プロローグ
―――ああ楽しい。
こんなに楽しいんだったら、人間であったころにもっと冒険でもなんでもしとくんだった。
まだ人間だった頃、私は世界があまり楽しくは無かった。
友達も両親も兄弟もいた。仲は良いほうではあったが、それでもなにか満たされるものはなかった。
世界全体から見てもそれなりに住みやすい現代日本で生まれ、中流家庭で育ってるのだから、そういう思いは贅沢なんだとは思う。
会社勤めしていたときに横暴な上司に腹を立て、真っ向から喧嘩をして上司共々社長にクビを言い渡された時に言われたことがある。
「君にはここは窮屈だったんだろうねぇ」
社長には迷惑かけたとは思っていたのに、すまなそうに言われてしまった。
その時に気づいたのは、自分が生きていくのはどうにも不自由な世界が広がりすぎていること。
自由にするには色々と余裕と責任がなければできないこと。
―――そして生きているうちには自由にできそうにないこと。
世渡りが下手で不器用なことは自覚していた。
それでもなんとか周りと摺り合わせて生活してきた。
次の就職でも探そうと地元に帰り、しばらくはのんびりしようと思っていた矢先、唐突に26年の人生は幕を閉じた。
世界から忽然と消滅し、私は人間を辞める機会と、新たな世界を生きる術を得たのだった。