ー最後の奇跡と最期の夕景ー
私は再び「無」の世界へ戻ってきた。
すると、段々意識が無くなってきた。
…嗚呼、やっと死ねるのか。
私は今までの思い出を思い出す。
初めてレイヤに出逢った時…、文化祭で一緒に屋台をやった時…、あの丘の上で告白された時。
…あれ…?
可笑しいな、いくら思い出してもレイヤの事しか思い出せないや。
レイヤ…楽しかった…。
…その時、崩壊寸前の聴力で微かに…微かにあの音が、ドアの開閉音が聞こえた。
レイヤの声は聞こえなかったけど、私の手が何か暖かい物に握られた。手の感覚なんてもう感じる筈無いのに。
でも、私は確信した。この暖かい手の感触…あの時、告白されて抱き締められた時の暖かさと同じだ…。
私は必死にその手を握り返そうとする。だけどどんなに力を入れても手はまるで反応を示してくれない。
…嫌だよ、レイヤ…まだ、一緒に居たい…よ…。
その時、私の目から頬を伝って何か暖かい物が流れたのを感じた。
「…ユミ…?」
これは、涙…?私、泣いてるの…?
「先生…っ!!」
レイヤの叫び声が病室に響き渡り、続いて凄い音量の足音が聞こえた。
「これは一体…っ!?」
駆けつけた医師も私の涙を見て驚いているようだ。
このまま起き上がってもう一度レイヤに抱き締められたい。しかし、意識は容赦なく薄れていく。もう時間が無い。
私は最後の力を振り絞り、叫んだ。
「レ…イヤ…今までありがとう…幸せ…だ…った…そして…」
さようなら。
「そんな…ユミ-…」
ここでレイヤの声も、残っていた意識も全て途絶えた。
医師は呆然とするレイヤの前でユミの脈や心拍などを確認した後、腕時計に視線を写した。
「午後5時32分、ご臨終です」
橙色の空。病室の窓に、暖かい光が差し込んだ。
読んでくれた方有難うございました(ξっ´ω`c)
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