第6章 said 沙菜
「・・・またかあ。」
白いベッドから重い体を起こしナースコール
「はい。受付です。」
「はい。203号室の松永です。起きました」
「よかったです。今、先生を呼ぶので安静にしていてください」
「はい」
看護士さんと話がおわってまた、白いベッドに体を預ける。
日常感のある病室。
私のパーカーや花の飾ってない花瓶。
ここは私の部屋だ。
きっとまた屋上で倒れたんだろう。
こんなことは少なくない。
私は病名がわからない、原因もわからない病気。
そして、三年前に事故にあい、母と父をなくした。
らしい。
私の病気は今までの出来事、人、物を忘れてしまう病気。
親の顔や表情さえも覚えていない。
ただ、昔のことで知っていることは高校に入ってすぐにっこの病気に気づき、こっちの大学病院にきた。
だから、ここから外にでたことはほとんどない。
ここ三年は独りぼっち。
最近はなれちゃったけど。
さっき、倒れて気を失ってた時、また、夢をみた。
いつもの夢。
最近はみなかったのになあ。
この夢は何かを忘れる前兆のように見る。
でも、毎回同じ夢。
暗闇の中、出口を探し走っている私。
走り続けていると、向こうから小さいけれど、とても輝いている光が向かってくる。
私もその光に近づく。
その光を手にしようとした瞬間にいつも目が覚める。
でも、最近わかったんだ。
あの光は何か思い出さなきゃいけない何かなんだって。
何かはわからないけれど。
それを、手術までに・・・。
私は一か月後に手術を受けることになっている。
最近は手術も珍しくなくなってきてしまった。
私の手術を治すため、三年間ずっと先生ががんばってくれている。
・・・でもそろそろ終わりだと思う。
次の手術はいつもみたいにはいかない。
今度は失敗したらもう二度と目を覚ますことができないらしい。
それに、私の体自体も限界がある。
ラスト一回のチャンス。
その前に一度だけ仮退院をお願いした。
ただし、体の状態が万全のとき。
こうも毎回倒れていたら、行こうも先生が首を縦に振らない。
コンコン
「はい。」
「体調はどうですか?」
「・・・いつも通りです」
そう微笑む。
「・・・そうですか。沙菜さん、今日はあなたに会わせたい人がいます。」
「?」
「・・・入ってきてください。」
ドアから入ってきた人は、この前病室に来た人だった。
ずっときにかかっていた。
だって、初めて会ったのに私の名前を知ってたから。
「こんにちは。松村 昂です。よろしく」
「・・・松永 沙菜です。よろしくお願いします。」
この前とはずいぶん違く、落ち着いている。
あの時は何か焦ってるように見えたのに。
「沙菜さん。友達になりませんか?」
知らなかったんだ。
いや、なんとなく感じていた。
この人が私の人生を変える人なんじゃないかって。
でも、この時点で私はこの人を避けるべきだった。
だって、この人を私の人生に巻き込んではいけないかったから。




