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どうして、そこに居るんですか!?

そして、また世界が切り替わる。羽根うさぎと会話を交わす前と寸分変わらぬ光景がそこにあった。

目の前にはエルディス王子が居る。

「ディアナ?」

「申し訳ありません。では、よろしくお願いします」

わたしは、令嬢として完璧な微笑み優雅な仕草で王子の手を取った。パーティーの最初のダンスは、エスコート役とする決まりだ。わたしは、もちろん王子と踊らなくてはならない。前世?の記憶が戻ったといっても、今の自分の知識が減ることも何もなかった。ただ、突然16歳の体に26歳分の記憶が押し寄せたってところだろうか。


そつなく、ダンスを終えたわたしは、疲れたのでと断りをいれてテラスに出た。エルディス王子は、心配して同行を申し出たのだが…

「王子をお待ちの方が沢山いらっしゃいますわ…、すぐに戻りますから。」

そういってやんわりと断った。何時もならわたしも他の貴族たちとのダンスをしなくてはならないのだ。

これも社交。貴族としての嗜みなのだが…如何せん唐突の記憶復活は相当に身体に負担になるようだ。


実はダンス中も辛かったのだが。

(上手く誤魔化せたよね…?)

第一王子の婚約者…しかも婚約発表のパーティーだ。他国の目もある。毅然と振舞って当然なのだ。こればかりは、家の教育の賜物だろうか。


わたしは、ひとつ息をついた。


(とりあえず、ゲームのことでも思い出してみようかな)


舞台は、剣と魔法の実在する一つの王国の物語。

主人公は、突然空から降ってくる少女…だったな。

所謂自身投影型プレイヤーをターゲットにしていたためか、個性は薄かったと思う。顔もはっきりと覚えていない。というか無かった。…髪で表情を隠すタイプの絵だった。


主人公は、空から降ってきた時に運悪く?王城の庭に下り立ってしまう。そこを王国の騎士に保護されて…類まれな魔法の力を秘めていたために監視下に置かれると。そこから、恋になにやら忙しくなるって話。

選択肢が難しくて大概ノーマルEndに行き着くが…シナリオ的には基本的にGoodEnd多かったかな。BADENDは、魔力の暴走による世界崩壊…ってまったくもって救いがなかった気がする。


(崩壊…ってこれは、避けたいなぁ…。)


自分は、攻略キャラの一人の王子の婚約者か…ルート的にはエルディス王子ルートは最難関。

何を選べばいいか最もよくわからないルートだった。最初から婚約者がいるから略奪ってことになる。ちなみに、婚約者がいるって時点でわたしは攻略するつもりはなかったのだが、キャラに惹かれてしまった。


だけど、婚約者がどんな人物か実のところあまり記憶がない。ただ、王子に並び立つに遜色ない非常に可憐な少女だったような気がする。


自分のことのはずだが。

(確かに、容姿は人に誇れる程度にはある…かな。両親が超絶美形だし…ね。)

社交では容姿も武器だ…あって困ることはないし、家に恥じないように磨いてきたつもりだ。


(ああっ、いまはストーリー思い出さなきゃ…)


魔物が国を襲って、それを倒すための旅に出る…それが基本ルートだ。

魔力を秘める主人公がそれを助ける聖女という位置づけだった。


聖女は、相手に力を与えることができる。魔法剣とかね、ある人にはその人の魔法力を引き出す引き金になったりする。その方法は…その方法が直接的接触って…まあ口づけとかね。いろいろ。ね。


そこはスルーしておこう。


(うん。17歳未満禁止だっけ、コンシューマー機ぎりぎりのラインを攻めてた)

何せ自分ではない。ヒロインはそうやって攻略対象たちと関係を持つことで魔力使いまくるという日常を送ることになる。なんともご都合主義だ。そういうシーンが多かった無駄に。

ストーリーなんてそっちのけのキャラゲー。だから一部から受けたがクソゲーのレッテルをいただいたのだ。もうちょっとストーリーが良かったら化けたろうにと続編を待つ声は少なくなかった。


(うん。そうだね。そんなだったね。ってこんなものかな。ん…全部は細かく思い出せないなぁ)


「…ああ、紙とペンでもあれば記録しておけるのにっ」


「紙ならここにあるよ」


「ありがとうございます」


わたしは、何気に答えてくれた相手の差し出す紙とペンを受け取ってすらすらと思い出したことを一気に記した。そして、ふと見上げるとそこには笑顔の婚約者の姿。

「…って、ええっあの…王子っ」

「ディアナ、何をしているんだい?ぶつぶつ独り言を言いながらくるくる回るって…新しい遊びかい?」

エルディスは、笑顔だ。その端正な顔に微笑み。でも、何故だろう怖い。

出会ってから10年近く。しかも実のところゲームの世界の通りなのか、

初恋の相手なのだ。誰より見ていたつもりだ。

こんなこと思ったことなかったのに。

「えっと・・・あの」

(言えないっ…わたしたちゲームの登場人物でしたって…狂ったのかと思われるだけだ)

わたしが、どうにか言い繕おうと惑っているうちにさっきまで書いたメモを取り上げられた。素早い動きで。もう、避けることなんてできなかった。


そして、メモの内容をじっくりと眺めるエルディスをわたしは、ただ待つことしかできない。

しかし、さほど待つことはなかった。短時間で書いたものだ、

殴り書きでお世辞にもきれいな字でもなかったはずなのに、すぐに読み終えたようだ。

(さすが…ゲーム内最高スペック王子様)


「…ふうん…ディアナは、物書きするような趣味はなかったよね…?」

笑顔で質問、笑顔なのに答えなきゃならないという強迫されているような圧迫感。

「はい…多分。」

「多分…ね?」

なんとも中途半端な言葉だった。わたしは、俯いて次の言葉を待つ。実に蛇の前のカエルの気持ちとはこんな感じなのだろうか。


「…ゲームの世界…か。」

「っ!」

俯いていたわたしの、顎にエルディスの手が添えられる。そして上を向かされた。目の前には、端正な王子の顔。吐息すら感じるほどに近い。

当のわたしは、焦っていた。確かにわたしたちは婚約者同士だ。でもこんな接近をされたことなんて今だかつてなかったのだ。


「試してみようか…」

「えっ…」

何をと尋ねようとした言葉ごと唇を奪われる。しかも挨拶のキスではない。深いもの。

(なっ何?…)

ディアナは、いつの間にか抱き寄せられていた。息も絶え絶えに崩れ落ちそうになるのをエルディスは片手でなんなく支えてみせる。

(なんだか、身体の芯が熱いっ…)

この感覚は、魔法を発動するときのような熱さ。そして感じるのは自分とは別の

(王子の魔力…??)

「…っと。なるほどね。こうなるわけか」

ようやく解放された時には、かすかにエルディスの息も少し上がっているようだった。

エルディスの瞳がいつもの深い緑から金色にかわっている。

彼は、魔眼の持ち主なのだ。身体に魔力が満たされればそれは瞳に顕著に変化を示す。

ディアナは頭がぼおっとしていた。足元がおぼつかない。倒れそうになったのをエルディスは優しく抱き留めた。ディアナは為すすべもなくその胸に身体を預ける。


突然世界が暗転する。


「ったく…無茶するよね。王子様」


ふと、後ろで声がした。そう、さっきわたしにいろんな真実を突き付けたあの声。

わたしは、恐る恐る後ろを振り向いた。そこには、予想通りのものが居た。

ふわふわもこもこ可愛らしい羽根のついたうさぎのぬいぐるみが浮いていた。


「…無茶はしていないよ。だから今ここに居るんだ」


「えっ…?王子…?」

驚いて今度はエルディスのほうを向いた。そうすると困ったような顔を向けられる。


「そうだね、エルディス、君は、このゲームの世界の攻略キャラだ…君がそういう行動に出ればそれは、まさしくイレギュラーになる。ディアナにはさっき知らせたばかりだけどね」


イレギュラーが起これば、僕は君たちに少しずつ干渉できるからね…。



わたしは、混乱していた。自分が転生者だと知った時よりもずっと混乱している。


(どうして王子が…ええっ…なんでっ)



そうして、わたしのゲーム攻略がは始まったのだ。

ヒロインの攻略対象(ゲーム内最高スペック)と当て馬な脇役の婚約者という組み合わせで…どうなるかなんてわからない。わからなすぎる。

転生先の設定

タイトル「乙女と騎士の恋愛譚」

攻略キャラ



完全無欠の王子様

エルディス・トラウス<18>

トラウス国 第一王子。次期国王。

黒髪・深緑の瞳…基本何でもできる。

高い魔法力の割にコントロールが苦手。

読んだ文字に限らず何でもすぐに記憶できる。絶対的な記憶力を持つ。


現在は、執政の勉強もこなしつつ近衛隊長を務める。


備考:魔眼

瞳に強く魔力の影響が出ているために、力の弱いものは直視すら難しい。

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