ー現実ー
あんなに煩かった外の騒音も
身が千切れるような激痛も
嘘だったように感じない。
私は意識を取り戻した。しかし、何も見えないし、言葉を発する事すら不可能だ。ただ1つ、聴くという動作は遺されているようで、外の風の音が聞こえてきた。
私は死んだのだろうか?もしそうなら…。
私の感情が一気に「哀」で埋め尽くされる。けれど泣く事は出来なかった。どうやれば泣けるのか、それ自体を忘れてしまったようだった。
もう、レイヤとは逢えないのかもしれない。
私は一気に絶望に突き落とされる気分になる。
…と、その時だった。突如乱暴なドアの開閉音が聞こえたかと思うと、遅れて声も伝わった。
「先生!!ユミは助かるんですか!?」
その声は…レイヤ…?ユミって誰…あ、そうだった、私の名前だ。
息を荒らげながら尋常じゃない声で脅すように聞くレイヤに対し、また別の声…恐らく医者?は、こう返した。
「非常に残念ですが…手術の結果ユミさんは脳死と認められました」
「脳死…!?つまり、死んでしまったの、か…?」
レイヤは呆然とした声で尋ねる。
「法律的に言えば死んだ訳ではありません。ですがユミさんはもう、貴方と会話する事はおろか反応を示す事すら不可能でしょう」
淡々と話す医者の声が聞こえてくる。
「そんな…嘘、だ…あの時、追いつけさえすればこんな、事…」
レイヤのすすり泣くような声が聞こえた。
脳死になれば人の魂は戻ってこない。今の私の状態は魂の入っていない私の上を、私がただふわふわと浮いているだけじゃないのか…
とにかく、もう全てが終わったんだ。
私は考えるのを放棄した。それから暫くして、あの時の夢が現れるようになったんだ。