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覚悟

昼頃に目が覚めた。

目覚めはなんとも最悪だった。

血臭と腐臭に囲まれた中で気が付いたのだから無理もない。

昨夜に受けた体の傷や痛みは大分引いていた。

一番損傷の酷かった、炭化していた左腕もほぼ治っている。試しに動かしてみても、多少違和感が残っているくらいで、特に支障が出るということはなさそうだった。

ボロボロのグズグズの状態だったので、この回復力には驚いた。


「なんか最近、夜はこんなんばっかだな・・・。夜に出歩くのは控えたほうがいいかも」


仕方がなかった面があるとはいえ、連夜続けて色々と事が起こりすぎている。昨夜なんか、殺し合いなんかしているのだ。日本に居た時とは思いもしなかったことだ。


昨日の出来事を思い出す。

あのヒリついた感覚と、冗談抜きで殺されると分かった殺気。そんな中での興奮と、初めて人を殺した感触。

今でも右手に残る感触に、手の平を握ったり開いたりしながら感慨に耽る。


―――思ったより、なんとも思わないもんだな。気持ちのいいものではないけれど。


人を殺したことについては特には何も感じなかった。元々、殺しにきていた相手だ。やり返した所でなんの咎があるというのか。

最後は相手自身のトドメで死んでしまったので、明確にはそうではないのかもしれない。心臓ごと撃ち抜いたはずなので、どのみち殺した事実は変わらないだろうけど。

それよりも、命懸けの戦いの方の興奮が優っていた。格闘技をやっていた時よりも強い刺激と高揚感。最後に勝てたから言えることだが、生きている実感も強く感じられた。

しかし、この感覚は危険なものでもあると自覚もあった。こんなことを続けているようでは、なにかが壊れそうな気がする。

そもそもが借り物の力である。冗長なんてできるわけがない。


力に溺れたり、振り回されたりしないように、と戒めてこの場を離れる準備をする。

ここにいても、また昨日のようになりかねない。リューネの父親もいないようだし、これ以上この場でできることもない。

昨日の襲撃者は「龍の娘」と言っていたが、それは多分リューネのことだろう。尚更、リューネのところに早めに戻らないといけない。


戻る分にはルートが行きより分かっていたので、大分早く戻れた。

リューネもちゃんと言いつけ通りに待っていてくれたようだ。


「ヒビキさん!どうでしたか!」

私の姿を見るや、心配そうに駆け寄ってきた。

「残念だけど、お父さんはいなかったよ。でも死体とかそういうのは無かったから、もしかしたら生きているかもしれない」

そう言うと、リューネは嬉しそうな顔をするが、次の言葉でガックリと項垂れる。

「もしかしたら、の話だからね。あんまり期待しないほうがいいよ」

「・・・そう・・・ですよね・・・」

はっきりとした確証が無いので、そう言ってやることしかできない。


空気が重くなる一方なので、話を変えることにする。

「ところでさ、君の家まで行った時に争った後を見たんだけど、盗賊とかには思えない人らにやられたようだけど、何かやらかしたりしたの?」

「え?僕とお父さんは森の中から出ることもあまり無いので、そういうことをした覚えはないんですけど・・・」

「ふーん。でね、そいつらの死体からこういうのを拾ってきたんだけど、どんなものか分かる?」

戸惑うリューネの前に、死体から取ってきたプレートとナイフを見せる。

「こっちのプレートは傭兵の物ですね・・・。このナイフは・・・騎士の身分を持った人のですよ!?」

襲ってきた相手が誰なのか分かると、リューネはパニックになった。

「なんで!?僕達は何も悪いことしてないのに!なんでこんな、こんなことするの!?」

涙を滲ませながら、何度も、なんでなんで、と呟いている。

「その、騎士ってどんな奴らなの?そういう人らが動く理由は?」

「騎士は、貴族や王国等に仕える人達のことです。仕える場所によって様々ですが、基本的には国や領の守護、治安の維持が仕事です。他には魔物退治や領内のトラブルを片付けたり、盗賊の退治なんかもやっています。ですが、守護以外では傭兵に仕事を出していることが多いようです」

なるほど。騎士が動くということは、よっぽどのことなのか。

「とりあえず、何もしてはいないんだね?」

「やってないったら!」

確認の為に聞いてみると、絶叫するかのように否定してきた。

リューネは嘘は言ってないのだろう。父親の方はどうか知らないが。


「それでね、まだあるんだけど、私も襲われたんだよね」

そう言って、まだ治りかけの左腕を見せてやる。

痛くはないが、まだ火傷の痕があり、赤くなっている部分が多い。

「襲われたんですか・・・?」

「うん。黒尽くめの変な奴にね。それはもう倒したからいいんだけど、そいつが、龍の娘っていうのを探してたみたいなんだけど、それってリューネのこと?」

あの場から、唯一聞けたのはこんなものしかなかったので聞いてみる。

「・・・わかりません。さっきも言いましたけど、森から出たこともそんなにありませんし、お父さんからは何も聞いてません・・・」

これも嘘は言って無さそうだ。

「じゃあ、お父さんに聞くか、北に居るっていう同胞とやらを探すかかな。といっても、北ってどこまで行けばいいのやらだし、そもそもどこにいるかは具体的には分からないんだよね?」

「それも分かりません・・・すいません・・・」

ショボンと肩を竦めてしまうリューネ。

「別にいいよ。でも、これからどうしたものかね」

分からないことが多くて、指針が決まらない。ここまで関わった以上、リューネを放り出していくこともできない。リューネを連れて北にいるだろう同胞を手当たり次第に調べるのも面倒だ。

と、そこで危険だがどうにかできそうな手が閃いた。


「そうだ。襲ってきた奴らに直接聞いてみればいいんだ」

「な、何を言ってるんですかっ!また襲われるに決まっていますよ!」

この人頭おかしいんじゃないの、と言いたげなリューネだが、一応理由もある。

「多分そうなるだろうけど、リューネとお父さんのことを分かって襲っているフシがあるからね。手っ取り早く知るにはこれしかないと思うんだよね。それに、無視して北へ行くにしても、道中で襲われないとも限らないし。それに、私も殺されかけてるんだ。しっかりお礼参りしないとね」


最後の方は私怨以外の何物でもないが、やられたのなら、やり返さなければ気が済まない。

元の世界にいたときも、この性格のせいでいざこざは度々あった。例のクビになったことも、これが原因ではあるが、直す気はない。

悪いことも何もしていないのに、振りかかる理不尽が見逃せないのだ。それでも社会人になる頃には我慢も覚えたが、度が過ぎれば話は別だ。

子供っぽいと自覚はあるが、これはどうしようもない性分なのだ。


「それに、お父さんが、もしかしたら奴らに攫われているかもしれない」

この言葉でリューネは泣きそうになる。

「そうかもしれませんけど、どうしてヒビキさんがそこまでしなきゃならないんですか!僕とはなんの関係もない人じゃないですか!」

「そうだね。だから、私は一人でやるつもりだよ。リューネは逃げたほうがいいと思う。私が動けば、そちらにかまけてリューネには追手が掛かりにくくなるだろうからね」

「そういうことを言ってるんじゃありません!ヒビキさんにそこまでする理由がないって言ってるんです!」

どうやら怒っているようだ。最初に会った時のように睨みつけてくる。

「うん。でもね、ここまできて、じゃあ後はがんばってね、で投げ出せる訳ないじゃない?少なくとも、私より小さい子を放っとくことはできないかな」

「でも・・・」

「いいの、いいの。特に何かやりたいってわけでもないし、時間も腐るほどあるからね。ただの善意だから気にしなくてもいいよ。お節介だと思うかもしれないけどね」

リューネは顔を顰めて、最後の説得とばかりに呟く。

「でも、死んでしまうかもしれませんよ・・・」

「大丈夫、大丈夫。それに関しては、私は問題無いと思うよ」

心配かけないよう明るく振る舞うが、リューネには胡散臭く見えるようだ。

「何言ってるんですか。死んだらもう・・・」

そろそろ面倒くさいので、秘密をひとつバラしてしまおう。

「信じなくても構わないけど、私にはね、自称神様の加護があるから大丈夫」

「は?」

「死ぬほど痛い目は見るけど、余程のことがないと死なないから、大丈夫だよ」

説得は無理だと諦めたのか、呆れたのか、それ以上何も言うことはなく黙りこんでしまった。

リューネは溜息を大きく吐いて胡乱げにこちらを見やる。

「分かりました・・・。でも、僕も一緒に行きます。ヒビキさんだけを行かすなんてできませんし」

それに、お父さんにも会いたい。と最後に小さく呟いた。


さて、方針が決まった所でどうするか。

「じゃあ、もう日が暮れるし、明日から早速動こうか。薪残ってる?ご飯作るから、火出して」

料理する準備をしながらリューネに指示を出す。

「初めて会った時から聞きたかったんですけど・・・ヒビキさんは何で自分で魔法使わないんですか?」

この世界の住人は魔法が使えることが標準のようなので、当然の疑問なのだろう。

「ああ、私は魔法使えないから」

なんでもないかのように答えてやると、リューネは驚いて目を丸くしている。

「そういうわけだから、今後は魔法が必要な時は頼りにしてるからねー」

本当に大丈夫なんでしょうね、というヒビキの小さい抗議が聞こえたが、聞こえないフリをして料理を続けてやった。




翌日、日が出始めたあたりで動き出す。

「そういえばさ、私が戻ってくるまでに変わったことってあった?」

荷物をまとめながらリューネに聞く。

「ヒビキさんが戻ってくる少し前に、傭兵らしい三人組を見かけました。街の方へ向かっているみたいでしたけど。他には誰か通るといったこともなかったですね」

あの傭兵たちか。こちらに依頼の子供がいるのだから、村では当然見つからなかったのだろう。

「なるほどね。これからその街まで向かうつもりなんだけど、傭兵には注意してね。多分、リューネを探してる。見つかったら本当にどうなるか分からないから、私の側を離れないようにね」

「え?どういうことですか?」

よくわからない、といったふうに首を傾げるリューネ。

そういえば、リューネには言ってなかったか。

「さっき言ってた傭兵達なんだけどね、リューネに合う前に話をしたんだ。この辺で行方不明になっている子供がいるとかで、依頼があって探してる、てね。

リューネとお父さんが襲われた時には傭兵もいたって言ったでしょう?多分、そのときに逃げたリューネを、依頼の形で捜索しているんだと思う」

そう聞くと、リューネの顔が少し青ざめてきた。

「そういう訳だから、私の側から離れないでね。それと、指示にはちゃんと従うこと」

このあたりは少しキツめに言っておいた。勝手に動かれては守りにくい。

「・・・分かりました。これからどうしますか?」

「まずは、この先にあるという村に行くよ。街まではここからは丸一日かかるようだから、村で一泊してちょっと装備でも整えようか」

そう言って、岩場から道まで歩き出す。

あぁ、やっぱり太陽が出ているうちに歩くほうが気持ちがいい。

リューネは後ろからしっかりと付いて来ていた。衰弱していたが、大分回復したらしい。


村までは半日足らずで到着した。

ここでリューネ用にフード付きのマントを買ってやる。リューネは遠慮したが、あげたパーカーが赤色で派手なため、これで隠すことにした。ついでに銀髪も割りと目立つため、これの隠蔽用でもある。

ここらで資金の節約のため、村の近くで野営をすることにした。

ベッドでぬくぬく寝られるようになるのは、もっと先になりそうである。


更に翌日、やっと街に到着した。

領主がいる街らしく、人もそこそこ多い。見える人種も多岐にわたる。

辺境の割にはそこそこ栄えているらしく、商店や屋台の喧騒がお祭みたいで楽しい。

とはいえ、のんびり観光しているわけにもいかない。さっさと宿をとって、ここにリューネを待機させる。病み上がりであることには違いないので、念の為にベッドがあるところでしっかりと休ませる。


まずは情報収集からだ。

ユリス達は街には先に戻っているはずだから、この辺りから探りを入れていこう。

宿を出て、その辺に居る通行人に傭兵ギルドの場所を聞きながら、街の作りなんかを観察する。

今までの村では建物の作りに木材が多用されていたが、こちらではレンガも使っている。さらに漆喰で上塗りされており、とても頑丈そうだ。

すれ違う人達も目を奪われる者達ばかりだ。特に人間以外は興味深い。

ブルドやシェードのような狼や犬型の獣人。猫顔の獣人もいるかと思えば、人間に獣の耳や尻尾や体毛が一部だけ生えたような人種もいる。体はほぼ人間だが、腕だけが鳥の翼であったり、鱗の生えたトカゲが二足歩行しているようなものまでいる。

他にも、やたら青みがかった肌をしている者、角の生えたものと様々だ。

機会があれば、体を弄ってでも調べたいものである。


そうして歩いているうちに傭兵ギルドの建物に到着した。酒場や食堂も併設されており、少々騒がしい。

規模としてはそれほど広くも大きくもなく、といったところである。裏手に、同じ広さくらいの訓練場みたいなものもあった。

中に入ると、兎っぽい獣人の受付嬢らしき子が見えたのでそちらへ向かう。

「ハーダルフ領傭兵ギルド、『緑の猟犬』へようこそ。ご用件はなんでしょうか?」

「えーっと、こういうとこへ来たのは初めてなんだけど、ユリス、もしくはブルドかシェードっていう傭兵はいる?」

さっそく、例の傭兵組について聞き出す。彼女らは有名なのか、すぐに答えが返ってきた。

「ああ、あのユリスさん達ですね。彼女達は仕事から帰ってきてますね。失礼ですが、知り合いの方ですか?」

やはり、先に彼女達は街に戻っているらしい。

「ここに来る前に話をした事があるんだ。この街に来るようなら会わないかってね。で、ギルドに来てくれとも。本人に聞けば手っ取り早いんだけどね」

「畏まりました。彼女達は依頼の報告などで席を外していますが、すぐに戻るかと思いますよ」

その間はあちらで待たれては?と、食堂の椅子があるところまで案内してくれた。

「ユリスさん達が戻られましたら、伝えておきましょう。お名前をよろしいですか?」

「ヒビキ。色々ありがとうね」

「いえいえ。ここのご飯は美味しいですよ。よろしければ食べていってください。それではごゆっくり」

受付嬢は、兎の耳を垂らして礼をして離れていった。


待っている間に、食事の注文をして待つことにする。一食小銅貨5枚、そこそこ安い割にボリューム満点の食事であった。傭兵達が集まる場所らしく、肉が多く、カロリー高めそうな料理である。

リューネにお土産でいくつか包めないかな、と考えていると、先ほどの受付嬢が戻ってきた。

「ユリスさん達が戻られましたよ」

傭兵ギルドのカウンターに目を移すと、ユリス達の姿が見えた。

「わざわざありがとう。良かったら一つどう?」

お礼として、出てきた料理を示してみる。

「あらあら。じゃあチップとして頂きますねー」

肉の一切れを嬉しそうに摘んでいった。とても美味しそうである。


「やぁヒビキ。来てくれて嬉しいよ!」

ユリス達がこちらに来て対面の椅子に座る。ユリスはやたら嬉しそうだが、ブルドとシェードは辟易したような顔である。何かあったんだろうか。

「来るのが遅かったね。私達より先に街に行ったと思ったけど」

ユリス達も料理を注文して寛ぐ。

「ちょっとあってね。ていうかなんで遅いって分かる」

「この街の入口に門番がいただろう?聞いてみたけど、ヒビキらしい子はいなかったらしいからね。もしかしたら他の所に行っちゃったのかと思って寂しかったよ」

確かにいたような。特に挨拶することもなく入れたから覚えてなかった。

「コイツはお前さんをやたら気に入ったようでな・・・。門番が見てないって言った時のコイツの剣幕ときたら・・・。門番もいい迷惑だったろう」

シェードが溜息混じりに会話に入ってきた。

「なにやってんだアンタ」

ユリスを冷たい目で見ると、照れたように頭を掻く。

「それだけじゃないぞ。さっきまでは唐突に呆けることもあってな。その都度ヒビキヒビキと呟くんだ」

「え、そんなこと言ってない!」

ユリスが顔を顔を赤くして反対してるが、多分嘘だ。

獣人達のさっきの表情はこういうことか。


「そ、それより早くご飯食べなよ!冷めちゃうよ!」

ユリスが慌てて話を変える。丁度、ユリス達の料理も出てきたところだ。

少々気まずいながらも食事に入る。あの受付嬢が言ったとおり、確かに美味しかった。リューネの土産もなんとかしてみよう。


しばらく適当に雑談しながら食事を終え、お腹が落ち着いた所で話を切り出した。

「ああそうだ。ここに来るまでにこんな物を拾ったんだけど」

ポケットからプレートを取り出す。リューネの家の周囲にあった傭兵の死体から取ってきたものだ。

「な、なんでこれを持ってるんだ!」

ユリスが驚愕の色を浮かべ、ブルドとシェードは一瞬にして目が険しくなる。

緊張と少しの高揚感を感じながら覚悟を決めて踏み込む。

日も暮れてきている。

今夜も長くなりそうだと思いながら、肚を決めた。


―――さぁここからだ。

大変お待たせしました。これで1章折り返しくらいかな?まだまだ続けていきますのでよろしくお願いします。

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