第10章
said 沙菜
手術になんか慣れたくなかった。
なぜか、最後になってすごい落ち着いている。
いつもは、寝ちゃって、起きたらまた自分の病室だったのに。
今回は違う。
もしかしたら二度と目を覚まさないかも。
・・・さっきの子のおかげなのかな。
不思議な子だったな。
なんで私の名前知ってたんだろ?
「沙菜!俺、待ってるから。お前が目覚めるまでまってるから。だから・・・がんばれ!」
私にも・・・待っててくれる人がいるんだね。
きっと、あの人は私がいつかに忘れた人だ。
あれから何度も思い出そうとしたけど、駄目だった。
手術室に入るとき、三つの人影が見えた。
1つは明らかにあの人だった。
・・・昂。
初めて思い出すことができた。
昂だ。昂。昂。
待っててくれるの?
なら、あたしは・・・がんばらなきゃ。
そう、目を閉じた。
said 昂
沙菜の手術から二週間がたった。
手術は成功したらしいが、沙菜は目を覚まさない。
俺は二日に一回はできる限り屋上に沙菜を連れてきている。
ここに来れば沙菜が目を覚ます気がして。
「沙菜。そろそろ話がしたいよ。」
「・・・」
沙菜からの返事はない。
「沙菜。笑ってよ。」
「・・・」
「沙菜。好きだよ。」
「・・・」
「沙菜。好きだから。」
「・・・」
「沙菜。俺から離れないで」
「・・・こ・・・う?」
車いすに座ってそっと目を開き俺を見る沙菜。
俺は一筋の涙を流す。
「昂・・・ただいま」
そういい、沙菜は俺の涙をぬぐった。
「沙菜・・・沙菜っ」
「ずっと、ずっと待っててくれたんだね。」
「・・・」
「昂。ありがとう。もう一回約束させて?」
「ん?」
「もう、昂から離れないよ。昂のこと、もう忘れないよ。」
「・・・あたりまえだろ。」
「ふふ。変わってないね」
「変わらねーよ。」
「え?」
「変わるときは沙菜も一緒だ。」
「・・・うん!」
「あたしね、やっぱり思った通りだったよ。」
沙菜が車いすから立ち上がりフェンスに体をよりかける。
「あたしー昂のこと、二度も忘れたけど心で覚えてた。昂のことーまた好きになった!あたしをまた、見つけてくれてありがとー!」
沙菜は、そう空に叫んだ。
俺は何も言わず、そんな沙菜の手を引き自分の体に抱き寄せた。
そして、沙菜の唇に自分の唇を添えた。
もう離れないからな。
そう、伝わるように。




