてしてないよ。」
「そうだね、彼は、転生者ってわけじゃない。ディアナが想い出した通りに、このゲームの攻略対象。君の婚約者さ。」
羽根うさぎは、ふわふわの手を口元に持っていく。
「まあ、突っ込まれる前に言っておくけどね。君のことなら大概把握してるから。それ言ってない!とか無駄なリアクション要らないからね。意外と僕ってば凄い存在なんだよね~!」
まあ、分らないこともあるんだけどね…
羽根うさぎが、なにかぼそぼそ言い続けていたけれど、からかわれた事に意識の向いているわたしの耳には届かなかった。
(言われなくても…って、言いかけてた。いけないけない。落ち着こう。16歳+26歳なのよ。これでも会社での苦情対応は得意だったと思う。)
何度か電話対応で切れて、メモを取ってたボールペンを折ってしまったのは良い思い出だ。
「…さっさと先を聞かせてもらえます?」
少し声が固くなってしまったのは、仕方ないと思う。わたしは笑顔で先を促した。
「うんうん。図星だったんだね。君は本当にわかりやすいよね~…。というかわかりやすくなったのかな?まあ、いいや。あまり遊んでると僕が居心地が悪くて仕方ないし。」
羽根うさぎはそう言って一瞬、エルディスに視線を送った。わたしも反射的にエルディスのほうを向いたけれど、微笑みを返されただけだった。もう、なんというか最高の微笑みを。思わず視線を逸らしてしまった。
(直撃はよくないと思う…心臓に悪い。心拍数が無駄に上がるっ)
この体勢だと心臓の音はエルディスに伝わっているのかもしれない。
なんとも思春期の少女のような反応だ…確かにこの世界では16歳だけど。
いや、相手が悪いんだと思う。こんな美形はゲームでもないとお目にかかれない。と、一生懸命自分に言い訳をしておいた。26年間蔑ろにしてきたものの経験値が足りてないとか
…それは無いはずだ。多分。わたしは、落ち着こうと息を一つついた。
「ん~。そうだな、君が不思議に思っていることに答えるよ。僕の目的かな。僕には探しものをしているんだ。
この世界にあるのは分ってるんだけどね…靄がかかってて感知できない。」
羽根うさぎは、わたしたちの周りをふわふわと飛び回る。